ファッション 現代のファッション産業

ファッション

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現代のファッション産業

2008年、ロサンゼルスファッションウィークのランウェイショー

20世紀後半に入り、一般大衆の経済力が向上するに伴い、ファッションは上流階級が独占する小さな市場から大衆の参加する巨大市場へと変貌した。これによって、既製服を生産するアパレル産業がファッション産業への参入を行い、また価値観の多様化が起きてさまざまなファッションが併存するようになった[40]。現代では、ファッションは大きな産業となっている。大小さまざまなブランドが次々に新しい様式の服飾を提案し、たえず流行を創出することで消費者の購買意欲を促進している[3]ファッションモデルによる華やかなファッションショーも行われ、成功したファッションデザイナーやモデルは名声と富を獲得し、関連製品の販売促進のためファッション写真ファッション雑誌も盛んである。

ファッション・ジャーナリズムのみならず、一般のマスメディアがファッションにもたらす影響も大きなものである。広告やCMもさることながら、ある対象に対する人気そのものが流行を生み出し、広告などとの連携でその影響はさらに強まった[41]。すでに1920年代から映画はファッションの流行にある程度の影響を与えていたが[42]、1950年代に入ると影響は非常に大きなものになった[43]

特にファッションの都と呼ばれる世界的なファッションの中心地ではファッションウィークが開催され、デザイナーたちは観衆に新作の衣装コレクションを発表する。ロンドンパリミラノニューヨークは多くの大ファッション企業やブランドの本拠地となっており、世界のファッションに多大な影響力を持っている。パリを中心としたファッションの世界では、「サンディカ」と呼ばれるパリの高級服専門の組合に所属している店の作る、特注のオートクチュールや、有名デザイナーがデザインする既製服であるプレタポルテのファッションショーが行われる。パリで1月と7月に開催されている[44]「オートクチュール・コレクション」は、サンディカに所属するメンバーと、その他の少数のメゾンにしか発表が許されていないファッションショーである。オートクチュールおよびそのコレクションは長い歴史を持ち現在でも顧客を持つものの、顧客数は非常に少なくなっており主力は他部門へと移っている[45][46]。またプレタポルテは、日本語で「コレクション」と呼ばれる[注 1]ファッションショーがあり、それぞれ年2回、2月から3月および9月から10月までの間に、ニューヨーク・コレクションロンドン・コレクションミラノ・コレクションパリ・コレクションの順で開催されている[47]。また、1985年にはじまった東京コレクションのように[48][49]、4大コレクション以外のコレクションも世界各地で開催されている。こうしたハイファッションのほか、スポーツウェアやジーンズなどのカジュアルウェアもファッションの大きな部分を占めている[50]

90年代初頭、アート色の強い日常離れした服に対して、一般的に普段着として着られるような服、リアルクローズをデザインする動きが高まった。これは、それまでデザイナーが作ってきた流行ではなく、人間が着ているだろう服を想定し、より消費者に近いファッションの発信をしようとするものである。この動きは、2000年ごろからはファストファッションとも結びつき、「H&M」や「ZARA」などの世界的な衣料品チェーン企業が勃興している[51]。一方、高級ブランドにおいては1980年代以降積極的な買収によって巨大企業化が進み、フランスのLVMH、スイスのリシュモン、フランスのケリングの3社が突出した大企業となっているものの、独立系のブランドも多く残存している。またこうしたブランド巨大企業は、衣服だけでなく宝飾時計など高級品全般にまたがるコングロマリットを形成している[52]

日本

日本においては、1927年9月21日に、当時の銀座三越において日本国内初のファッションショーが開催された。これは着物のショーであり、一般からデザインを募ったファッションショーでもあった[53]

1953年には、当時ヨーロッパで隆盛を極めたファッションデザイナーのクリスチャン・ディオールが来日し、海外ファッションの導入が始まった[54]。当時の洋服は基本的に注文品で、オーダー服を基軸にしたオートクチュールだったが、日本国内では繊維不況のあおりを受け、そのような最新ファッションは大衆の手に入りにくいものとなっていた。1958年には、同じくピエール・カルダンが来日。量産のプレタポルテの時代の到来を告げる。当時、オーダー服と量産既製服の占める割合は7対3程度にまでなりつつあった。この後、1960年代以降から衣料の大量消費の時代が始まることになる。1975年頃よりニュートラが全国的に流行[55]。これにより海外高級ブランドユーザーの大衆化(若年齢化)[55]セレクトショップのブーム[56]、ファッション誌のモデル大量起用など、時代の転換点となった。2000年代に入ると高級ブランドが退潮の傾向を示す一方[57]、海外のファストファッション企業が相次いで進出し低価格化が進んだ[58]


注釈

  1. ^ フランス語ではsemaine des défilés

出典

  1. ^ Roland Barthes (1967). Système de la mode. ditions du Seuil, ロラン・バルト 著、佐藤信夫 訳『モードの体系』みすず書房、1972年。ISBN 4-622-01963-9 
  2. ^ 「ファッション産業論 衣服ファッションの消費文化と産業システム」p104 富澤修身 創風社 2003年10月20日第1版第1刷発行
  3. ^ a b 「ファッション産業論 衣服ファッションの消費文化と産業システム」p22 富澤修身 創風社 2003年10月20日第1版第1刷発行
  4. ^ 「衣生活学」(生活科学テキストシリーズ)p9-10 佐々井啓・大塚美智子編著 朝倉書店 2016年1月20日初版第1刷
  5. ^ 「ファッション産業論 衣服ファッションの消費文化と産業システム」p21-22 富澤修身 創風社 2003年10月20日第1版第1刷発行
  6. ^ 「ファッション産業論 衣服ファッションの消費文化と産業システム」p21 富澤修身 創風社 2003年10月20日第1版第1刷発行
  7. ^ 「新版アパレル構成学 着やすさと美しさを求めて」(生活科学テキストシリーズ)p56-57 冨田明美編著 朝倉書店 2012年8月30日初版第1刷
  8. ^ 「ファッション産業論 衣服ファッションの消費文化と産業システム」p22-23 富澤修身 創風社 2003年10月20日第1版第1刷発行
  9. ^ Braudel, 312-3
  10. ^ Timothy Brook: "The Confusions of Pleasure: Commerce and Culture in Ming China" (University of California Press 1999); この本は1節全体をファッションに充てている。
  11. ^ al-Hassani, Woodcok and Saoud (2004), 'Muslim Heritage in Our World', FSTC publisinhg, pp. 38-9
  12. ^ Terrasse, H. (1958) 'Islam d'Espagne' une rencontre de l'Orient et de l'Occident", Librairie Plon, Paris, pp.52-53.
  13. ^ Josef W. Meri & Jere L. Bacharach (2006). Medieval Islamic Civilization: A-K. Taylor & Francis. p. 162. ISBN 0415966914 
  14. ^ Laver, James: The Concise History of Costume and Fashion, Abrams, 1979, p. 62
  15. ^ Fernand Braudel, Civilization and Capitalism, 15th-18th Centuries, Vol 1: The Structures of Everyday Life," p317, William Collins & Sons, London 1981 (フェルナン・ブローデル 著、村上光彦 訳『物質文明・経済・資本主義――15-18世紀1.日常性の構造』みすず書房、1985年。 
  16. ^ Braudel, 317-24
  17. ^ Braudel, 313-15
  18. ^ Braudel, 317-21
  19. ^ Thornton, Peter. Baroque and Rococo Silks.
  20. ^ a b 「ファッション・ブランドの起源 ポワレとシャネルとマーケティング」p123 塚田朋子 雄山閣 平成17年12月25日初版発行
  21. ^ James Laver and Fernand Braudel, ops cit
  22. ^ 「衣生活学」(生活科学テキストシリーズ)p25 佐々井啓・大塚美智子編著 朝倉書店 2016年1月20日初版第1刷
  23. ^ 「ファッション・マーケティング」p72-73 塚田朋子 同文舘出版 平成21年2月1日初版発行
  24. ^ a b 「衣生活学」(生活科学テキストシリーズ)p26 佐々井啓・大塚美智子編著 朝倉書店 2016年1月20日初版第1刷
  25. ^ 「ファッション・マーケティング」p100 塚田朋子 同文舘出版 平成21年2月1日初版発行
  26. ^ 「ファッション・ブランドの起源 ポワレとシャネルとマーケティング」p75-76 塚田朋子 雄山閣 平成17年12月25日初版発行
  27. ^ 「ファッション・ブランドの起源 ポワレとシャネルとマーケティング」p71-73 塚田朋子 雄山閣 平成17年12月25日初版発行
  28. ^ 「ファッション産業論 衣服ファッションの消費文化と産業システム」p87-89 富澤修身 創風社 2003年10月20日第1版第1刷発行
  29. ^ 「ファッション・マーケティング」p52 塚田朋子 同文舘出版 平成21年2月1日初版発行
  30. ^ 「ファッションの二十世紀」p132-137 横田一敏 集英社新書 2008年10月22日第1刷発行
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  32. ^ 「ファッションの二十世紀」p176 横田一敏 集英社新書 2008年10月22日第1刷発行
  33. ^ 「ファッション産業論 衣服ファッションの消費文化と産業システム」p90-91 富澤修身 創風社 2003年10月20日第1版第1刷発行
  34. ^ 「ファッション産業論 衣服ファッションの消費文化と産業システム」p92-93 富澤修身 創風社 2003年10月20日第1版第1刷発行
  35. ^ a b 「はじめて学ぶフランスの歴史と文化」p217-218 上垣豊編著 ミネルヴァ書房 2020年3月31日初版第1刷発行
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  42. ^ 「ファッションの哲学」p430 井上雅人 ミネルヴァ書房 2019年12月30日初版第1刷発行
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  44. ^ 「ファッション・マーケティング」p19 塚田朋子 同文舘出版 平成21年2月1日初版発行
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  49. ^ 「史上最強カラー図解 世界服飾史のすべてがわかる本」p221-222 能澤慧子監修 ナツメ社 2012年3月12日初版発行
  50. ^ 「ファッション・マーケティング」p126-129 塚田朋子 同文舘出版 平成21年2月1日初版発行
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  52. ^ https://www.nikkei.com/article/DGXMZO51515750Z21C19A0000000/ 「欧州ブランド「3強」、独立系争奪 主戦場は宝飾・時計 仏LVMH、米ティファニーに買収提案」日本経済新聞 2019/10/29 2020年7月26日閲覧
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  54. ^ 「ファッション産業論 衣服ファッションの消費文化と産業システム」p130 富澤修身 創風社 2003年10月20日第1版第1刷発行
  55. ^ a b 「ファッション・マーケティング」p164 塚田朋子 同文舘出版 平成21年2月1日初版発行
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  59. ^ 「ファッションの二十世紀」p72-73 横田一敏 集英社新書 2008年10月22日第1刷発行
  60. ^ 「ファッションの哲学」p332-333 井上雅人 ミネルヴァ書房 2019年12月30日初版第1刷発行
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  62. ^ http://www.Composing-Moments.com
  63. ^ ファッション
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  65. ^ INSME announcement Archived 2007年9月29日, at the Wayback Machine.: WIPO-Italy International Symposium, 30 November - 2 December 2005
  66. ^ 日経新聞 2011 5月29日


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