ウリエルとイストラエル
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/09/19 15:08 UTC 版)
アケメネス朝時代に起源をもつ四大天使の概念は、ミカエル、サリエル、ラファエル、ガブリエルの順で固定されており、後にこれはサリエル、ラファエル、ガブリエル、ミカエルの順になった。紀元前3世紀に遡る七大天使では、ラファエルが2番目、ミカエルが4番目、サリエルが5番目でガブリエルが7番目である。 死海文書のアラム語版の『エノク書』9章において、四大天使の2番目の天使はשריאと綴られており、欠落している最後の文字を補うとשריאלで、サリエルを指す。ここの四大天使の記述は3番目が欠落しているものの、最初がミカエルで最後がガブリエルなので、古い四大天使順と一致する。しかし、この古い四大天使の順番と綴りの両方で正確なのはアラム語版のみであり、2番目の四大天使はギリシア語の各版でウリエルに、ゲエズ語の各版ではウリエルに加えてサリエルとウリエルの折衷的な表記である"Sur'el"、"Suryal wa' Uryal"になっている。 『エノク書』10章で、神がノアに大洪水の予言を伝える天使が登場するが、この天使がサリエルになっている版はない。しかし、10章は以降の預言の場面でラファエル、ガブリエル、ミカエルの順が遵守されていることから、新しい方の四大天使の順番だと考えられる。ギリシア語の写本ではSyncellus版でウリエルになっており、Panopolitanus系統の版ではイストラエル(Ιστραηλ)である。ゲエズ語の諸版ではイストラエルの派生語と思しき名と、ウリエルとサリエルを混ぜた名の両方が見られる。 『エノク書』20章ではサリエルとウリエルの両者を七大天使としており、ギリシア語のPanopolitanus系統の写本のみがשריאלに忠実なギリシア文字の音写であるΣαριηλ(ラテン文字ではSaliel)という表記で伝えている。残りの版のサリエルに該当する部分はサラキエルなどのサリエルから派生した綴りになっている。 このように、エノク書の写本においてサリエルは四大天使としての役割をウリエルとイストラエルに取って代わられた。この原因として、イストラエルはイスラエル(Ισραηλ)から派生した綴りであり、天使のイスラエルはヤコブの別名である。『Prayer of Joseph(英語版)』では、イスラエルはウリエルに勝る最高の天使とされるほどなので、ヤコブとノアの子孫を自称する選民としてのユダヤ人は、大洪水を告げる天使に、より格の高いイスラエルを好んだと考えられる。また、ウリエルに関しては、後の時代、エノク書に記されたウリエルの役割である「タルタロスの守護」をギリシア人が重視していたことが挙げられる。
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