ボーイング747-8 開発の経緯

ボーイング747-8

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/03/03 04:06 UTC 版)

開発の経緯

ボーイングとエアバスのポスト747構想

1989年からエアバス・インダストリーは747を上回る超大型機「UHCA(ウルトラ・ハイ・キャパシティ・エアクラフト)」の構想を持っていたが、ボーイングはこれに対抗して1991年に、ボーイング747-400の胴体を延長した 「747 ストレッチ」、総2階建ての「747 ダブルデッキ」、全く新造である「ニュー・ラージ・エアプレーン」の3つの構想を発表した。

エアバスを構成する西の4企業は「UHCA」とは別にボーイングに共同開発を持ちかけ、5社は1993年1月に「VLCT(ベリー・ラージ・コマーシャル・トランスポート)」構想を発表したがライバル同士の意見はまとまらず、エアバスは1994年6月に「UHCA」を「A3XX」として開発すると発表して「VLCT」共同開発は中止となった。

ボーイングは「A3XX」に対し、1994年に既存の747-400をベースにエンジン出力の増強、主翼ランディングギアの強化を施し、機体を6m延長した530席の「747-500X」、18m延長した 600席の「747-600X」の計画を発表した。航空会社への調査で「747ユーザーのほとんどが747の大型化を望んでいる」結果から777 に続いて日本に共同開発を提案し、航空各社に既存機の改良であることの信頼性を武器に強気に攻勢をかけた。航空各社の要望に思惑が入り乱れて困惑したボーイングは、1997年1月に「-500X/600X」計画を凍結し、当面のつなぎとして747-400型の機体を延長して60 - 80席ほど増設して航続距離を14,000kmに延長した「747-400LR」計画を発表した。エアバスと「A3XX」に対する強烈なネガティブキャンペーンも実施したが、「A3XX」は新技術が多数採用されている一方で、747の発表から30年以上経過している「-400LR」は既存技術の流用が主で「500X/600X」よりも一層半端な設計思想であり、評判は芳しくなく受注が得られなかった。

747X計画

2000年1月にボーイングは、新たな構想として3段階の「747X」計画を発表した。第1段階はエンジン出力を増強し、主翼を補強して航続距離を伸ばした「747-400X」、第2段階は「400X」を全体的に大型化して航続距離を伸ばした「747X」、第3段階は「747X」の機体を延長した「747Xストレッチ型」で、747-400に比して全長が10m、翼幅が5m拡大される。第3段階までのプログラムを「A3XX」納入開始である2006年より1年早め、既存機の改良であることから開発費の低減が可能で、新規設計の「A3XX」よりも低価格となることを強みとした。

この計画でエアバスが「A3XX」開発を断念すると判断していた。エアバスは日本に「A3XX」の開発費10%負担を打診していたが、ボーイングの首脳は訪日を重ねて「747Xの日本担当比率がボーイング777の21%以上になるであろう」旨を伝えた。

2000年12月にエアバスは、最高経営委員会で「A3XX」の計画実行を決定し、「A380」と名づけて開発に踏み切った。A380が完成すれば、「747X」の陳腐化は火を見るより明らかであった。

ボーイングは500機、エアバスは1,200機と予測する超大型機市場では「需要が見込めない」として、2001年3月29日にボーイングは「747X」の開発延期を発表した。次いで高亜音速中型旅客機「ソニック・クルーザー」計画を決定したが同年9月に発生したアメリカ同時多発テロによる航空需要の落ち込みと燃料価格の高騰により打ち切られ、効率性を重視した中型機「ボーイング787」の開発計画へ移行した。

新形式747-8の登場

ボーイング747-8

ボーイングは、最新の市場調査の結果大型機の需要が今後もかなり見込めるだろうと判断し、また新技術を投入した中型機「787」の開発で得られた技術的成果を流用すれば開発費を圧縮できるとの思惑もあったことから、747のストレッチに再び意欲を示し、このストレッチ構想に対して 2005年にローンチカスタマーを得たことから、「747-8」の製造を決定した。

幾多の変遷を繰り返し、一時は計画中止かとも考えられた「747X」であったが、航空会社や利用者がアメリカ同時テロ事件の痛手から回復するのに、意外と時間がかからなかったこと、そしてエアバスがA380の開発を開始し多くの受注を得られていたことなどが「747X」計画の実現につながった。その後も超大型機の分野では100機以上の発注を獲得し、夢の総2階建て旅客機として世界中の航空会社が導入したA380に対して、旅客型に関しては押され気味であるものの、B747-8は貨物仕様機を中心に地道な営業活動を展開し、それなりの発注機数を獲得している。

日本国内の航空会社では貨物大手NCA(Nippon Cargo Airlines)が主力機材B747-400の更新用として確定発注し、2013年頃からB747-8F新造機を受領して国際貨物路線にて定期路線に投入している。B747-400型機の後継型であり、最新型ジャンボジェットとなるB747-8IC(インターコンチネンタル)は、旅客型がルフトハンザ航空中国国際航空大韓航空の3社で運航されている他、次期アメリカ合衆国大統領専用機「エアフォースワン」機材として選定された。

生産・就航

2009年にフレイター、2011年にインターコンチネンタルがロールアウトしたものの、航空会社からの受注の勢いはかつての747クラシック・747-400に比べて影を潜めていた。

フレイターはいまだ若干の需要はあるものの、インターコンチネンタルは787や777などの燃費の良い双発機の受注が主になり、これらの機種で747の路線を置き換えることも可能なため、発注の航空会社は数えるほどとなった。そのような状況を踏まえてボーイング社は2016年9月より月産0.5機で年間6機のペースの減産体制に入ることを予定し、新規受注が得られなければ生産を終了するとの可能性を示唆した[13][14]

2017年7月30日、B747-8Iの大韓航空への引き渡しが行われた。機体記号はHL7644[5][6]。 このHL7644[5]がインターコンチネンタルとしての最後の受注となった[7][8][9]。このとき(2019年11月時点)、B747-8FはUPS航空へ残り13機、ヴォルガ・ドニエプル航空へ残り4機の受注が残っていた[10]

生産終了

2010年台に生産そして引き渡しが開始されたが、フレイターはある程度の受注が得られたものの、インターコンチネンタルは同社のB777/B787をはじめとした双発機の大型化そして高性能化により、世界の航空会社では4発機よりも双発機へと転換されつつあり、受注はかつてほどの勢いはなくなっていた。そして、2010年後半になると貨物機としてもB777Fのような双発機の方に目が向けられることとなり、フレイターも段々と受注の勢いに衰えを見せるようになった。2022年にはボーイング社がB777-8Fの開発を決定し、747フレイターを主に運用してきたエアラインがこちらに段々と関心を持つようになり、衰えに拍車がかかった。

このように旅客・貨物の両部門においても4発機から双発機へダウンサイジングする風潮が強まっていったが、2020年に入ると、同年に起きた新型コロナウイルス感染症の影響も相まって需要が低迷したことで、世界の各航空会社でB747旅客型の退役が相次いで行われたように風潮はさらに加速することとなった。

そして2020年7月、ボーイング社は2022年の最後の引き渡しをもって生産終了することを表明[15]。2022年12月7日(日本時間)、アトラス航空(B747-8F)向けの生産最終号機(登録番号:N863GT,通算生産数1574機目)の組み立てが終了してエバレット工場からロールアウト[16]。塗装や飛行試験の後、2023年1月31日にアトラス航空に納入された[17]。このロールアウトをもって生産終了となり、約半世紀の生産に終止符が打たれることとなった。同時にボーイング社で製造している民間機から4発エンジン機が姿を消した。


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  2. ^ “Boeing 747-8 Intercontinental Airliner, USA” (英語). aerospace-technology.com. http://www.aerospace-technology.com/projects/boeing-747-8/ 
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  4. ^ “ルフトハンザのボーイング747-8型機が就航 ── 日本航路では初めて”. THE PAGE. (2014年10月27日). http://thepage.jp/detail/20141027-00000024-wordleaf 
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  6. ^ a b Boeing 747 - MSN 60411 - HL7644
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  9. ^ a b 90초만에 보는 보잉747 이야기
  10. ^ a b “747 Model Summary” (英語). Boeing. オリジナルの2020年4月24日時点におけるアーカイブ。. https://archive.is/mM7Q3 
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  13. ^ “「ジャンボ機」減産、受注なければ「中止決断」”. 読売新聞 (Yahoo!ニュース). (2016年7月28日). オリジナルの2016年7月28日時点におけるアーカイブ。. https://archive.is/7aP6C 
  14. ^ “Boeing Considers Ending Production of 747” (英語). WSJ. (2016年7月27日). http://www.wsj.com/articles/boeing-swings-to-loss-but-results-still-top-views-1469622337 
  15. ^ “「ジャンボジェット」ボーイング747型機が生産終了へ”. 朝日新聞. (2020年7月30日). https://www.asahi.com/articles/ASN7Z2T11N7ZUHBI004.html 
  16. ^ 最後のジャンボ機、ボーイングがお披露目 アトラス向け747-8F貨物機、23年納入”. Aviation Wire. 2022年12月10日閲覧。
  17. ^ “ボーイング747型機製造終了 最後の機体は米貨物航空会社へ”. 日本放送協会(NHK NEWS WEB). (2023年1月31日). https://www3.nhk.or.jp/news/html/20230201/k10013967141000.html 2023年2月1日閲覧。 
  18. ^ エアバスA380は、総2階建構造から専用搭乗ゲートを必要とする(例えば3口搭乗橋)、翼幅の関係からクリアランスに配慮する必要があるなどがある
  19. ^ 『旅客機年鑑2012-2013』 P.64(イカロス出版
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  23. ^ ボーイング747-8インターコンチネンタル、エアチャイナより5機を受注
  24. ^ “再送:ボーイングの大型旅客機を個人が発注、購入者めぐり憶測”. ロイター通信. (2011年6月24日). http://jp.reuters.com/article/mostViewedNews/idJPJAPAN-21859420110624 
  25. ^ ブリティッシュ・エアウェイズの航空機は、ボーイング747-400型機にはRB211-524Hエンジン、ボーイング777-200ERにはTrent 895というように、ほとんどがロールス・ロイス製である
  26. ^ いずれも日本航空のみ
  27. ^ -9X全日本空輸のみ。なお、日本航空保有分の-200/-300は全機退役済み。
  28. ^ -10は全日本空輸のみ
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  30. ^ “ANAグループ、5機種の機材発注を同時決定”. ANAホールディングス. (2014年3月27日). http://www.anahd.co.jp/pr/201403/20140327-2.html 
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  53. ^ ボーイング、747-8型フレイターの設計が50%完了
  54. ^ First Boeing 747-8 Freighter Leaves Paint Hangar
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  56. ^ このうちアトラス航空へ引き渡される予定だった1機は、後にサウディア・カーゴへ引き渡され、同社のHZ-AI3として登録された。(月刊エアライン2013 6月号 P87)
  57. ^ より性能の良い747-8Fを2011年10月に1機受領し、同年11月に2機を受領する予定
  58. ^ このうち2011年から2012年にかけてデリバリーされる最初の5機は、ブリティッシュ・エアウェイズACMI契約として利用される予定となっている
  59. ^ カーゴルクス、ようやくB747-8Fを受領へ
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  65. ^ 当初は2011年度内に導入する予定であったが日本貨物航空側の都合により、2012年7月に初号機を受領した。なお、導入にあたっては新塗装となり「Nippon Cargo」のロゴが大きくなるほか、塗装パターンも変更される。(参考:イカロス出版『月刊エアライン』通巻394号 p18)
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  70. ^ Boeing Delivers Nippon Cargo Airlines' First 747-8 Freighter
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  72. ^ 韓国大統領専用機交代へ 約260億円で5年間賃借契約”. 聯合ニュース (2020年5月29日). 2022年1月17日閲覧。






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