戸籍 概要

戸籍

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/04/23 10:17 UTC 版)

概要

古代以来の中国華北社会では(こ)と呼ばれる形態の緊密な小家族が成立し、これが社会構造の最小単位として機能していた。そのため政権が社会を把握するために個々の戸の把握が効果的であり、支配下の民の把握を個人単位、あるいは族的広域共同体単位ではなく、戸単位で行った。この戸単位の住民把握のために作成された文書が戸籍である。中華王朝や漢民族世界が華北から拡大しても、政権の民衆把握は戸籍を基礎として行われ、日本、朝鮮半島国家など周辺地域の国家でも戸籍の制度は踏襲された。

日本では律令制を制定して戸籍制度を導入した当時(「古代の戸籍制度」参照)、在地社会の構造は、中国大陸の華北のように戸に相当する緊密な小家族集団を基礎としたものではなかった。平安時代になって律令制衰退後、朝廷による中央政府が戸籍によって全人民を把握しようとする体制は放棄され、日本の在地社会の実情とは合致しなかった戸籍制度は、事実上消滅した。地域社会の統治は現地赴任の国司筆頭者(受領)に大幅に権限委譲し、さらに受領に指揮される国衙では資本力のある有力百姓のみを公田経営の請負契約などを通じて把握した。彼らを田堵負名とし、民衆支配はもっぱら彼ら有力百姓によって行われるようになった。その後、上は貴族から下は庶民に至るまで、家(いえ)という拡大家族的な共同体が広範に形成されていき、支配者が被支配者を把握しようとするとき、この自然成立的な「家」こそが把握の基礎単位となった。

全国的な安定統治が達成された徳川時代幕藩体制下でも、住民把握の基礎となった人別帳は、血縁家族以外に遠縁の者や使用人なども包括した「家」単位に編纂された。明治時代になると、中央集権的国民国家体制を目指すため、「家」間の主従関係、支配被支配関係の解体は急務であった。戸籍を復活させて「家」単位ではなく「戸」単位の国民把握体制を確立し、「家」共同体は封建的体制下の公的存在から国家体制とは関係のない私的共同体とされ、「家」を通さずに国家が個別個人支配を行うことが可能となった。

このように戸籍制度の復活は封建的な主従関係、支配被支配関係から国民を解放するものであったが、完全に個人単位の国民登録制度ではないため、婚外子、非嫡出子問題、選択的夫婦別姓問題などの「戸」に拘束された社会問題も存在する。これに対し、国民主権時代の現代では、より個人が解放された制度を目指して、戸籍制度を見直す議論も存在する。これらのうち、婚外子・非嫡出子問題については、2013年9月4日、相続において婚外子を差別する民法の規定が違憲であるとの判断を最高裁判所が下した[1]


注釈

  1. ^ ただし、これらが日帝残滓であるという議論については否定した。
  2. ^ 2021年3月現在、戸籍と個人番号の直接の対応付けは無く、また戸籍制度において特定の者を一意に識別可能となる番号・記号も存在しない。ただし、個人番号と住民票、住民票と戸籍の附票は相互に連携している。
  3. ^ 2022年(令和4年)8月13日現在、皇室の構成員は、天皇・上皇・皇族15名の計17名。
  4. ^ 運転免許証の申請に当たっては住民票の抄本提出を要するが、生まれながらの皇族であった天皇・上皇・文仁親王はどうやって免許を取得したのかという疑問が生じる。
  5. ^ 不動産登記自動車検査証など登録者の住所を基準に権利義務が発生するもので、名義変更等に際して登録時と住所が異なると、登録済み住所と現住所の連続性を証明して手続者が同一人物であることの証明を求められる場合があり、該当戸籍に入っていた当時の住所履歴が記録されている「戸籍の附票」の写しを用いることがある。連絡先不明の相続人など、血縁関係者の住所を調べる際にも戸籍の附票の写しは使用される。戸籍の変更が頻繁な場合に連続性や同一性の証明が難しい場合がある。運転免許証日本国旅券は本籍地を記載される。
  6. ^ 「戸籍筆頭者ではない初婚の男性と、戸籍筆頭者である再婚の女性が、結婚して男性の氏を名乗り新しい戸籍が作られる場合」に入籍を用いることは誤りである。互いが初婚の場合であって、分籍して一人戸籍を有する男性の氏を名乗ることを女性が選択し、その籍に入る場合においては入籍となる[28]が、この場合でも届け出は「婚姻届」である。婚姻の対義語は離婚、入籍の対義語は除籍、である。
  7. ^ 住民票の続柄は総務省の通達によるものであり、法律に記述があるものではないことに注意されたい。

出典

  1. ^ a b “婚外子相続差別は違憲 最高裁大法廷”. 日本経済新聞. (2013年9月4日) 
  2. ^ “国務院関於進一歩推進戸籍制度改革的意見(全文)” (中国語). 中国新聞網. (2014年7月30日). http://www.chinanews.com/gn/2014/07-30/6439778.shtml 
  3. ^ 中国各都市が戸籍取得制限を緩和、人材確保に力”. AFP. 2020年12月26日閲覧。
  4. ^ 世界大百科事典 第2版. “新羅帳籍”. コトバンク. 2018年6月4日閲覧。
  5. ^ 趙慶済「2005年2月3日戸主制憲法不合致決定に関して」(PDF)『立命館法学』第302号、立命館大学、2005年、36-95頁。 
  6. ^ 日本大百科全書(ニッポニカ)『戸籍』 - コトバンク
  7. ^ 昭和22年12月22日法律第224号「戸籍法を改正する法律」、昭和22年12月29日[[司法省 (日本)|]]令第94号「戸籍法施行規則」
  8. ^ https://www.moj.go.jp/content/000005180.pdf 戸籍法部会資料「戸籍法見直しに関する論点(1)」法務省 (PDF)
  9. ^ ウィキソースには、同年4月8日法務省告示第174号「戸籍、除籍及び原戸籍が滅失した件」の原文があります。
  10. ^ 東日本大震災により滅失した戸籍の再製データの作成完了について”. 法務省 (2011年4月26日). 2011年6月21日閲覧。
  11. ^ 最高裁判所大法廷決定 2013年9月4日 民集第67巻6号1320頁、平成24(ク)984、『遺産分割審判に対する抗告棄却決定に対する特別抗告事件』。
  12. ^ 戸籍謄抄本、どの自治体でも取得可能に 改正法が成立”. 日本経済新聞社 (2019年5月24日). 2020年1月18日閲覧。
  13. ^ “『広報みくら』第362号 令和2年9月”. 御蔵島村. (2020年9月). http://www.mikurasima.jp/data/koho/362.pdf 2020年10月3日閲覧。 
  14. ^ 法務省説明資料(読み仮名の法制化等の検討)” (2020年9月25日). 2021年8月1日閲覧。
  15. ^ “【所在不明高齢者】100歳以上で戸籍上「生存」23万人、150歳以上も884人 法務省”. MSN産経ニュース. (2010年9月10日). オリジナルの2010年9月11日時点におけるアーカイブ。. https://web.archive.org/web/20100911134428/http://sankei.jp.msn.com/affairs/trial/100910/trl1009101048004-n1.htm 
  16. ^ “シリーズ追跡 525.戸籍に生きる超高齢者”. 四国新聞. (2010年9月12日). オリジナルの2010年9月13日時点におけるアーカイブ。. https://web.archive.org/web/20100913153534/http://www.shikoku-np.co.jp/feature/tuiseki/525/ 
  17. ^ 民法改正を考える会『よくわかる民法改正 選択的夫婦別姓&婚外子差別撤廃を求めて』朝陽会、2010年2月。ISBN 978-4-903059-32-7 
  18. ^ 橋下徹"夫婦別姓の実現にはこれしかない"「僕が戸籍廃止を訴える理由」PRESIDENT Online(2020年2月18日)2021年6月12日閲覧
  19. ^ a b 凸版、古い謄本を自動解読 明治の手書き文字も”. 日本経済新聞 (2022年11月10日). 2023年12月7日閲覧。
  20. ^ a b 【ドキュメント日本】無戸籍者 沈黙の孤立/推計1万人超「嫡出推定」避け出生未届け/行政の把握・支援 届かず日本経済新聞』朝刊2021年6月6日(社会面)2021年6月12日閲覧
  21. ^ 日本放送協会. “匿名で出産希望の女性保護 病院 “行政は早急に対応を” 熊本”. NHKニュース. 2021年10月29日閲覧。
  22. ^ 皇室典範(昭和22年1月16日法律第3号)第26条
  23. ^ 昭和22年法律第111号(皇族の身分を離れた者及び皇族となつた者の戸籍に関する法律)第4条
  24. ^ 住民基本台帳法第39条、住民基本台帳法施行令第33条
  25. ^ キングコング西野亮廣さん、勝手にファンが婚姻届を提出!結婚していたかもしれなかった!?|静岡新聞アットエス”. @S[アットエス]. 2022年8月30日閲覧。
  26. ^ 北方領土や竹島、沖ノ鳥島… 本籍を移す人が増える”. J-CAST ニュース (2011年1月30日). 2022年8月30日閲覧。
  27. ^ “芸能人「入籍しました」の新聞表記は「婚姻届を出す」”. 経済プレミア. (2017年10月4日). https://mainichi.jp/premier/business/articles/20171004/biz/00m/010/025000c 2020年10月2日閲覧。 
  28. ^ 粂美奈子 (2008年10月20日). “「結婚」を「入籍した」というのは間違い?〔2〕”. All About. 2011年10月12日閲覧。
  29. ^ 相続等で戸籍を請求されるかたへ(戸籍のさかのぼり)掛川市公式ホームページ(2021年6月12日閲覧)
  30. ^ 国勢調査 01500 世帯主との続き柄(12区分),世帯の家族類型(16区分),年齢(5歳階級),男女別一般世帯人員(3世代世帯-特掲) 全国(市部・郡部),人口集中地区 | データベース | 統計データを探す”. 政府統計の総合窓口. 2021年5月17日閲覧。






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