アンフェタミン 毒性

アンフェタミン

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/05/11 08:35 UTC 版)

毒性

急性中毒による症状として、精神病、失見当識、一時的な統合失調症様症状、攻撃性の増加、妄想、開口障害、下痢、動悸不整脈失神、異常高熱症、および痙攣を起こし昏睡に至る反射亢進が挙げられる。

熱中症を起こした際には冷却毛布が有効である。ロラゼパムジアゼパムなどのベンゾジアゼピン系の精神安定剤によって不安感が抑えられる場合がある。ハロペリドール抗精神病薬の一種)は運動量亢進や妄想に対し効果を示す。併発する高血圧や不整脈にも対処しなければならない。

依存性

耐性がすぐに獲得されるため望みの効果を得るのに必要な量は増加していく。アンフェタミン依存症となった患者には、不穏状態、不安うつ不眠、自殺衝動といった症状があらわれることがある。多くの常用者は退薬中に、より多量のアンフェタミンを摂取してしまうサイクルを繰り返す。これは非常に危険な状態であり、退薬を助けるために他の薬剤が用いられることもある。

反復的な使用によって精神病症状(統合失調症に似た)を呈することがあり、使用を中断するとおさまるが、覚醒作用が少量の使用でも強くなる逆耐性(感作)の現象がみられるため、再び乱用すると精神病症状が再発しやすい[15]

尿検査によってアンフェタミンの存在が確認できる患者には、入院が必要とされることもある。支持治療が重要である。

一度依存症にかかると長期間薬物から離れていても、些細なきっかけでまた逆戻りしてもとの依存症になってしまう。

法的問題

国際的には向精神薬に関する条約付表IIに指定されている[16]

日本では、アンフェタミン(フェニルアミノプロパン)は、覚醒剤取締法覚醒剤に指定されている。現在、医療用途として正規に認められたアンフェタミン製剤はなく、不法な所持、使用により10年以下の懲役に処せられる。ただし、国際オリンピック委員会(IOC)からの要請で、2020年東京オリンピック出場選手に限り、ADHDの治療薬としての持ち込みを認める特別措置法が2021年6月9日に成立した[17]

イギリスは、1964年の薬物(乱用防止)法英語版から規制が開始され、1971年薬物乱用法とその法改正によってクラスBの薬物に指定されている。不法所持により5年以下の禁固(注射器を用いた場合は7年以下の禁固)および上限の設定されていない罰金に処せられる[18]

アメリカでは、アンフェタミンとメタンフェタミンは、規制物質法のスケジュールII薬物・精神刺激薬に分類されている。スケジュールIIに分類されるのは、乱用の危険性が高く、医療用途に厳しい制限のもとで用いられており、重度の生理学的・心理的依存性をもたらす危険性が高い薬物である。

文化


注釈

  1. ^ 上述の通りイギリスでの規制は1964年から開始されたので、同年没のフレミングの執筆中はアンフェタミンの使用は合法であった。
  2. ^ 1後の改正で、1989年4月1日の厚生省告示第89号により第十一改正日本薬局方の局方医薬品から登録が削除された[19]

出典

  1. ^ a b 竹内孝治、岡淳一郎『最新基礎薬理学[第3版]』廣川書店、2011年、50頁。ISBN 978-4-567-49452-6 
  2. ^ 覚醒剤中毒 1980, p. 9.
  3. ^ Sulzer, D. (2005). "Mechanisms of neurotransmitter release by amphetamines: a review". Prog. Neurobiol. 75 (6): 406–433. PMID 15955613.
  4. ^ a b 覚醒剤中毒 1956, p. 13.
  5. ^ 中原雄二「世界における覚せい剤の乱用の現状と問題点」『衛生化学』第36巻第2号、1990年、100-108頁、doi:10.1248/jhs1956.36.100NAID 130003911750 
  6. ^ a b c 覚醒剤中毒 1956, pp. 8–9, 16–17.
  7. ^ 風祭元『日本近代精神科薬物療法史』アークメディア、2008年、73-74頁。ISBN 978-4875831211 
  8. ^ Young, David; Scoville, William Beecher (1938). “Paranoid Psychosis in Narcolepsy and the Possible Danger of Benzedrine Treatment”. Medical Clinics of North America 22 (3): 637–646. doi:10.1016/S0025-7125(16)37027-4. 
  9. ^ 覚醒剤中毒 1980, p. 91.
  10. ^ 覚醒剤中毒 1980, p. 10.
  11. ^ Seabrook, J. (1996). In the Cities of the South:scenes from a developing world. London; New York: Verso. ISBN 1-85984-986-5.
  12. ^ 米大学生の間で「頭の良くなる薬」が流行、将来は試験前にドーピング検査? AFP 2009年10月3日
  13. ^ S6. 興奮薬 | 禁止表
  14. ^ Ross, Joseph S.; Moore, Thomas J.; Glenmullen, Joseph; Furberg, Curt D. (2010). “Prescription Drugs Associated with Reports of Violence Towards Others”. PLoS ONE 5 (12): e15337. doi:10.1371/journal.pone.0015337. PMC 3002271. PMID 21179515. http://www.plosone.org/article/info%3Adoi%2F10.1371%2Fjournal.pone.0015337. 
  15. ^ 田所作太郎、栗原久 (1990). “薬物の反復投与による行動効果の修飾”. 日本薬理学雑誌 95: 229-238. https://doi.org/10.1254/fpj.95.5_229. 
  16. ^ List of psychotropic substances under international control (PDF) (英語). International Narcotics Control Board. Retrieved on November 19, 2005.
  17. ^ 五輪選手の治療用覚せい剤許可 改正特措法が成立”. 時事通信社 (2021年6月9日). 2021年6月30日閲覧。
  18. ^ Class A, B and C Drugs. Home Office. Retrieved on May 28, 2008.
  19. ^ 第十二改正日本薬局方の制定等について 薬発第348号』(プレスリリース)厚生労働省、1991年3月25日https://www.mhlw.go.jp/web/t_doc?dataId=00ta6841&dataType=1&pageNo=12024年4月1日閲覧 
  20. ^ 「覚せい剤密造 暴力団にも流す」『朝日新聞』昭和47年(1972年)6月7日朝刊、13版、22面






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