1976年 - 現在
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/07/03 08:34 UTC 版)
「ダイヤモンド類似石」の記事における「1976年 - 現在」の解説
1976年にダイヤモンド類似石市場に投入されたCZことキュービックジルコニア(ZrO2、二酸化ジルコニウム。ジルコンと混同せぬこと。ちなみにジルコンはZrSiO4、ケイ酸ジルコニウム)は、瞬く間に市場を席巻し、宝石としても経済的にも、もっとも重要なダイヤモンド類似石として今日の地位を築いている。CZ自体は1930年から合成されていたのだが、それはセラミックス形態としてであった。CZの単結晶を得るには、これまでのダイヤモンド類似石合成法とは異なり、どんな材料でできたるつぼを持ってきても融けてしまう高い融点 (2,750℃) をどう克服するかにあった。これを解決へと導いたのが、水冷銅管の網と、電磁誘導加熱式コイルである。後者はジルコニウム原料粉を熱し、前者は表面を冷やし、1mm厚以下のガワを形成し保持し続けるために用いられる。CZはその結晶の表面が冷却により固化することで自身がるつぼとなり、その中で結晶が成長する。この技法を冷却るつぼ法(冷却管を用いることから)、スカルるつぼ法(るつぼを兼ねた成長する結晶の形状から)などと呼ぶ。 標準気圧下においては、酸化ジルコニウムは立方晶系よりむしろ単斜晶系の結晶を形成する。立方晶系へ持ち込むには安定化剤が欠かせず、それにはふつう酸化イットリウム (III) や酸化カルシウムが用いられる。スカルるつぼ法は1960年代のフランスで開発がはじまったが、技術が完成したのは1970年初頭、旧ソ連の科学者 V. V. Osiko の手によってで、場所はモスクワのレベデフ物理研究所であった。1980年には年間製造量が50,000,000カラット (1t) に達した。モース硬度 (8-8.5)、屈折率 (2.15-2.18)、等軸晶性なので複屈折もなく、何より原材料費が圧倒的に安いことでCZはダイヤモンド類似石の代名詞におさまった。CZの光学及び物理特性値にはばらつきがあるが、これは各製造業者で用いる安定化剤が異なると云う事情による。CZは化合物ではない点は重要で、それゆえCZの安定化剤は何種類もあり、安定化剤によりCZの光学的、物理的特性は劇的に変化する。ダイヤモンドに視覚的に似せたCZは、日常的にダイヤモンドを扱わない人々のほとんどを欺くのに申し分ないが、CZは通常確実にそれとわかる証拠を残す。一例を挙げると、この石はごくふつうにジュエリーとして使用するだけで傷がつくほど柔らかで脆く、石の内部にはゴミも傷も一つも見当たらず、色も完璧な無色(一方で、ほとんどのダイヤモンドは内部に若干のゴミや傷を抱えており、色も少しは黄味がかっている)。さらに比重は大きく (5.6-6)、紫外光においては特有のベージュの蛍光を発する。 宝石商のほとんどはCZではないかと思われる石を検査するため熱慣性テスターを持っているが、これはダイヤモンドの熱伝導率が群を抜いて高い事実を利用している(CZのようなダイヤモンド類似石は熱伝導に対していわゆる断熱材である)。CZはいろんな色(黄色からキツネ色、オレンジ、赤からピンク、緑、漆黒など)にでき、ファンシーダイヤモンドのイミテーションまで勤められそうだが、その多くは本物のダイヤモンドに似てすらいない。CZには耐久性を上げるため、硬質炭素膜(ダイヤモンドライクカーボン)で覆う処理がなされることがあるが、そうやっても熱慣性テスターでの検知は可能である。 CZは1998年にモアッサナイト、モアッサン石、モアサナイト(SiC、炭化ケイ素)が出回るまで事実上その競合商品はなかった。モアッサナイトはモース硬度 (8.5-9.25) と比重(CZよりずっと低い3.2)の2点においてよりダイヤモンドに近い値を示す。先の特性はダイヤモンド同様の傷一つない滑らかなファセット面を見せ、後の特性はダイヤモンドとそれに似せたモアッサナイトの区別をかなり難しくした(後者については十分に検出可能なまでの数値の違いがあるにせよ)。しかしダイヤモンドやCZと明らかに異なるのは、モアッサナイトが強い複屈折を示す点である。これは合成ルチルにも見られる酩酊複視効果を呈するのだが、モアッサナイトのそれは合成ルチルほどひどくはない。モアッサナイトは上述した特性を隠すため、どれもそのテーブルを光軸に垂直になるようカットされるのだが、高倍率下において、わずかでも傾いた方角から見れば、ファセット背面の稜線(あるいは石の内包物)が二重に見えることで簡単に見破れる。 モアッサナイト内部に見られる内包物もまた特徴的で、そのほとんどは細くて白く互いに平行なチューブ、もしくは針であり、石のテーブル面に対して垂直である。こうした平行チューブは、処理済みダイヤモンドにしばしば見られる、結晶内に混入した石墨をレーザーで焼いた痕に間違えられることがある。だが、モアッサナイト内部にあるこうしたチューブは、複屈折のおかげで顕著に二重に見える。この点も合成ルチルと似るのだが、現在製造されているモアッサナイトは、通例緑褐色がかったその色が抜けきれずに悩まされている。宝石質のモアッサナイトを製造できるのは、いまのところチャールズ&コルバードの1社のみである。また製造原価がCZの120倍にもなることも、普及を妨げているが、それでも本物のダイヤモンドよりははるかに安いのでモアッサナイトダイヤモンドなどと称して本物のダイヤモンド並みの値段を付けて売りつける悪徳宝石商もいる。
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