ヒト 外観的特徴

ヒト

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/01/29 03:40 UTC 版)

外観的特徴

ヒト

サル目としては極めて大型の種。これより大きいものにゴリラオランウータンがあるが、いずれもサル目としては群を抜いて大きい。なお、動物一般には頭部先端から尻、または尾までの長さを測定するが、ヒトでは尾に該当する部位が退化しており標準の大きさとして直立時の高さ(身長)を測定することが多いので、他種との直接の比較は難しい。

体長は雄の成体でおおよそ160〜180cm、体重は50〜90kg程度。雌は雄よりやや小さく、約10%減程度と見てよい。基本的な体の仕組みについて、サル目に共通の特徴、類人猿に共通の特徴以外に、ヒトに独自の特徴としては、以下の点が挙げられる。

  • 完全に直立の姿勢を取れる。頭が両足裏の間の真上に乗る位置にある。
  • 乳幼児を除いて、ほとんどの場合二足歩行を行う。
  • 前足の付け根が背中面の位置に近い。
  • 後ろ足が手(他種でいう前足)よりも長く、かかとがある。
  • 体表面のほとんどの毛が薄く、ほとんどの皮膚が露出する。

以下、各部分について説明する。

頭部

頭頂部が非常に大きく丸い。これはのうち大脳が発達しているためである。には、大脳間脳中脳、後脳、小脳延髄がある。顔面はほぼ垂直、あごの先端がややとがる(おとがい)。顔面には、2つの、一つのがある。顔面の上から後ろにかけて毛(頭髪)が密生する。頭髪に覆われる部分以外は肌が露出することが多いが、雄は顔面下部に毛を密生することがある()。目の上、まぶたのやや上に一対の横長の隆起があり、ここに毛を密生する()。は前に突出し、鼻孔は下向きに開く。の周囲の粘膜の一部が常に反転して外に向いている()。

胴部

直立姿勢であることによって、背面はやや中央がくぼんだやや弓なりな平面を成し、がやや前に突き出した形になる。また、両側の肩胛骨がほぼ同一平面に並び、平らな背中を形成する。には気管支心臓がある。心臓は左にあることが多く、右にある場合を内臓逆位という。心臓からは動脈静脈血液が流れている。腹には、、腸(大腸小腸十二指腸直腸盲腸)、肛門肝臓膵臓脾臓膀胱尿道などの臓器がある。 胴を支える脊椎骨盤によって受け止められる。そのため、他の霊長目とは違い直立姿勢によって発生する上部の加重軽減するためにやや弓なりに組まれている。ただし、全ての加重を軽減できるものではなく、そのことがヒト独特の脊椎(主に腰椎)に加重ストレスがかかった損傷状態である腰痛を引き起こす要因になる。

胴の下部には生殖器がある。雄は精巣睾丸陰茎など。雌は卵巣子宮など。雌では胸に一対の乳房が発達する。また、腰骨は幅広くなっており、腰の後部に多くの筋肉と脂肪がつき、丸く発達する()。尻の隆起は主として二足歩行によって必要とされたために発達したものと考えられる。しかし雌の尻は脂肪の蓄積が多くてより発達し、乳房の発達と共に二次性徴の一つとされる。特に、雌における乳房は性的成熟が始まるとすぐに発達が始まり、妊娠によってさらに発達するとはいえ、非妊娠期、非保育期間にもその隆起が維持される点で、ヒトに特異なものである。これには、性的アピールの意味があるとされるが、その進化の過程や理由については様々な議論がある。乳房の項を参照。

前足

前足は「腕」、特に尺骨・橈骨より先の部分は「手」と呼ばれ、歩行には使われない。あえて四足歩行を行う場合には手の平側を地につけ歩き、チンパンジーなどに見られるようなナックル・ウォークは一般的でない。

肩関節の自由が大きく、腕を真っすぐに上に伸ばし、あるいは左右に広げてやや後ろに曲げることが可能である。親指が完全に手の平と向かい合う。指先は器用であり、発達した大脳の働きもあり細やかな操作が可能。

後足

後足は「脚部」、特に地面に接する部分は単に「足」とも呼ばれ、歩行のために特化している。膝を完全に伸ばした姿勢が取れる。膝は四足歩行時にここを接地させるので肥厚しやすい。と爪先がアーチを形成し、間の部分(土踏まず)がやや浮く。これによって接地の衝撃を吸収する。まれに土踏まずのほとんどない形状(いわゆる「扁平足」)の個体もある。

体毛について

ヒトは往々にして「裸のサル」といわれる。実際には無毛であるわけではなく、手の平、足の裏などを除けば、ほとんどは毛で覆われている。しかし、その大部分は短く、細くて、直接に皮膚を見ることができる。このような皮膚の状態は、他の哺乳類では水中生活のものや、一部の穴居性のものに見られる。ヒトの生活はいずれにも当てはまらないので、そのような進化が起きた原因については様々な説があるが、定説はない。代表的なのは以下のような説である。

  • 外部寄生虫がとりつきにくくする、あるいはそれらを取りやすくするための適応。
  • 体表を露出することで、放熱効率を上げて、持久力を上げるための適応。
  • 幼形成熟(ネオテニー)の結果。
  • 性的接触の効果を上げるための適応。
  • 一時期に水中生活を送ったなごり。(水に浸からない頭髪だけが残ったという説。アクア説を参照。)

全身は裸に近いが、特に限られた部分だけに濃い毛を生じる。それには生涯維持されるものと、性成熟につれて発生するものがある。おおよそのパターンはあるが、実際の毛の様子には雌雄差、人種差、および個体差が大きい。

毛が密生する部位は、数か所に限られる。それらは、以下のようである。                             

  • 頭部の上から後ろにかけて(頭髪)・目の上の横長の部位()・まぶたの縁(睫毛)・鼻孔内(鼻毛):この部分は、ごく幼い頃から毛が濃く、成人までそれを維持する。特に頭髪は生涯伸び続け、放っておくと数メートルに達するが、ほとんどの個体は自ら(あるいは他の個体に依頼して)道具を用いて適度な長さに整えている。老化が進むにつれて頭髪は薄くなる場合があり、それは雄で特に著しい(ハゲ)が、個体差が大きい[注 1]
  • 脇の下(脇毛)・股間の性器上部と周辺から肛門周辺にかけて(陰毛):いずれも第二次性徴の発達に並行発達する。
  • 顔の鼻から下、耳から顎にかけて()・胸の中心線周辺(胸毛)・足の膝から下(すね毛):これも二次性徴の発達にしたがって出現するが、雄に顕著で、雌ではあまり発達しない。雄でもこれらの毛の濃さには個体差があり、ほとんど生えないものもいる。

なお、哺乳類の顔面には上述の体毛とは別に、感覚器官としての毛「洞毛(どうもう)」が生えているが、ヒトの顔面からは洞毛が完全に消失している。


注釈

  1. ^ 個体別の特に遺伝によるところが大きい
  2. ^ 例として、ドナルド・E・ブラウンは、ブルネイでの高さと地位との正の相関関係を挙げ、この関係自体は普遍的だが、ブルネイに特有なのはその頻度であるとしている。(ドナルド・ブラウン 2002, p. 3-4)
  3. ^ ホモ・サピエンスの諸社会の構成員は、実際上の強い普遍性の共有とは裏腹に、『われわれ』と『やつら』の間の違いを語るのを好む傾向がある。(「ヒューマン・ユニバーサルズ」、ドナルド・ブラウン、2002、p2、p3、p8)
  4. ^ イスラーム世界でも現実の社会を律する規範としては、飲酒は容認されているが、他の集団に対して『酒を飲む異教徒』とさげすむこと、または江戸時代の日本で、現実の社会規範としては四足の獣の肉を食べることが少なからず見られたにもかかわらず、朝鮮人や欧米人の使節等、肉をおおっぴらに食べる習慣のある社会から来た人々に対し、『四足の肉を食う奴等』とさげすんだことなどが例である
  5. ^ これを『補足的親子関係』という。(『Kinship and the Social Order: The Legacy of Lewis Henry Morgan』、Meyer Fortes、1969)
  6. ^ このようなホモ・サピエンスオスの平均して強い性的嫉妬心は、父性の確認という意味を持つ(「人間はどこまでチンパンジーか」、ジャレド・ダイアモンド、1993、p136〜p140)
  7. ^ これを「花嫁を買う」と直接的に表現することもある(ジャレド・ダイアモンド 1993, p. 263)
  8. ^ 他集団のメスに対するレイプ・強制売春だけでなく、この場合相手の集団に属する個体への虐殺や虐待も横行する傾向がある(ジャレド・ダイアモンド 1993, p. 428〜p429)(「男の凶暴性はどこから来たか」、リチャード・ランガム、デイル・ピーターソン、1998、p161〜p163)
  9. ^ ゴリラおよびチンパンジーの子殺しはよく知られている(「男の凶暴性はどこから来たか」、リチャード・ランガム、デイル・ピーターソン、1998、p204)
  10. ^ 親にとって必要な場合の中絶・子殺しへの許容性を持つのは、人類社会の普遍性質または準普遍性質である(ドナルド・ブラウン 2002, p. 249、250)

出典

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  9. ^ 主な年齢の平均余命 厚生労働省 https://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/life/life13/dl/life13-02.pdf
  10. ^ ドナルド・ブラウン 2002, p. 247.
  11. ^ 親指はなぜ太いのか-直立二足歩行の起源に迫る(島泰三 著,中公新書)
  12. ^ ドナルド・ブラウン 2002, p. 160、p194、p244.
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