寄託 寄託の概要

寄託

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2014/12/06 17:11 UTC 版)

  • 日本の民法は、以下で条数のみ記載する。

概説

寄託の意義

民法に規定する寄託(民事寄託)は、当事者の一方(受寄者)が、相手方(寄託者)のために物を保管することを約し、それを受け取ることによって成り立つ契約である(657条)。寄託において目的物の所有者が寄託者である必要はない[1]

寄託は物を保管するために労務の提供がなされる点で他の契約類型とは異なる(通説)[2]コインロッカー、貸金庫、貸駐車場など物を保管するための場所を提供するにすぎない場合には、寄託ではなく場所の賃貸借契約ないし提供契約となる[2][3][4]。他方、単に物の保管にとどまらず目的物の管理(改良・利用)や運営に及ぶ場合には寄託ではなく委任契約となる[2][4]

寄託には委任類似の関係が認められるため、民法は寄託に委任の規定を準用する(665条)。

委任と寄託との区別は困難な場合もあり[4]、そもそも寄託は物の保管を内容とする事務処理を委託するもので実質的には委任の一種にすぎないとみる学説もある[5]

寄託の性質

  • 片務契約
寄託契約は原則として片務契約であり同時履行の抗弁権(533条)や危険負担(434条以下)の適用はない。特約があれば受寄者は保管料を受け取ることができ、この場合は双務契約かつ有償契約となる(後述の有償寄託となる)[4][6]
  • 無償契約
寄託契約は原則として無償契約である(無償寄託という。665条648条)。先述のように特約により受寄者が保管料を受け取る場合には有償契約となる(有償寄託という。665条648条)、現実には有償寄託がほとんどであるとされる[5][3][4][7]。なお、委任契約と同様に当事者の関係から有償寄託と推定される場合が少なくないとされる[8]
  • 要物契約
寄託契約は要物契約とされるが(657条の「それを受け取ることによって」の文言)、これはローマ法以来の沿革的な理由にすぎず、寄託の予約諾成的寄託を結ぶことも認められる(通説)[5][3][1]。ただし、寄託の予約や諾成的寄託が締結された後、寄託者において引渡前に物の保管の必要なくなり契約を解除する場合には、損害賠償は認められるとしても目的物の引渡しまで命じることは妥当でないとされる[9]
目的物を受け取りは引渡しによるが、占有改定(183条)については認められない[1]
なお、要物契約は無償寄託の場合に限られ、有償寄託の場合には諾成契約となるとする有力説もある[5]

寄託の効力

受寄者の義務

保管義務

受寄者は保管義務を負う。保管における注意義務の程度は有償寄託か無償寄託かにより異なる。

ただし、商事寄託の場合には無償の場合であっても善管注意義務を負う(商法593条)。
  • 使用・再寄託の制限
受寄者が寄託物を使用しまたは第三者による保管(復寄託・再寄託)をするには寄託者の承諾を要する(658条第1項)。民法は105条及び107条第2項の規定は、受寄者が第三者に寄託物を保管させることができる場合について準用するとする(658条第2項)。ただし、105条1項により受寄者の責任を選任・監督に限定することについて疑問視する見解もある[10]

このほか保管に付随する義務として以下の義務を負う。

  • 危険通知義務
寄託物について権利を主張する第三者が受寄者に対して訴訟を提起し、又は差押え仮差押え若しくは仮処分をしたときは、受寄者は、遅滞なくその事実を寄託者に通知しなければならない(660条)。
  • 受取物等引渡義務
受寄者は寄託に当たって受け取った金銭その他の物を寄託者に引き渡さなければならない(665条646条1項前段)。収取した果実も同様に引き渡されなければならない(665条646条1項後段)。
なお、金銭を消費した場合の責任につき665条により647条の準用がある。
  • 取得権利移転義務
受寄者は寄託者のために自己の名で取得した権利を寄託者に移転しなければならない(665条646条2項)。

目的物返還義務

返還時期を定めなかった場合には寄託者はいつでも返還請求できる。ただし、消費寄託契約において、返還時期を定めた場合は、寄託者はその時期まで受寄者に対して返還請求をすることができない(666条反対解釈)。寄託物の返還は原則として寄託物の保管場所でしなければならないが、受寄者が正当な事由によって寄託物の保管場所を変更したときは、その現在の場所で返還をすることができる(664条)。なお、契約上の返還請求権が時効により消滅しても、所有権に基づく返還請求権が認められる(通説・判例。判例として大判大11・8・21民集1巻493頁)[11][12]

寄託者の義務

委任の規定の準用

  • 費用前払義務
寄託について費用を要するときは、寄託者は受寄者の請求により、その前払いをしなければならない(665条649条)。
  • 立替費用償還義務
受寄者は寄託に必要と認められる費用を支出したときは、寄託者に対して費用及び支出の日以後におけるその利息の償還を請求することができる(665条650条1項)。
  • 債務の代弁済義務・担保供与義務
受寄者は寄託に必要と認められる債務を負担したときは、寄託者に対し自己に代わってその弁済をすることを請求することができる(665条650条2項前段)。債務が弁済期にない場合には担保供与義務も認められる(665条650条2項後段)。
  • 報酬支払義務
報酬支払義務は報酬の特約がある有償寄託のみに認められる(665条648条1項)。ただし、商人が他人のために寄託をしたときは常に報酬請求権が認められる(商法512条#商事寄託を参照)[13]。報酬は後払いを原則とするが、期間によって報酬を定めたときは624条第2項の規定が準用される(665条648条2項)。寄託が受寄者の責めに帰することができない事由によって履行の中途で終了したときは、受寄者は既にした履行の割合に応じて報酬を請求することができる(665条648条3項)。

なお、寄託における損害賠償義務については委任の規定は準用されず(665条参照)、後述の通り661条に定めがある。

損害賠償義務

寄託者は、寄託物の性質又は瑕疵によって生じた損害を受寄者に賠償しなければならない (661条本文)。ただし、寄託者が過失なくその性質若しくは瑕疵を知らなかったとき、又は受寄者がこれを知っていたときは、この限りでない (661条但書)。

寄託者の損害賠償義務は寄託物の性質あるいは瑕疵による場合に限定されており、委任契約の受任者に比して損害賠償責任が限定されている[14]。日本の民法は損害賠償義務については委任契約の規定を準用していないが、その理由は必ずしも明らかでないとされる[15]




  1. ^ a b c d e f 川井健著 『民法概論4 債権各論 補訂版』 有斐閣、2010年12月、320頁
  2. ^ a b c 遠藤浩・原島重義・水本浩・川井健・広中俊雄・山本進一著 『民法6 契約各論 第4版』 有斐閣〈有斐閣双書〉、1997年4月、250頁
  3. ^ a b c 近江幸治著 『民法講義Ⅴ 契約法 第3版』 成文堂、2006年10月、269頁
  4. ^ a b c d e f g 川井健著 『民法概論4 債権各論 補訂版』 有斐閣、2010年12月、319頁
  5. ^ a b c d 遠藤浩・原島重義・水本浩・川井健・広中俊雄・山本進一著 『民法6 契約各論 第4版』 有斐閣〈有斐閣双書〉、1997年4月、251頁
  6. ^ 我妻栄・有泉亨・川井健著 『民法2 債権法 第2版』 勁草書房、2005年4月、288頁
  7. ^ 我妻栄・有泉亨・川井健著 『民法2 債権法 第2版』 勁草書房、2005年4月、368頁
  8. ^ 遠藤浩・原島重義・水本浩・川井健・広中俊雄・山本進一著 『民法6 契約各論 第4版』 有斐閣〈有斐閣双書〉、1997年4月、255頁
  9. ^ a b 遠藤浩・原島重義・水本浩・川井健・広中俊雄・山本進一著 『民法6 契約各論 第4版』 有斐閣〈有斐閣双書〉、1997年4月、252頁
  10. ^ 内田貴著 『民法Ⅱ 第3版 債権各論』 東京大学出版会、2011年2月、305頁。
  11. ^ 近江幸治著 『民法講義Ⅴ 契約法 第3版』 成文堂、2006年10月、270頁
  12. ^ 川井健著 『民法概論4 債権各論 補訂版』 有斐閣、2010年12月、322頁
  13. ^ 落合誠一・大塚龍児・山下友信著 『商法Ⅰ 総則・商行為 第3版』 有斐閣〈有斐閣Sシリーズ〉、2006年4月、141頁
  14. ^ 内田貴著 『民法Ⅱ 第3版 債権各論』 東京大学出版会、2011年2月、306頁
  15. ^ a b 遠藤浩・原島重義・水本浩・川井健・広中俊雄・山本進一著 『民法6 契約各論 第4版』 有斐閣〈有斐閣双書〉、1997年4月、256頁
  16. ^ a b c d e 近江幸治著 『民法講義Ⅴ 契約法 第3版』 成文堂、2006年10月、272頁
  17. ^ 遠藤浩・原島重義・水本浩・川井健・広中俊雄・山本進一著 『民法6 契約各論 第4版』 有斐閣〈有斐閣双書〉、1997年4月、256-257頁
  18. ^ a b c 遠藤浩・原島重義・水本浩・川井健・広中俊雄・山本進一著 『民法6 契約各論 第4版』 有斐閣〈有斐閣双書〉、1997年4月、257頁
  19. ^ 我妻栄・有泉亨・川井健著 『民法2 債権法 第2版』 勁草書房、2005年4月、370頁
  20. ^ 内田貴著 『民法Ⅱ 第3版 債権各論』 東京大学出版会、2011年2月、307頁
  21. ^ 遠藤浩・原島重義・水本浩・川井健・広中俊雄・山本進一著 『民法6 契約各論 第4版』 有斐閣〈有斐閣双書〉、1997年4月、252-253頁
  22. ^ 我妻栄・有泉亨・川井健著 『民法2 債権法 第2版』 勁草書房、2005年4月、372-373頁
  23. ^ 近江幸治著 『民法講義Ⅴ 契約法 第3版』 成文堂、2006年10月、272頁
  24. ^ a b 遠藤浩・原島重義・水本浩・川井健・広中俊雄・山本進一著 『民法6 契約各論 第4版』 有斐閣〈有斐閣双書〉、1997年4月、253頁
  25. ^ 落合誠一・大塚龍児・山下友信著 『商法Ⅰ 総則・商行為 第3版』 有斐閣〈有斐閣Sシリーズ〉、2006年4月、141頁
  26. ^ 落合誠一・大塚龍児・山下友信著 『商法Ⅰ 総則・商行為 第3版』 有斐閣〈有斐閣Sシリーズ〉、2006年4月、143頁
  27. ^ 江頭憲治郎著 『商取引法 第4版』弘文堂〈法律学講座双書〉、2005年4月、337頁
  28. ^ 落合誠一・大塚龍児・山下友信著 『商法Ⅰ 総則・商行為 第3版』 有斐閣〈有斐閣Sシリーズ〉、2006年4月、240頁
  29. ^ 江頭憲治郎著 『商取引法 第4版』弘文堂〈法律学講座双書〉、2005年4月、338頁
  30. ^ 落合誠一・大塚龍児・山下友信著 『商法Ⅰ 総則・商行為 第3版』 有斐閣〈有斐閣Sシリーズ〉、2006年4月、240-241頁


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