スラグ
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/05/16 18:10 UTC 版)
概要
スラグは種々の金属の製錬の際に生じるが、最も多く産出されているのが生産量の多い鉄の精錬由来のものである。その場合、特に製鉄スラグや鉄鋼スラグとも呼ばれる。非鉄金属、例えば銅やアルミニウムの精錬に際しても発生し、その場合、鍰(からみ)とも呼ばれる。
スラグの主成分は鉱石の母岩の成分に由来するケイ酸塩と金属酸化物を多く含んでいる。具体的には、鉱物に由来する二酸化ケイ素 (SiO2)や 、酸化アルミニウム (Al2O3)、酸化カルシウム (CaO)、酸化マグネシウム (MgO) などの金属酸化物が多く含まれている。製鉄においてこのようなスラグが生じるのは、主に高炉を用いて鉄鉱石から金属鉄を還元精製し、融解した銑鉄を抽出する段階である。転炉を用いて鋼を作る製鋼段階でもスラグが発生する。その段階でのスラグの主成分には、SiO2、CaOのほか、FeOも加わる。このFeOは、燃焼によって炭素を減少させる際に鉄の一部が酸化されて生じる。火成岩をその成分で酸性岩、塩基性岩と分類するのと同じ論理で、成分中にSiO2を多く含むスラグを酸性スラグ、CaOを多く含むものを塩基性スラグと呼ぶ。
「滓」が表外字のため、しばしば「鉱さい」と書かれる。なお、「こうさい」は慣用読みで、本来は「こうし」である。大和言葉では「のろ」と呼び、たたら製鉄などでは「のろ」とも呼ぶことが多い。金屎(かなくそ)とも呼ばれる。
スラグと融剤
原料鉱石に何も加えないでも、鉱石にケイ酸塩や石英などからなる母岩成分が混在する以上は、金属製品から分離すべきスラグは発生する。たとえば、たたら製鉄のような前近代以来の古典的製鉄においては、海綿状に還元生成した鉄塊の内部に粒子状、あるいは塊状に分散してスラグが生じる。その場合には、鉄塊を砕くことによって、または、鍛造によって赤熱した鉄素材を叩いて、金属鉄の組織から搾り出すことによって、スラグの成分が分離される。
近代以降の金属精錬では効率が求められるため、金属の溶融と同時に溶融することによって、きれいに浮上させて分離しうる、いわば「良い」スラグを作る必要がある。スラグが「良い」スラグとなる条件には、流動し始める温度が低いこと、金属への溶解度が低いこと、粘性が小さいこと、比重が小さいことなどが求められる。これらの性質は、いずれも、金属本体とすみやかに分離するために必要なものである。例えば、SiO2は3次元網目状にケイ素と酸素が結合している。このため、スラグに含まれるSiO2の比率が高いと、スラグの粘度が上昇し、金属との分離に時間がかかる。このため、スラグでは、1次元のケイ酸イオンを作ることによって流動性を高めるように成分が調整される。この目的で高炉においては石灰石 (CaCO3) を鉱石に加えながら加熱される。このように、SiO2を多く含んでいる鉱石に対しては、塩基性の強い金属酸化物CaO(ここでは石灰石の分解によって生じている)を加えることによって、流動点が低く、粘度が小さいケイ酸塩化合物を生成する工程が採用される。この工程は、多くの種類のガラスの製造工程と共通している。このように、「良い」スラグを形成するために用いられる物質は、融剤(フラックス)と呼ばれている。このフラックスとして、ヨーロッパでは有史以来蛍石 (CaF2) が多く使われてきた。
スラグの種類と概要
- 鉄鋼スラグ
- 高炉スラグ:銑鉄を製造する高炉で溶融された鉄鉱石の鉄以外の成分は、副原料の石灰石やコークス中の灰分と一緒に高炉スラグとなる[2]。
- 徐冷スラグ:溶融スラグを冷却ヤードに流し込み、自然放冷と適度の散水により冷却したもので、結晶質の岩石(塊)状となる。
- 水砕スラグ:溶融スラグを加圧水により急冷、粒状化(水砕)したもので、一般にガラス質が主体となる。
- 製鋼スラグ:高炉で製造された溶鉄やスクラップから、靱性・加工性のある鋼にする製鋼過程で発生するスラグ[2] 。
- 転炉系製鋼スラグ
- 転炉スラグ
- 溶鉄予備処理スラグ
- 電気炉系製鋼スラグ:炉内雰囲気を酸化性、還元性に変えることが可能であり、それぞれの過程で発生するスラグを酸化スラグ、還元スラグという[2] 。
- 酸化スラグ
- 還元スラグ
- 転炉系製鋼スラグ
- 高炉スラグ:銑鉄を製造する高炉で溶融された鉄鉱石の鉄以外の成分は、副原料の石灰石やコークス中の灰分と一緒に高炉スラグとなる[2]。
- 非鉄スラグ
注釈
脚注
- ^ 廃棄物の処理及び清掃に関する法律施行令第2条第13号
- ^ a b c 鉄鋼スラグ等に関する現状把握(経済産業省)
- ^ “なぜ灰色?鉄都北九州の「れんが」 製鉄所の副産物、戦前から活用”. 西日本新聞me. 2024年3月18日閲覧。
- ^ 読売新聞 2013年12月3日 14面広告 「鉄鋼スラグ」の可能性(鐵鋼スラグ協会)
- ^ 鉄鋼スラグ、99%再利用でもなお新用途模索(日本経済新聞)
- ^ 転炉スラグによるブロッコリー根こぶ病の防除対策 東京農業大学 日本土壌肥料學雜誌 75(1), 53-58, 2004-02-05
- ^ 「鉄鋼スラグを用いた藻場再生について」新日本製鐵株式会社
- ^ 鉄鋼スラグ等による藻場の再生技術の検討 (農林水産省)著:株式会社 アルファ水工コンサルタンツ
- ^ スラグ類に化学物質評価方法を導入する指針について-総合報告書-
- ^ 鉄鋼スラグ製品の管理に関するガイドラインと鉄鋼スラグ製品製造販売各社の第三者機関の審査に基づく審査状況
- ^ 国土交通省リサイクル材料を利用する際の法令上の留意事項
- ^ 昭和50年6月発行_環境白書_第2節 2 廃棄物処理対策
- ^ 昭和51年6月発行_環境白書_第3節2廃棄物処理対策
- ^ 昭和53年6月発行_環境白書_第4節_3 鉱害防止対策
- ^ Sheila Stogsdill, "Picher projects its end as official municipality", Tulsa World, June 23, 2009.
- ^ [1]UPI, December 4, 2013.
- ^ 八ッ場ダム:移転先のスラグ 国際基準で「最も危険」毎日新聞 2014年09月19日 06時20分配信
- ^ <鉄鋼スラグ>膨張、住宅傾斜…盛り土、雨水吸い 群馬大同特殊鋼の渋川工場から排出された鉄鋼スラグ。毎日新聞 2015年10月25日
- ^ <スラグ無断埋設>「我々の土地、実験台か」地権者ら憤り 毎日新聞 2016年1月22日(金)7時31分配信
- ^ 毎日新聞2016年2月24日群馬の太陽光敷地に…強制捜査受けた業者搬入
- ^ 2016年 4月26日大同特殊鋼株式会社発表資料「当社ならびに当社役員の書類送検および修復工事等の対応状況について」
- ^ 厚生省環境衛生局水道環境部参事官通知昭和53年7月1日 環産第25号
- ^ 「土質安定処理材としてのフェロニッケルスラグ微粉末の適用に関する研究」庄嶋芳卓
- ^ 住友金属鉱山_日向製錬所ホームページ_グリーン・サンド
- ^ 「新居浜市の環境」平成7年3月新居浜市発行
- ^ 東邦亜鉛 有害金属くずを転売 庭や公園などで使用 群馬 NHKニュース 2019年8月10日
- ^ 当社の非鉄スラグ製品の調査・回収について 東邦亜鉛ニュースリリース 2019年8月9日
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