アラビア文字 字母

アラビア文字

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/03/17 05:16 UTC 版)

字母

基本文字表

アラビア文字の基本字母28字は以下の通り。

(表中の頭字・中字が存在しない文字は、語頭では単独形で、語中では直前の文字が中字を持った文字なら尾字でつなげ、直前の文字が中字を持たない文字なら単独形で書かれる。)

単独形 頭字 中字 尾字 文字名 転写 音価 片仮名転写の例 太陽文字
ا ــا ʾalif - [-](※) ア行
ب بــ ــبــ ــب bāʾ b [b] バ行
ت تــ ــتــ ــت tāʾ t [t] タ行
ث ثــ ــثــ ــث ṯāʾ ṯ / th [θ] サ行
ج جــ ــجــ ــج ǧīm ǧ / j / dj [ʤ] ジャ行
ح حــ ــحــ ــح ḥāʾ [ħ] ハ行
خ خــ ــخــ ــخ ḫāʾ ḫ / ẖ / kh [x] ハ行
د ــد dāl d [d] ダ行
ذ ـــذ ḏāl ḏ / dh [ð] ザ行
ر ــر rāʾ r [r] ラ行
ز ــز zāy z [z] ザ行
س ســ ــســ ــس sīn s [s] サ行
ش شــ ــشــ ــش šīn š / sh [ʃ] シャ行
ص صــ ــصــ ــص ṣād [sˁ] サ行
ض ضــ ــضــ ــض ḍād [dˁ] ダ行/ザ行
ط طــ ــطــ ــط ṭāʾ [tˁ] タ行
ظ ظــ ــظــ ــظ ẓāʾ [ðˁ] ザ行
ع عــ ــعــ ــع ʿayn ʿ / ‘ [ʕ](有声咽頭摩擦音 ア行
غ غــ ــغــ ــغ ġayn ġ / gh [ɣ] ガ行
ف فــ ــفــ ــف fāʾ f [f] ファ行
ق قــ ــقــ ــق qāf q / ḳ [q] カ行
ك كــ ــكــ ــك kāf k [k] カ行
ل لــ ــلــ ــل lām l [l] ラ行
م مــ ــمــ ــم mīm m [m] マ行
ن نــ ــنــ ــن nūn n [n] ナ行
ه هــ ــهــ ــه hāʾ h [h] ハ行
و ــو wāw w [w] ワ行
ي يــ ــيــ ــي yāʾ y [j] ヤ行

アラビア文字の書き順 - YouTube

※「ا」(ʾalif) は、アラム語等の子音字配列順におけるアブジャドの「ア」に相当。元々は語頭にある「ʾ」(声門閉鎖音/声門破裂音)がその音価であった。しかし長母音āを示すのにも使われたため後代になり語頭で声門閉鎖音/声門破裂音を示す場合の発音を表記するために「ء」(ハムザ)が考案され、ハムザを伴わないアリフは固有の音価を持たない長母音形成パーツとして見なされるようになった。

  1. 語頭では声門閉鎖音ハムザとしての発音になり/a/ /i/ /u/ いずれかの母音と組み合わせる (※アリフが表記されない「ء」(hamza, /ʔ/) の台になっていると考える)
  2. 語中・語末で他の文字に後続してその直前にある子音字が伴っている短母音aを長母音化して長母音アー/aː/を形成する
  3. 語中・語末で/a/の音価を後続もしくは先行させる「ء」(hamza, /ʔ/) の台字になる

といった形で用いられる。

なおアラビア語文法学では、アブジャド(慣用名称:アルファベット)順1文字目のアリフは長母音アリフではなくアリフを台座とした声門閉鎖音/声門破裂音(ハムザ)のことを指していると考える。アラビア語におけるアルファベット文字数が28文字説であっても29文字説であってもアリフという名をまとったハムザが第1文字目に来るとする(*ハムザを29文字目の位置に置く訳ではない)。28文字説では声門閉鎖音/声門破裂音としての機能と長母音パーツとしての機能を併せ持ったものが1文字目のアリフであるとし、29文字説では声門閉鎖音/声門破裂音としての機能が1文字目の「アリフ」ことハムザが担い、長母音アリフとしての機能はوとيの間に置かれるلاに含まれるアリフが担うと考えるなどする。

その他の文字

単独形 頭字 中字 尾字 文字名 転写 音価 意味・役割
ة ــة tāʾ marbūṭa h / t / ʰ / ẗ [h], [t] 古いアラビア語で用いられていた女性形表示のための「ت」(ṯāʾ, /t/)と「ه」(hāʾ,/h/)を融合させた字。 名詞・形容詞の語尾に付いて女性形にする。
ى ىــ ــىــ ــى ʾalif maqṣūra ā / ỳ [aː]

の一部

長母音アリフが通常表す長母音ā部分に用いる。元の語根が弱文字「ي」(y)である語末が語形上ā音になっている箇所を表現することが多い。يに弁別点を加える前から使われていた古い形状が由来。エジプトでは今でもيに弁別点をつけない古形を使っておりىと同形。
ھ ھــ ــھــ ــھ Dochasmee hā [hāː] 「ه」の変形。特にウルドゥ語などではよく使われる。
لا ــلا lām ʾalif [laː](※) 「ل」(lam, /l/) と「ا」(alif) の合字。単独では発音できない長母音アリフをアルファベット順の中に登場させるためにしばしば用いられてきた。(※)

※「ا」(alif) で始まる語彙の前に、定冠詞「ال」(al) が付く場合などでも、用いられる。なお、そのように、/(ʔ)a/ /(ʔ)i/ /(ʔ)u/ の音価を持ち得る語頭の「ا」(alif) の直前に「ل」(lam, /l/) が来て合字「لا」になった場合、当然のことながら、その音価は/laː/ ではなく、/l(ʔ)a/ /l(ʔ)i/ /l(ʔ)u/ のいずれかになる(例:إسلام (Islām) + ال (al) → الإسلام (al-Islām) )。/laː/ という音価表現は、あくまでもそういった特殊な場合を除く、「語中・語末で他の文字に後続して長母音アー/aː/を形成する」という用法での「ا」(alif) の直前に、「ل」(lam, /l/) が来て合字「لا」になった場合のものである。

ハムザ

ハムザは、子音の一種である声門破裂音 /ʔ/ を表す文字(記号)である。

フェニキア文字アラム文字に端を発するセム系言語の文字においては、通常この声門破裂音 /ʔ/ は、最初の文字(例えば、ヘブライ文字における「א」(alef) など)が担うものだが、それに相当するアラビア文字の「ا」(alif) は、必ずしもその役割・用途で用いられて来なかったため、それを補うべく当時調音部位が近いと認識されていた「ع」(ayn, /ʕ/) の頭部を切り取る形で、新たに生み出された声門破裂音 /ʔ/ のための専用文字(記号)が、このハムザである。

単独で書かれることは少なく、基本的に「ا」(alif) (※「ل」(lam, /l/) との合字である「لا」の場合も)、「ي」(ya, /j/)、「و」(waw, /w/) 、いずれかの「台字」を必要とする。(なお、「ي」(ya, /j/) がハムザの台字になる場合、2つの下点は省かれる(「ئ」)。)

単独形 台字付き 文字名 転写 音価 意味・役割
ء أ إ لأ لإ ئ ؤ hamza ʾ / ’ / ‚ [ʔ] 声門破裂音

使用規則は以下の通り。

  • 語頭に登場する場合は、常に「ا」(alif) のみが台字になり、/ʔa/ /ʔi/ /ʔu/ といった発音を形成する。また、語中・語末では、台字の種類を問わず、常にハムザは台字の上に付くが、この語頭の場合に限り、母音記号と同じく、母音の音価が/a/もしくは/u/の場合、ハムザは上に付き(「أ」)、/i/ の場合、下に付く(「إ」)。ただしクルアーンの古い表記ではء単独が語頭に来るなどし、現代正書法とは異なっている。
  • 語中に登場する場合は、「أ」/ʔa/、「ئ」/ʔi/、「ؤ」/ʔu/ といったように、後続する母音の音価に合わせた台字がそれぞれ採用されるが、ء単独で表記される場合もある。
    (※ただし、「i > u > a」といった序列を伴う、少々ややこしい例外規則があり、ハムザ/ʔ/に後続する母音が/u/であっても、ハムザ/ʔ/の直前の母音が/i/なら、/i/に合わせた台字が採用されて「ئ」になり、同じく、後続する母音が/a/でも、直前の母音が/i/か/u/なら、それらに合わせた台字が採用されて、「ئ」や「ؤ」になる。)
    また、母音を後続しない(台字の母音音価が消去される)場合は、直前の母音に合わせ、直前がア/a/ なら「أ」が、直前がイ/i/ なら「ئ」が、直前がウ/u/なら「ؤ」が、それぞれ用いられる。
  • 語末に登場する場合は、上記した語中の後者の場合と同じく、直前の母音に合わせて、/(-a)ʔ/なら「أ」が、/(-i)ʔ/なら「ئ」が、/(-u)ʔ/なら「ؤ」が、それぞれ用いられる。場合によってはء単独となるつづりもある。

まとめると、以下のようになる。

字形(母音記号付き) 字形 音価 場所
أَ- أ- /ʔa/ 語頭
إِ- إ- /ʔi/
أُ- أ- /ʔu/
-أَ-
(-ئَ-)
(-ؤَ-)
-أ-
(-ئ-)
(-ؤ-)
/ʔa/
(/(-i)ʔa/)
(/(-u)ʔa/)
語中(後続母音あり)
-ئِ- -ئ- /ʔi/
-ؤُ-
(-ئُ-)
-ؤ-
(-ئ-)
/ʔu/
(/(-i)ʔu/)
-أْ /(-a)ʔ/ 語中(後続母音なし)
及び
語末
-ئْ /(-i)ʔ/
-ؤْ /(-u)ʔ/

記号類

これら記号の多くは、通常の表記においては省かれ、主に教育・解説用のテキストでのみ用いられる。

母音記号

記号 名称 音価 意味・役割
ـَ fatḥa

ファトハ

[a] 短母音のア
ـِ kasra

カスラ

[i] 短母音のイ
ـُ ḍamma

ダンマ

[u] 短母音のウ
ـْ sukūn

スクーン

[-] 母音除去記号。付いた文字の母音は発音されない。
ـً fatḥatān

ファトハターン

[an] 対格のuに非限定を示すnを加えたアン。対格かつ非限定を表す。
ـٍ kasratān

カスラターン

[in] 属格のiに非限定を示すnを加えたイン。属格かつ非限定を表す。
ـٌ ḍammatān

ダンマターン

[un] 主格のuに非限定を示すnを加えたウン。主格かつ非限定を表す。

アリフ・子音関連

記号 名称 音価 意味・役割
آ madda

マッダ

[ʔaː]
([lʔaː])
ハムザ付きアリフ「أ」にアリフ「ا」が後続した状態を表す、専用の長音符。
音価が/ʔa/のハムザ付きアリフ「أ」及び、その合字版である「لأ」にのみ付く。
ٱ waṣla

ワスラ

[-] 語頭ハムザト・アル=ワスル(ハムザトゥルワスル、ハムザトルワスル、接続ハムザ)専用の消音明示記号。語頭にあるアリフを台とした接続ハムザは文頭でいきなり子音から始まらないよう補助的に置かれているものなので、文中でその前に他の語彙が来ることで)不要となり発音されなくなる。それを明示するのがこのワスラ記号。
ٰ alif khanjariyya

短剣アリフ

[aː] 表記上省略された長母音アリフを明示するための記号。小アリフ、短剣アリフ。(※)
ـّ shadda

シャッダ

[CC] 子音重複記号、長子音記号、促音記号。「無母音の子音+子音+母音」の順番で何らかの子音が2つ重なっていることを表す。

(なおWindowsパソコンなどではワスラ記号や短剣アリフはキーボードから直接入力できない。)

※ちなみに、イスラム教の神である「アラー」(アッラーフ)のアラビア文字表記は「الله」であり、「 ّ 」(shadda) の上に斜めの短い線が書かれているが、これも、特殊な形ではあるが、小アリフ(短剣アリフ)の一種である。キーボードでは、アラビア文字で「ل」(lam) + 「ل」(lam) + 「ه」(ha) を入力すると、自動的にこの記号付き表記に変換される。

伝統的な文字順

現在使われている文字の順序では字形の似たものを1箇所にまとめているが、これとは異なり、アブジャド順というフェニキア文字以来の伝統的な文字順序も存在する。地域によって違いがあるが、もっとも一般的に行われている順序は以下のとおりである(右から左に進む)。アラビア文字を数字として使うときにもこの順序が使われる。

ن م ل ك ي ط ح ز و ه د ج ب ا (أ) 文字
n m l k y z w h d j b ʼ 翻字
50 40 30 20 10 9 8 7 6 5 4 3 2 1 数価
غ ظ ض ذ خ ث ت ش ر ق ص ف ع س 文字
t š r q f s 翻字
1000 900 800 700 600 500 400 300 200 100 90 80 70 60 数価

8つに分割して適当な母音を補い、「أبجد هوز حطي كلمن سعفص قرشت ثخذ ضظغ」('abjad hawwaz ḥuṭṭī kalaman sa‘faṣ qurišat ṯaḵaḏ ḍaẓaḡ)のように唱える。


注釈

  1. ^ 同時代の世俗的な碑文等では、点は既に現行のものにかなり近い形で使われている。

出典

  1. ^ Arabic Alphabet”. Encyclopaedia Britannica online. 2015年4月26日時点のオリジナルよりアーカイブ。2015年5月16日閲覧。
  2. ^ フィリップ・K・ヒッティ、『アラブの歴史(上)』岩永博 訳、講談社(学術文庫)、1982年、48頁
  3. ^ a b c Austa Somvichian-Clausen(訳:三枝小夜子) (2017年10月16日). “北欧バイキングの死装束にアラビア文字見つかる”. ナショナルジオグラフィック日本版サイト. ナショナルジオグラフィック. 2022年2月25日閲覧。
  4. ^ Henri Neuendorf (2017年10月19日). “Debunking Viral Story, Art Historian Says ‘Allah’ Does Not Appear on Ancient Viking Garment”. Artnet News. 2022年2月25日閲覧。
  5. ^ クルド語禁止が再燃 -嘆願書28行中、45文字が反政府的
  6. ^ Lorna A. Priest, Martin Hosken (SIL International) (2010年8月12日). “Proposal to add Arabic script characters for African and Asian languages”. 2013年10月17日閲覧。






アラビア文字と同じ種類の言葉


英和和英テキスト翻訳>> Weblio翻訳
英語⇒日本語日本語⇒英語
  

辞書ショートカット

すべての辞書の索引

「アラビア文字」の関連用語

アラビア文字のお隣キーワード
検索ランキング

   

英語⇒日本語
日本語⇒英語
   



アラビア文字のページの著作権
Weblio 辞書 情報提供元は 参加元一覧 にて確認できます。

   
ウィキペディアウィキペディア
All text is available under the terms of the GNU Free Documentation License.
この記事は、ウィキペディアのアラビア文字 (改訂履歴)の記事を複製、再配布したものにあたり、GNU Free Documentation Licenseというライセンスの下で提供されています。 Weblio辞書に掲載されているウィキペディアの記事も、全てGNU Free Documentation Licenseの元に提供されております。

©2024 GRAS Group, Inc.RSS