エアバス 民間向け製品

エアバス

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/04/20 03:33 UTC 版)

民間向け製品

エアバスの製品群は、1970年代初期に運航が開始された世界初の2列通路の双発機「エアバスA300」から始まった。A300の短胴型はエアバスA310として知られる。西ドイツとフランス政府の全面的な支援を受けたエアバスは、革新的なフライ・バイ・ワイヤ制御システムを備えたエアバスA320の計画を立ち上げた。1980年代後半に運航が開始されたA320は大手航空会社のみならず格安航空会社でも多数が導入され、商業的に大成功をおさめる。その後もビジネスジェット機需要の高まりを受け、エアバスA318及びエアバスA319等、短胴派生型(エアバス・コーポレイト・ジェット)を開発。延長型はエアバスA321として知られている。これらの新型機によってボーイング737型機の後期モデル(737-300・400・500の第2世代および737-600・700・800・900の第3世代=737NGシリーズ)は、激しい競争を強いられるようになった。

長距離路線向け製品であり、1990年代初期に運航が開始された双発のエアバスA330及びエアバスA340ウィングレットによって強化された有能な翼を備えている。A340-500ボーイング777-200LR型機(航続距離17,446 km)に次いで商業ジェット機で2番目に長距離である16,100 km(8,670マイル)の航続距離を持っている。

エアバスA380は世界最大の民間旅客機である。特徴は総二階建て構造で、ボーイング747に対抗するために開発された。しかしA380が殆ど納入数では終わりに近い2017年には改良型のA380plus型が発表され、航続距離が300km伸び、最大積載重量も3トン増えている一方で、ボーイング側では変更や改造を主眼とせず、貨物機を主体とした売り込みを行った。貨物型の受注を全て失っていたA380は製造機数で747に一向に追いつかない状態となり、2019年2月には、2021年をもって製造終了とすることを発表した。航空機市場は小型機のA320と737、又は中型機のA350と787との市場となり、今後は僅な注文で鎬を削る状態となった。 A350の長胴型であるA350-1000はボーイング777より軽く、且つ客席数も僅に多い事から、777の次世代型である777Xを現在ボーイングでは開発中である。エアバスより一歩遅れた開発力をボーイングでは今後挽回できるかが課題である。

航空機の仕様

製品リスト及び詳細 (出典:エアバスからのデータ情報)(一部)
 航空機  特徴  座席数  開発開始 初飛行 初引き渡し 生産終了
A300 エンジン2基、2列通路 250-361 1969年5月 1972年10月 1974年5月 2007年7月
A310 エンジン2基、2列通路、A300型機を6.96 m短胴化 200-280 1978年7月 1982年4月 1985年12月 2007年7月
A318 エンジン2基、1列通路、A320型機を6.17 m短胴化 107 1999年4月 2002年1月 2003年10月
A319 エンジン2基、1列通路、A320型機を3.77 m短胴化 124 1993年6月 1995年1月 1996年4月
A320 エンジン2基、1列通路 150 1984年3月 1987年2月 1988年3月
A321 エンジン2基、1列通路、A320型機を6.94 m 延長 185 1989年11月 1993年3月 1994年1月
A330 エンジン2基、2列通路 253-295 1987年6月 1992年11月 1993年12月
A340 エンジン4基、2列通路 261-380 1987年6月 1991年10月 1993年1月 2011年11月
A350 エンジン2基、2列通路 270-412 2004年12月 2013年6月14日 2014年12月
A380 エンジン4基、2列通路(1,2階とも)、総2階建 555-853 2000年12月 2005年4月27日 2007年10月 2021年12月

エアバスは2006年をもってA300、A310の受注受付を中止して2007年7月に生産停止することを発表し、30年間に渡って生産されたA300とA310の従業員を他のラインへ配置転換する見込みである。もっともA310は1998年以降生産が止まっている。2019年2月にエアバスは、エミレーツ航空から受注変更を受けたことに伴い、2021年をもってA380の生産を終了することを表明した[11]。2021年12月、エミレーツ航空向けの最終号機(MSN:272,登録記号:A6-EVS)の引き渡しをもって完納となり、14年間の生産に終止符が打たれた[12]。なお、A380の生産終了をもって、エアバス社の民間航空機の製造ラインから四発エンジン機が姿を消すこととなった。

2016年1月現在、ボーイング787ボーイング777に対抗する大型ジェット旅客機A350も就航している。初期の設計ではA330をベースとしていたが、一部の航空会社から不満の声が出ており、機体の再設計を求める声が出てきた。そのため、A330とは別の新設計としたA350XWBが開発されたが、A330の改良型A330neoも開発が進行している。

エアバスA220の製品

計画中の製品

水素燃料機など

温暖化ガスである二酸化炭素を排出しない、水素燃料を使うゼロエミッション(ZE)航空機を2035年までに事業化する構想を2020年に発表した。機体全体は従来の旅客機と似ているものの水素を使うガスタービンエンジンのジェット機やターボプロップ機のほか、全翼機の3モデルを想定している。このほか2020年4年にかけて、ハイブリッド電動航空機E-FanXの実証試験を、ドイツのシーメンスやイギリスのロールスロイスとともに取り組んだ[13]

航空機の特徴

エアバス機の特徴である窓側に配置されたサイドスティックと、操縦席の正面のグラスコックピット(ターキッシュ エアラインズA330-200の操縦席)

ボーイングと比べ新興の会社であるため、機体に先進的な設計思想や技術を取り入れ、斬新な機体設計が行われている。

エアバスA310にはフライ・バイ・ワイヤ電子式集中化航空機モニターなどの先進的なシステムを導入、エアバスA320に民間旅客機初となるデジタルフライ・バイ・ワイヤやグラスコックピット、サイドスティックによる機体操縦を導入したほか、機体に新素材を導入するなど次々と新機軸を採用した。その結果、機体の扱いやすさや燃費性能を向上させる事に成功し、これが1980年代後半からの同社の躍進に繋がった。

この動きを見たライバルのボーイングも自社機のハイテク化に取り組み始め、ボーイング777以降の機体でフライ・バイ・ワイヤを採用するなど、機体の設計思想にも影響を与えた。しかし両者の設計思想は対照的で、エアバスがフライ・バイ・ワイヤの採用により操縦デバイスをサイドスティック化し、コンピュータ制御によるメリットを全面的に取り入れた操縦システムを搭載したテクノロジー・ドリヴンを採用したのに対し、ボーイングがフライ・バイ・ワイヤ導入後も操縦桿にかつてのケーブル(索)やロッドによる機械的リンクを介して油圧アクチュエータを駆動させていた「重み」を擬似的に再現したマーケット・ドリヴンを採用しており、機械重視のエアバスと人間重視のボーイングといった色分けになっている。

エアバスがテクノロジー・ドリヴン路線を取った背景には、航空機の安全設計が向上した1980年代後半以降、飛行機事故の発生原因が機体の設計よりパイロットのミスや整備不良が原因となる事が多くなったからである。エアバスではこの実情に鑑み、パイロットのミスと思われる場合には手動操縦より自動操縦システムの設定が優先される仕様を取り入れていた。しかし、皮肉にもこの仕様が裏目に出る形で、1988年にエールフランス296便事故エアバスA320)が、1994年にはアエロフロート航空593便墜落事故エアバスA310[注 1])と中華航空140便墜落事故A300-600R)が発生した。この結果、翌1995年の受注数が急激に落ち込む事になり、現在ではボーイングでも採用されている、操縦桿を操作すると自動操縦が解除される仕様に改修されている。

またエアバスは部品の供給や機体の一部制作、共同開発など、各国の航空機を手がけたい企業と提携関係をもつことでその国への利益の還元で販路を確保する戦略を打ち出し成功を収めている。この戦略は後にボーイングも真似ることとなり、新型機の開発に当たっては日本企業への積極的なアプローチなども行われている。

エアバス機には基本的に貨物室の火災警報装置が取り付けられていないが、これはフランスの航空法で義務付けられていないためである。しかし、火災警報装置の取り付けが義務化されているアメリカなどの国で運航している機体には、全て後付けされている。


注釈

  1. ^ 正確には機長の息子に操縦桿を握らせたための事故であるが、システムの複雑さも絡んだ事故である。

出典

  1. ^ Airbus Industrie Fleet Details and History”. 2023年1月23日閲覧。
  2. ^ a b c 乗りもの 20210205.
  3. ^ Tadayuki Yoshikawa (2016年10月1日). “エアバス、17年に新体制 親会社と合併へ”. Aviation Wire. Aviation Wire 株式会社. 2017年3月11日閲覧。
  4. ^ “欧州EADS、防衛・宇宙集約し3部門制 米ボーイングに対抗”. 日本経済新聞. (2013年8月1日). http://www.nikkei.com/articleDGXNASGM3103P_R30C13A7FF2000/ 2013年8月11日閲覧。 
  5. ^ Airbus Group Shareholders Approve All Resolutions At AGM, Including Name Change Airbus Group 27 May 2014
  6. ^ エアバス、自社株10%の特別買い戻し計画を総会で提示へ”. ロイター (2015年4月16日). 2017年1月3日閲覧。
  7. ^ エアバス、天津工場で最終組立のA320ファミリー200機目を納入” (2014年12月3日). 2017年10月26日閲覧。
  8. ^ EUの耐久力 攻勢かける「欧州スタンダード」”. 2017年9月25日閲覧。[リンク切れ]
  9. ^ エアバス、アメリカ・モービル工場を開設 「アメリカの航空機メーカー」に” (2015年9月15日). 2017年9月25日閲覧。
  10. ^ Airbus Group Company” (英語). 4-traders. 2017年1月3日閲覧。
  11. ^ プレスリリース詳細 | Airbus, 欧州の航空機メーカー”. www.airbusjapan.com. 2019年2月16日閲覧。[リンク切れ]
  12. ^ A380最終号機、エミレーツ航空に納入 14年で完納
  13. ^ エアバス、水素燃料機構想/空の脱・炭素、35年までに事業化/3モデル披露、未来の覇権狙う」『日経産業新聞』2020年9月24日(総合面)2020年10月18日閲覧
  14. ^ Tadayuki Yoshikawa (2015年1月30日). “ANA、787-10やA321neoなど15機発注へ”. Aviation Wire. Aviation Wire 株式会社. 2021年2月5日閲覧。
  15. ^ a b ANAグループ、5機種の機材発注を同時決定 < プレスリリース”. ANAホールディングス株式会社 (2014年3月27日). 2021年2月5日閲覧。
  16. ^ 固定資産(航空機)の取得に関するお知らせ ANAホールディングス公式 2016年1月29日
  17. ^ スターフライヤー エアバスA320型機3機の導入を決定 ~快適座席で開港時12往復運航を実現へ~ スターフライヤー公式、2004年10月5日。[リンク切れ]
  18. ^ 全日空系LCC 使用機材はエアバスA320-200 10機体制で運用 MSN産経ニュース 2011年2月14日。[リンク切れ]
  19. ^ ANAホールディングス全体での発注であり、機数変動の可能性がある。
  20. ^ ピーチのA321LR、3機に導入半減 ANAHD発注変更で - Avaiton Wire 2022年2月2日
  21. ^ カンタスグループ、日本航空、三菱商事、ジェットスター・ジャパンの設立に合意 新ローコストキャリア - 2012年に国内線就航 - 日本航空公式 2011年8月16日
  22. ^ 全日空、エアアジア:格安航空事業で合弁-来年8月就航予定(訂正)Bloomberg.co.jp(2011年7月22日)[リンク切れ]
  23. ^ スカイマーク エアバスA330-300型機6機導入の方針を決定 スカイマーク公式 2012年2月8日
  24. ^ エアバスA380導入に関するお知らせ (PDF) [リンク切れ]
  25. ^ JAL、エアバス社A350型機の導入を決定 日本航空公式 2013年10月7日
  26. ^ JAL A350全損13号機抹消、-1000 2号機が新規登録 国交省航空機登録24年1月分”. Aviation Wire. 2024年2月12日閲覧。
  27. ^ 2024年4月から運航を開始する貨物専用機の運航路線・運航便数を決定”. ヤマトホールディングス株式会社. 2023年1月12日閲覧。
  28. ^ 日本におけるエアバス
  29. ^ Airbus delivers first A330-900 to launch operator TAP Air Portugal”. Airbus (2018年11月26日). 2020年12月4日閲覧。
  30. ^ Airbus official O&D”. www.airbus.com. Airbus (2018年9月30日). 2018年10月8日閲覧。
  31. ^ 京都新聞』2020年2月5日朝刊





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