虫
『聊斎志異』巻5-175「酒虫」 大酒飲みの劉氏が、ラマ僧から「体内に酒虫がいる」と言われ、治療を受ける。首から5寸ほどの所に美酒を置いてしばらく待つと、口から長さ3寸ばかりの赤い虫が出、酒の中に落ちる。その後、劉氏は酒が飲めなくなり、身体が痩せ家も貧しくなった。
*→〔魂〕2に関連記事。
『三宝絵詞』「序」 舎衛国の女が鏡を見て、「私の顔は美しい」と誇った。女は命尽きて虫になり、自分の尸(かばね)の頭(かうべ)に住んだ。
『沙石集』巻9-25 天竺の優婆塞(うばそく)は善を修めた功徳で、死後、天に生まれるはずだった。しかし彼は、妻に心を残して死んだために、虫となって妻の鼻の中に生まれた。妻が鼻をかむと虫が出たので、妻は虫を踏み殺そうとする。聖者がこれを見て、「この虫は汝の亡夫だ」と教え、虫のために法を説く。虫は法を聞いて死に、天に生まれた。
お菊虫の伝説 寛政7年(1795)に、播州姫路城下に不思議な虫が発生した。女が後ろ手に縛られ、木にくくりつけられたような形だったので、世人は「皿屋敷のお菊の亡霊が虫になった」と言いはやした〔*お菊虫の実体は、木の枝に細糸でからみついた蝶の蛹(さなぎ)である。姫路では昭和の初め頃まで、土産物として売っていたという〕。
実盛虫(高木敏雄『日本伝説集』第22) 昔、斎藤実盛が逃げる時、稲の株につまづいたため敵に追いつかれ、首を討たれた。その恨みゆえに実盛は、死後、稲を喰い荒らす虫となった。これが実盛虫である(出雲国松江)。
『発心集』巻8-8 重病の老尼が「隣家の橘の実を食べたい」と望むが、隣人は1つも与えなかった。尼はこれを恨み、極楽往生の願いを捨てて、死後、多くの白い小虫と化す。隣人が橘の実を食べようとすると、実の袋ごとに5~6分(1~2センチ)の白い虫がいた。毎年このようであったので、隣人は橘の木を切ってしまった。
蝶化身(水木しげる『図説日本妖怪大鑑』) 蔵王山麓に、蝶を愛する女が住んでおり、いつも山に蝶を追って暮らしていた。月日が流れ、女は病んで、誰にも見取られずにあばら家で死んでいった。女の死体は放置され、多くの蛆がわき、それが何千という蝶になる。ある日、旅人が宿を求めてあばら家の戸を開けると、蝶の大群は一斉に外へ飛び立って行った。あとには女の黒髪と骨が残った。
*死者の魂が無数の毛虫になり、やがて多くの蝶になる→〔蝶〕2の『狗張子』(釈了意)巻5-5「宥快法師、柳岡孫四郎に愛着して毛虫となること」。
★3.虫好きの人。
『堤中納言物語』「虫めづる姫君」 蝶を愛する姫君の住む近所に按察使(あぜち)大納言の姫君が住んでいた。彼女は、かまきり・かたつむりなど、さまざまな虫を採集し、とりわけ毛虫を気に入っていた。右馬佐(うまのすけ)が彼女に関心を持ち、かいま見をするが、「貴女にお似合いの人はなかなかいませんよ」という意味の歌を詠んで、帰って行った。
『虫のいろいろ』(尾崎一雄) 48歳の「私」は、数年来の病気(=胃潰瘍)のため、1日の大半は横になっている。「私」は、蜘蛛や蚤や蜂など、いろいろな虫の生態に思いを巡らす。「私」が虫を見るように、どこからか「私」の一挙一動を見ている奴があったらどうだろう。宇宙における人間の位置とは? 自由とは? 偶然とは?・・・・。「私」は、額のしわに蝿の足をはさんで捕まえた。妻も子供たちも面白がって笑った。
*人工の極小宇宙を見て、われわれの宇宙も、何者かが実験・観察用に作ったものかもしれないと思う→〔宇宙〕1の『フェッセンデンの宇宙』(ハミルトン)。
『虫歯の物語』(古代アッカド) 天地万物の創造の後、虫がやって来て神の前で泣き、「あなたは、私の食物・飲物として何を与えて下さるのですか?」と問うた。神が「熟したイチジクと杏(あんず)をやろう」と言うと、虫は「私にとって、イチジクと杏が何になるでしょうか」と断り、「(人間の)歯と歯ぐきの間に私を住まわせて下さい。歯の血をむさぼり、歯の根を食い尽くすようにさせて下さい」と願った。
『ギリシア神話』(アポロドロス)第1巻第9章 メラムプスは牢に捕らわれていた時、屋根の人に見えない場所で、虫たちが会話するのを聞いた。1匹が「どのくらい梁が喰われているか?」と尋ね、もう1匹が「ほとんど残っていない」と答えた。メラムプスは「すぐに私を他の牢に移してくれ」と請い、彼の移動後、しばらくして牢は崩れ落ちた。
★7.姿を変える虫。
『古事記』下巻 韓人(からひと)の奴理能美(ぬりのみ)は、不思議な虫(=蚕)を飼っていた。1度は匐(は)う虫になり、1度は殻(かひこ=繭)になり、1度は蜚(と)ぶ鳥になり、三色(みくさ)に変わるのだ。奴理能美はこの虫を、仁徳天皇の后・石之日売(いはのひめ)に奉った。
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