こぶし文庫 戦後日本思想の原点とは? わかりやすく解説

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こぶし文庫 戦後日本思想の原点

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2025/04/02 09:49 UTC 版)

『こぶし文庫 戦後日本思想の原点』(こぶしぶんこ せんごにほんしそうのげんてん)は、1995年(平成7年)1月から2014年9月にかけてこぶし書房によって刊行された、全60巻の思想叢書である。単に『こぶし文庫』とも。

概要

こぶし書房創業者で新左翼系思想家革マル派の理論的指導者)たる黒田寛一にさまざまな形で影響を与えた、戦後日本思想の原点といえる諸著作を収録した叢書であり、日本の敗戦50年を記念して第一期分の刊行が開始された。刊行は中途2回の断絶をはさんで19年間にわたり継続され、2014年9月、第三期分(全10巻)の刊行完了をもって完結した[1]

各巻はおおむね本文テクストのほか、編集担当者による「解説」、著者の「略年譜」「著作一覧」などが付される内容構成となっているが、刊行時点で著者が健在であった第48巻の大内力[2]『国家独占資本主義』、第49巻の鶴見俊輔『アメリカ哲学』については、著者によって新たに書き下ろされた序文(まえがき)が付されている[3]。また本叢書の構想に関わった黒田自身も第28巻の田辺元『歴史的現実』の編集・解説を担当している。

編集月報として、著者・著作についての関係者の回想を収録した小冊子『場 UTOPADA』が、1995年4月刊の第3巻(三枝博音『技術思想の探究』)および第4巻(坂田太郎『イデオロギー論の系譜』)より付されるようになり、2011年9月までに40号が刊行されている。

沿革

こぶし文庫「第一期」は黒田寛一が若き日に学び、理論的に格闘した戦後三大論争(主体性論・技術論価値論)を中心に、自然弁証法ヘーゲル論・認識論・ソ連論をめぐる諸著作を収録しており、1995年1月の梅本克己『唯物史観と道徳』(第1巻)をもって刊行が開始され、2000年5月の遊部久蔵『価値論と史的唯物論』(第25巻)をもって完結した。

続いて間をおかず刊行開始となった「第二期」では、戦争を挟んだ前後のそれぞれ50年に対象を拡げ、京都学派哲学とその流れを汲む主要著作を収録しており、2000年7月木村素衛『美の形成』(第26巻)をもって刊行開始、2008年5月の小山弘健『戦後日本共産党史』(第50巻)で完結した。

第二期完結後しばらくの間『こぶし文庫』は刊行を休止していたが、2006年に死去した黒田の生前の構想に基づき、戦後の文学論・芸術論・科学論・資本主義論争など各分野に収録対象を拡げる予定の「第三期」が第51巻の辻哲夫『物理学史の道』をもって2011年9月に刊行開始となり、2014年9月の宇野弘蔵『増補 農業問題序論』(第60巻)の刊行で完結した。こぶし書房は第3期の完結をもってシリーズ全体のひとまずの完結としている。なお、こぶし書房は2024年に廃業した。

刊行書目

( )内は当該巻の編集・解説担当者。第24・30・36巻の「~エッセンス」は、作者の論文などを抜粋して収録したもの。

第一期

  • 第1巻:梅本克己 『唯物史観と道徳』 (武井邦夫) - 1995年1月刊。
  • 第2巻:田辺振太郎 『自然の弁証法研究』 (市野宏司) - 1995年1月刊。
  • 第3巻:三枝博音 『技術思想の探究』 (飯田賢一) - 1995年4月刊。
  • 第4巻:坂田太郎 『イデオロギー論の系譜』 (田中義久) - 1995年4月刊。
  • 第5巻:宇野弘蔵 『『資本論』と社会主義』 (降旗節雄) - 1995年6月刊。
  • 第6巻:武市健人 『ヘーゲル論理学の体系』 (清水正徳) - 1995年6月刊。
  • 第7巻:北川宗蔵 『経済学方法論』 (中村福治) - 1995年9月刊。
  • 第8巻:舩山信一 『日本哲学者の弁証法』 (服部健二) - 1995年9月刊。
  • 第9巻:甘粕石介 『現代哲学批判』 (鈴木正) - 1995年12月刊。
  • 第10巻:高島善哉 『価値論の復位』 (渡辺雅男) - 1995年12月刊。
  • 第11巻:岡邦雄 『新しい技術論』 (飯田賢一) - 1996年3月刊。
  • 第12巻:山田坂仁 『認識論と技術論』 (いいだもも) - 1996年3月刊。
  • 第13巻:甘粕石介 『ヘーゲル哲学への道』 (許萬元) - 1996年6月刊。
  • 第14巻:務台理作 『場所の論理学』 (北野裕通) - 1996年6月刊。
  • 第15巻:三枝博音 『ヘーゲル・大論理学』 (野崎茂) - 1996年9月刊。
  • 第16巻:三浦つとむ 『この直言を敢てする』 (津田道夫) - 1996年9月刊。
  • 第17巻:宇野弘蔵 『価値論』 (降旗節雄) - 1996年12月刊。
  • 第18巻:対馬忠行 『クレムリンの神話』 (山口勇) - 1996年12月刊。
  • 第19巻:松村一人 『変革の論理のために』 (仲本章夫) - 1997年4月刊。
  • 第20巻:村上信彦 『女について:反女性論的考察』 (篠原三郎) - 1997年4月刊。
  • 第21巻:木村素衛 『表現愛』 (小林恭) - 1997年9月刊。
  • 第22巻:本多謙三 『現象学と唯物弁証法』 (久野収) - 1997年9月刊。
  • 第23巻:竹内好 『日本イデオロギイ』 (鈴木正) - 1999年11月刊。
  • 第24巻:三木清 『三木清エッセンス』 (内田弘) - 2000年2月刊。
  • 第25巻:遊部久蔵 『価値論と史的唯物論』 (飯田裕康) - 2000年5月刊。

第二期

  • 第26巻:木村素衛 『美の形成』 (村瀬裕也) - 2000年7月刊。
  • 第27巻:梅本克己 『過渡期の哲学』 (田辺典信) - 2000年10月刊。
  • 第28巻:田辺元 『歴史的現実』 (黒田寛一) - 2001年1月刊。
  • 第29巻:高山岩男 『世界史の哲学』 (花沢秀文) - 2001年5月刊。
  • 第30巻:九鬼周造 『九鬼周造エッセンス』 (田中久文) - 2001年9月刊。
  • 第31巻:戸坂潤 『戸坂潤の哲学』 (吉田傑俊) - 2001年12月刊。
  • 第32巻:廣西元信 『資本論の誤訳』 (国分幸) - 2002年3月刊。
  • 第33巻:高坂正顕 『歴史の意味とその行方』 (高坂史朗) - 2002年10月刊。
  • 第34巻:田辺元 『仏教と西欧哲学』 (小坂国継) - 2003年3月刊。
  • 第35巻:神山茂夫 『天皇制に関する理論的諸問題』 (津田道夫) - 2003年6月刊。
  • 第36巻:中井正一 『中井正一エッセンス』 (鈴木正) - 2003年7月刊。
  • 第37巻:滝沢克己 『西田哲学の根本問題』 (小林孝吉) - 2004年7月刊。
  • 第38巻:上山春平 『弁証法の系譜:マルクス主義とプラグマティズム』 - 2005年3月刊。
  • 第39巻:武市健人 『弁証法の急所』 (許萬元) - 2005年4月刊。
  • 第40巻:田中吉六 『史的唯物論の成立』 (渡辺啓) - 2005年6月刊。
  • 第41巻:清水正徳 『自己疎外論から『資本論』へ』 (降旗節雄[4]) - 2005年11月刊。
  • 第42巻:藤本進治 『認識論』 (山本晴義) - 2006年3月刊。
  • 第43巻:加藤正 『弁証法の探究』 (降旗節雄) - 2006年7月刊。
  • 第44巻:古在由重 『古在由重の哲学』 (吉田傑俊) - 2006年9月刊。
  • 第45巻:宇野弘蔵・梅本克己 『社会科学と弁証法』(いいだもも) - 2006年11月刊。
  • 第46巻:渡邉寛 『レーニンとスターリン:社会科学における』 (川上忠雄) - 2007年2月刊。
  • 第47巻:三木清 『三木清東亜協同体論集』 (内田弘) - 2007年4月刊。
  • 第48巻:大内力 『国家独占資本主義』 - 2007年7月刊。
  • 第49巻:鶴見俊輔 『アメリカ哲学』 - 2008年1月刊。
  • 第50巻:小山弘健 『戦後日本共産党史:党内闘争の歴史』 (津田道夫) - 2008年5月刊。

第三期

  • 第51巻:辻哲夫 『物理学史への道』 (池内了) - 2011年9月刊。
  • 第52巻:吉本隆明 『芸術的抵抗と挫折』 (松本昌次) - 2012年2月刊。
  • 第53巻:小田切秀雄 『人間の信頼について』 (川村湊) - 2012年7月刊。
  • 第54巻:廣重徹 『戦後日本の科学運動』 (吉岡斉) - 2012年9月刊。
  • 第55巻:柴田高好 『現代とマルクス主義政治学』 - 2012年12月刊。
  • 第56巻:鈴木正 『日本思想史の遺産』 - 2013年3月刊。
  • 第57巻:辻哲夫 『日本の科学思想:その自立への模索』 - 2013年5月刊。
  • 第58巻:対馬忠行 『日本資本主義論争史論』 - 2014年1月刊。
  • 第59巻:小山弘健山崎隆三 『日本資本主義論争史』 - 2014年5月刊。
  • 第60巻:宇野弘蔵 『増補 農業問題序論』(田中学) - 2014年9月刊。

脚注

  1. ^ 「こぶし文庫―戦後日本思想の原点」 60点 完結!”. こぶし書房. 2016年5月2日時点のオリジナルよりアーカイブ。2025年4月2日閲覧。
  2. ^ 当該巻の刊行後、2009年死去。
  3. ^ なお、第41巻『自己疎外論から『資本論』へ』の著者・清水正徳は、前掲の通り第6巻の武市健人『ヘーゲル論理学の体系』の編・解説を担当しているが、第41巻刊行時には物故(2004年没)している。
  4. ^ 解説のみ担当。自己疎外論から『資本論』へ”. こぶし書房. 2014年2月28日時点のオリジナルよりアーカイブ。2025年4月2日閲覧。

参考文献

  • 『場 UTPADA』40(2011年9月)「編集手帖」。

関連項目

外部リンク




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