もはや万能ではなくなった現実主義
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/06/11 09:36 UTC 版)
「歴史の終わり」の記事における「もはや万能ではなくなった現実主義」の解説
政治学における現実主義とは、国際情勢をパワーポリティックス、物理的な軍事バランスによって判断する考えである。国際関係論で大きな影響力を持つ考え方だが、フクヤマは脱歴史世界ではもはやこの考えは有効ではないと指摘している。 例えば、ソビエト連邦が崩壊した原因は、軍事的に弱体化したためではない。ソビエト連邦は、究極兵器である核兵器を持ったまま崩壊した。これは、現実主義や軍事バランス論では説明できないことだ。ソビエト連邦が崩壊した原因は、軍事的に弱体化したためではなく、政府(ソビエト連邦共産党)が支配の正統性を失ったからである。また、アメリカとカナダの国境線は、軍事的には真空地帯であるのにもかかわらず、どちらもその隙をついて侵攻を企てたりはしない。かつては植民地主義と世界大戦の震源地となったヨーロッパも、今ではその国境線沿いには、治安維持程度の警察力しか配置していない。 民主国家間では、軍事的に強いから攻め込まれない、軍事的に弱いから攻め込まれる、などという現実主義的なパワーポリティックスは通用しない。民主国家同士では、トラブルは民主的な対話によって回避され、互いの主権や正統性を評価し合っているため、それに異議を唱える軍事行動などは起こらないのである。これは民主的平和論と呼ばれ、その論客であるマイケル・ドイルやブルース・ラセットをフクヤマは高く評価している。しかし、民主国家同士の大規模な戦争はもはや起こらないだろうが、今後も民主国家と独裁国家の闘争は起こりうることであり、そこではまだ現実主義や武力外交が有効だろうと考えている。 ヒトラーを宥和政策でとめることができなかったように、独裁国相手に対話や協議だけで問題が解決すると考えるのは楽観的すぎるのであり、逆に、民主国家が民主国家にたいして、すぐ武力を誇示したり威嚇的行動をとるのは好戦的すぎるのである。
※この「もはや万能ではなくなった現実主義」の解説は、「歴史の終わり」の解説の一部です。
「もはや万能ではなくなった現実主義」を含む「歴史の終わり」の記事については、「歴史の終わり」の概要を参照ください。
- もはや万能ではなくなった現実主義のページへのリンク