鉛筆 特性と用途

鉛筆

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/01/21 17:05 UTC 版)

特性と用途

鉛筆は筆記・書写・描画、製図などに幅広く使用される。通常の鉛筆の筆跡は消しゴムを用いれば消すことができ、そのため公的な書類などには用いることができない場合も多い。その筆跡は、保管状況によっては数年経つと輪郭がぼやけ、掠れたような感じになる。これは、鉛筆の芯の主成分である炭素顔料であり、紙の表面に付着するだけで、中までしみこまないことに由来する。特に色の濃い鉛筆の芯ほど擦れやすい。これを防ぐには、表面をフィキサチーフのような透明塗料で覆い、炭素の粒子を固定する必要がある。反面、鉛筆の筆跡はインクのように経年変化によって色が変化したり消えたりすることはない。また水分によって筆跡が滲まないため航海日誌の記述に用いられてきた。消去防止や湿式の複製を目的とした特殊な鉛筆として、水溶性色素を含んだインデリブル・インク鉛筆やコッピー鉛筆英語版[4]と呼ばれるものもあるが、現代では稀な存在となっている。

書き味の軟かさや太さから、美術のデッサン鉛筆画などにもよく用いられる。各種の顔料成分で固めて芯とした色鉛筆も事務から美術用に幅広く用いられる。これは黒以外もさまざまなの線を描くための鉛筆であり、その筆跡は通常の鉛筆に比べて消しにくい。なお、消しゴムで消すことのできる製品もある。色鉛筆の中でも特に赤鉛筆は、原稿の校正や試験答案などの採点にしばしば用いられる。また、光学カメラを用いる印刷の原稿を作る際には、青鉛筆が用いられる。赤鉛筆と青鉛筆を棒磁石のように合体させた「赤青鉛筆」または「朱藍鉛筆」と呼ばれる、一方が赤色、もう一方が色の鉛筆も販売されている。

水彩色鉛筆のように絵画用に特化しているものもある。これは顔料を水溶性の溶媒で練り上げた芯を用いた色鉛筆で、描いたあと、水を含ませた筆でなぞると水彩画のような風合いになる。また、芯を固形水彩絵具のように使用することも可能である。油脂分を増した軟質色鉛筆(グリースペンシル)は筆記可能な対象材質が幅広いのが特徴で、産業用固形マーカーリトグラフ用描画材としても使われる。

その他の美術用鉛筆には、パステル芯を用いたパステル鉛筆や、木炭粉を固めた芯を用いたチャコールペンシルコンテ同様にカーボンブラックサンギュイン英語版セピアや白色顔料などを固めた芯を用いたスケッチングペンシル、これらの水溶性のものなどがある。黒鉛鉛筆は主原料の鱗状黒鉛に由来して筆跡が金属光沢を帯びる特徴が好まれるが、一方、色鉛筆などの黒色に主に用いられるカーボンブラックは金属光沢が少なく、黒みがより強い特徴がある[5]

近年はシャープペンシルの普及によって、鉛筆の筆記用としての需要は減少している。しかし、大学入試などでは、マークシートの読み取りミス防止のためにマークシートへの記入は鉛筆に限定されることが多く、マークシート読みとり機メーカーも、鉛筆で書くことを推奨している。ほかにも、手書きで楽譜を書くときなど、一つのペン先で太さの違う線が書けると便利なときなどには、あえて鉛筆が選択されることもある。また、学校の方針で、シャープペンシルを禁止している小学校も多い。

なお、眉などを描くための化粧用のものとして化粧用鉛筆がある[6][7]


注釈

  1. ^ 大聖寺下屋敷町の久法寺(きゅうほうじ)の墓石の法名は「制鉛院造筆日肇居士」。

出典

  1. ^ [研究社]『羅和辞典 (研究社)|羅和辞典』による。
  2. ^ "pencil" Online Etymology Dictionary 2019年12月1日閲覧
  3. ^ "pen" Online Etymology Dictionary 2019年12月1日閲覧
  4. ^ Liz Dube, The Copying Pencil: Composition, History, and Conservation Implications, The Book and Paper Group ANNUAL, Volume Seventeen 1998, The American Institute for Conservation of Historic and Artistic Works.
  5. ^ 仙石正. 鉛筆芯用炭素材料. 炭素, 3 (2), pp. 72-76. 炭素材料学会, 1953.
  6. ^ 意匠分類定義カード(B7) 特許庁
  7. ^ 意匠分類定義カード(F2) 特許庁
  8. ^ 日本産業標準調査会:データベース-廃止JIS規格リスト Z6605
  9. ^ JIS S 6006日本産業標準調査会経済産業省
  10. ^ 鉛筆, 鉛筆デッサン, 鉛筆を削る, 造形ファイル, 武蔵野美術大学, 2015年8月19日閲覧.
  11. ^ 夏目幸明「その01 鉛筆 三菱鉛筆」『ニッポン「もの物語」』講談社、2009年6月、14 -頁。ISBN 9784062153157 
  12. ^ えんぴつのナゾを解く|三菱鉛筆株式会社”. 2015年10月10日閲覧。
  13. ^ 山岸勝榮の日英語サロン : 鉛筆の芯の硬さとFの略号”. 2015年10月10日閲覧。
  14. ^ やじうまミニレビュー 三菱鉛筆「筆鉛筆」”. 家電Watch. インプレス (2010年11月11日). 2020年9月29日閲覧。
  15. ^ 世界最多となる硬度幅を実現! 10H〜10Bまでの全22硬度を揃えた鉛筆セット 『ハイユニ アートセット』10月1日(水)新発売』(プレスリリース)三菱鉛筆、2008年9月18日https://www.mpuni.co.jp/news/pressrelease/detail/20130326153526.html 
  16. ^ ステッドラー マルス ルモグラフ製図用高級鉛筆 世界一の全24硬度に”. 趣味文CLUB. エイ出版社 (2019年5月15日). 2021年11月12日時点のオリジナルよりアーカイブ。2020年9月29日閲覧。
  17. ^ a b c d 子どもに人気は「規格外の10B鉛筆」…文字が太く、見栄えがいい - 読売新聞 2023年3月10日閲覧。
  18. ^ a b c d 鉛筆は「2B」今どきの小学生、原因は筆圧の低下? - 朝日新聞 2023年3月10日閲覧。
  19. ^ a b 令和4年度大学入学者選抜に係る大学入学共通テスト受験上の注意” (pdf). 大学入試センター. p. 10 (2021年12月28日). 2022年2月27日閲覧。
  20. ^ Norman, Jeremy. “Invention of Modern Pencil Lead”. From Cave Paintings to the Internet. 2012年11月6日閲覧。
  21. ^ ヘンリー・ペトロフスキー 著、渡辺潤・岡田朋之 訳『鉛筆と人間』晶文社、1993年11月。ISBN 978-4-7949-6142-6 
  22. ^ 松田憲二『えんぴつのはなし』さ・え・ら書房〈人間の知恵 (3)〉、1981年4月、20頁。ISBN 978-4-378-03703-5 
  23. ^ 品川白煉瓦(株)『創業100年史』渋沢社史データベース
  24. ^ 田中盛秀黒鉛を発見して鉛筆製造を開始新聞集成明治編年史第二卷、林泉社、1936-1940
  25. ^ KAGA旅まちネット大聖寺 山ノ下寺院群・加賀市観光情報センター
  26. ^ “鉛筆国産、加賀・大聖寺が最初 三菱よりも早く”. 北國新聞. (2010年8月24日). オリジナルの2015年1月4日時点におけるアーカイブ。. https://web.archive.org/web/20150104090354/http://www.hokkoku.co.jp/subpage/HT20100824401.htm 2014年12月30日閲覧。 
  27. ^ 『今日は何の日:話の365日』(四訂版)PHP研究所〈PHPハンドブックシリーズ〉、2006年11月。ISBN 978-4-569-65804-9 
  28. ^ 日本鉛筆工業協同組合100周年記念誌年表
  29. ^ 「地元に販路を開拓 鉛筆製造業」『日本経済新聞』昭和25年9月4日2面
  30. ^ 朝比奈貞一「日本現存最古の鉛筆 - 徳川家康がもらった品」『神奈川県立衛生短期大学紀要』第2巻、神奈川県立衛生短期大学、1970年、ISSN 03886042 
  31. ^ 樋口清美 著書 p.38 - 47
  32. ^ 内藤俊彦、西本洋二・村山斌夫・小井川百合子「伊達政宗の「鉛筆」調査報告 I〜V」『仙台市博物館調査研究報告』第9巻、仙台市博物館、1989年3月。 
  33. ^ 樋口清美 著書 p.55
  34. ^ サヨリ - ぼうずコンニャクの市場魚貝類図鑑。2016年4月23日閲覧。
  35. ^ 日本で唯一のプロ鉛筆彫刻家ってなに? 鉛筆の芯を削って文字や模様を作るアートがすごすぎる - ねとらぼ





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