蛇婿
『肥前国風土記』松浦の郡褶振の峰 大伴狭手彦が船出した後、狭手彦に似た男が弟日姫子のもとに通う。弟日姫子が麻糸を男の衣の裾につけ尋ね行くと、沼の辺に蛇が寝ており、身は人で沼底に沈んでいた。
『平家物語』巻8「緒環」 豊後国の女が、朝帰りする男の水色の狩衣の襟首に、長い糸のついた針を刺す。女は糸をたどって姥岳の岩屋まで行き、針を喉に刺して苦しむ大蛇と語る。女の産んだ子は、「あかがり大太」(*→〔蛇婿〕5)と呼ばれる豪傑になる〔*同型の昔話『蛇婿入り』「苧環型」では、女は胎の中の子を堕す〕。
『ローマ皇帝伝』(スエトニウス)第2巻「アウグストス」 オクタウィウスの妻アティアが、アポロン神殿に臥輿を置いてまどろむと、大蛇が彼女の中に這って入り、しばらくして出て行った。目覚めた彼女の身体には、大蛇のような痣が現れ、消すことができなかった。10ヵ月たって、アティアはアウグストスを産んだ。そのため、彼はアポロンの息子と見なされた。
*→〔のぞき見〕1cの『英雄伝』(プルタルコス)「アレクサンドロス」。
*大物主神と倭迹迹日百襲姫命(やまとととびももそひめのみこと)→〔箱〕2の『日本書紀』巻5崇神天皇10年9月。
『今昔物語集』巻4-31 天竺に、心がねじれ曲がり、いつもうつらうつら眠っている国王がいた。その母后は、「大きな蛇が来て私を犯す」との夢を見て、国王を身ごもったのだった。医師が乳(にう)を国王に与えて、正常な心に戻した。この国王は竜の子であった、と語り伝えている。
『沙石集』巻9-3 継母が12~13歳ほどの継娘を沼へ連れて行き、沼の主の蛇に、「この娘を嫁として差し上げよう」と言う。しかし父が蛇に、「母の方を取れ」と命じたので、蛇は娘を捨てて、継母の身体に巻きついた。
*蛇が女童に巻きつこうとしても、できなかった→〔菜〕3の『沙石集』巻9-18。
『太平広記』巻456所引『続捜神記(捜神後記)』 娘が近村の大邸宅へ嫁入りする。初夜の床で、幾かかえもある柱ほどの蛇が1匹、花嫁の足先から頭までからみつく。
『江島(えのしま)』(能) 昔、武蔵相模の境の湖に五頭龍という大蛇が住み、多くの人を取った。弁財天が五頭龍に「悪心を翻し殺生をとどめて国の守護神となるならば、汝と夫婦になろう」と誓約し、五頭龍もこれに応じた。
『ペンタメローネ』(バジーレ)第2日第5話 大蛇が王女との結婚を望む。父王が、宮殿内をすべて黄金や宝石に変えよなどの難題を出し、大蛇はそれを簡単にやり遂げる。大蛇は王女の腰に尻尾をまきつけるが、すぐ蛇の皮を脱ぎ捨て、美しい若者の姿になる。
『平家物語』巻8「緒環」 豊後国の女が姥岳の大蛇との間にもうけた男児は、成長が速く7歳で元服した。夏も冬も、手足が隙間なく大きなあかぎれで割れていたので、「あかがり(=あかぎれ)大太」と呼ばれた〔*→〔犬婿〕3の『南総里見八犬伝』の、八犬士の身体に、八房の斑毛を思わせる痣がある物語と類似する発想〕。
『聊斎志異』巻12-463「青城婦」 成都の西北にある青城山の周辺では、蛇に犯される婦人がしばしばある。それによって生まれた女の子には、陰中に蛇の舌のごときものがある。性交時にその舌がのびて男の陰管に入ると、陽物が脱けて男はたちどころに死ぬ。
『日本霊異記』中-41 桑の木に登り葉を摘む娘を、大蛇が犯した。医師が、稷の藁や猪の毛などを用いて汁を作り、それを使って蛇を娘の身体から放した。しかし3年後、娘はふたたび蛇に犯されて死んだ〔*『今昔物語集』巻24-9に類話。*→〔転生する男女〕2aの、『宝物集』巻5のような事情があったのであろうか〕。
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