日本におけるプロボクサー
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/08/11 07:33 UTC 版)
「プロボクサー」の記事における「日本におけるプロボクサー」の解説
日本の法律では職業としてボクシングを行うのに資格は必要ないが、所属団体によってはプロライセンスの取得(選手登録)が必要になる。ここでは日本ボクシングコミッション(JBC)の「ボクサーライセンス」を例にとって説明する。 JBCが実施するプロボクサーライセンス取得のための試験(以下、プロテスト)は、筆記と実技によって行われる。男女とも筆記は競技ルールに関する問題で構成されたペーパーテスト、実技は受験者同士による、通常2ラウンドのスパーリング形式(ヘッドギア着用、男子は1ラウンド2分30秒、インターバル30秒)で行われ、ワンツーパンチを基本とする攻撃や、ガードを中心とする守備の技能が備わっているかを審査する。このうち実技審査のスパーリングは、あくまで技能の中身を見るものであるため、対戦中に不利であったからといって不合格になるとは限らない。プロテストは後楽園ホールなどで開かれる興行の開場前に実施されることが多く、実技審査のリングも興行のものと同じものを使用する。既に高い注目度を持つ受験者の場合、スパーリングが興行の一環として一般公開される場合もある。ただし西日本ボクシング協会などでは加盟ジムを会場として使用する場合もある。 プロテストの合格率は、絶対評価で合否が決定されるため試験日によってまちまちであるが、平均すると概ね60%を超える水準にあった。しかし安河内剛がJBC本部事務局長就任の2006年頃から審査がやや厳格となり、東京地区・関西地区では1回の試験における合格率が30%強にとどまる例も珍しくなくなっている。逆に、地方都市で行われるプロテストは、地方興行における選手人材確保の観点などから合格率が比較的高い傾向にある。 プロテストの受験資格はJBCが公認したプロのボクシングジム(日本プロボクシング協会加盟ジム)に所属する練習生で、16歳から34歳までの男女(35歳の誕生日の前日まで申込可能。未成年者には親権者の承諾書が必要となる)。2007年より受験資格年齢の上限が29歳から32歳、2016年より上限は34歳に引き上げられ、同年には下限も17歳から16歳に引き下げられた。ただし女子に関しては、JBC公認以前に顕著な実績を持つ者に限り、特例として33歳以上の受験が可能であった時期もある(後述)。また、視力が左右ともに裸眼で0.5以上であること、コミッションが公認した病院・医師によるCT検査などの健康診断をクリアするなどの規定もある。さらに30代の受験生は頭部などのより厳重な健康診断を受けることが義務付けられている。またボクシング以外のプロスポーツとの掛け持ちは認められず、テストに合格したらボクシング以外のスポーツからは引退しなければならない。 プロテストに合格すると、原則的にC級のライセンスが交付され、4回戦(4ラウンド制の試合)から出場することが可能となる(プロテストの段階では本人確認書類不要だが、合格しライセンス申請時には住民票か戸籍の提出が義務付けられている)。例外として、「アマチュアの経験者にして、(一社)日本ボクシング連盟の資格証明に基づき、審査のうえC級ライセンスを免除されることもあり得るものとする」(基準はアマチュア公式戦で少年の部通算5勝か成年の部通算3勝、更に県大会優勝か全国レベルの大会の県代表、いずれも不戦勝は算入しない)とされている。また、アマチュアで一定以上の実績のある選手(全日本選手権を始めとするシニア全国大会上位経験者など)や他の格闘技で顕著な実績のある選手(キックボクシング世界王座経験者の土屋ジョー、元K-1ヘビー級王者だった藤本京太郎など)は、別枠のB級プロテストに合格することでデビュー時からB級ライセンスを取得できる。B級テストでは実技試験の相手を現役のプロボクサーが務め、合格基準もC級のものより厳しく設定されている。B級テストに合格した場合はプロデビュー戦から6回戦(6ラウンド制の試合)から出場することができる(あくまでも「出場することができる」であるため、B級テスト合格者でも4回戦でデビューする選手も存在する)。いわゆる“4回戦ボクサー”とは、このC級ボクサーであることを表す。 C級ボクサーが4回戦を通算4勝(女子は通算3勝。引分は0.5勝に換算)するとB級ライセンスへ、B級ボクサーが6回戦を通算2勝(引分はやはり0.5勝に換算)すると、A級ライセンスへと切り替えることができる。なお、A級ライセンスのボクサーは、8回戦以上(8ラウンド、10ラウンド、12ラウンド制。女子は10ラウンドまで)の試合に出場することができる。8回戦で勝利すると10回戦に出場でき、日本ランキング評価の対象となる。アマチュアでより顕著な実績を持つ選手がB級テストで合格した上で申請が通れば特例として飛び級でA級ライセンスを取得出来る場合もあり、過去には池山伊佐巳(1958年東京アジア大会金メダリスト)、米倉健志(メルボルン五輪ベスト16)、ロイヤル小林(ミュンヘン五輪ベスト8)、石井幸喜(1978年世界選手権銅メダリスト)、平仲明信(ロス五輪出場)、赤城武幸(アマチュア4冠)、井上尚弥(アマチュア7冠)、但馬ミツロ(アマチュア5冠)、堤駿斗(アマチュア13冠)がA級デビュー(池山のみ10回戦、他は8回戦)を果たしている。また、ロンドン五輪金メダリストの村田諒太については史上初となるA級プロテストとして行われた(ただしデビューは6回戦)。昭和時代にはオリンピックメダリストであった田辺清、桜井孝雄、森岡栄治らデビューこそ6回戦であるものの2戦目で10回戦を戦った者もおり、平成に入っても辰吉丈一郎がプロ2戦目で東京ドーム(1990年2月11日のマイク・タイソン 対 ジェームス・ダグラス戦の前座)にて10回戦を決行した。 ライセンスは有効期限1年で、毎年1月に事実上自動的に更新される。プロボクサーはライセンス更新にあたって最近1ヶ月以内の健康診断書提出が義務付けられており、この健康診断で重篤な疾病が発覚した場合はライセンスが更新されないことがある。また、セミリタイヤ状態にあった選手が長期ブランクから復帰する場合はプロテストの再受験を課せられる例もある。日本におけるプロボクサーの年齢制限は原則的に36歳で、37歳になると自動的にライセンスは失効する。ただし、現役のチャンピオンは王座から陥落するまで、またトーナメント戦に出場している者はそのトーナメントで結果が出るまでライセンスは有効である。 また、ライセンスの有効期限内であっても、網膜剥離など重度の眼疾が発見された場合や、脳疾患の発覚および開頭手術を伴う外科手術を受けた場合など、健康上重大な問題が発覚した場合はJBCから引退勧告の対象となり、現役続行が事実上不可能となる。ただし、網膜剥離を完治させた選手については、かつてこの眼疾を克服した辰吉丈一郎が強く復帰を望んだ結果、厳重な医療診断の上で、世界タイトルマッチまたはこれに準じる試合のみ国内での試合出場が可能となった経緯があり、さらに2013年からは完治した場合は引退勧告の対象から外されることになった。2021年12月9日の規定変更では頭蓋内出血を完治させた選手も同様となり、旧規定で引退となった山中竜也が現役復帰を表明した。「網膜剥離罹患者は事実上引退」という時代には、現役続行を諦めきれないボクサーが「一国一コミッション」の原則に反して一時存在したIBF日本などの弱小コミッションに活路を見出そうとしたり、出場にJBCライセンスを必要としない海外のリングで復帰したりする例が見受けられた。 なお現在は、世界ボクシング協会(WBA)、世界ボクシング評議会(WBC)、国際ボクシング連盟(IBF)、世界ボクシング機構(WBO)認定の世界王者、東洋太平洋ボクシング連盟(OPBF)認定の東洋太平洋王者、WBO認定のアジア太平洋王者、あるいは日本王者となったキャリアを持つ者、WBA、WBC、IBF、WBO認定の世界タイトル挑戦経験者、現役の世界ランカー(WBA、WBC、IBF、WBOの15位以内)、あるいは日本ランカーに限り、37歳を過ぎても試合に出場することが可能である。ただし、この特例の申請はその選手の最終試合から3年以内(2008年のルール改正以前に最終試合に出場した者については5年以内)とし、JBCによる審査とコミッションドクターによる特別診断をパスすることが条件となる。身体に異常が見つかった場合や、直前の試合内容に年齢的・肉体的な衰えが顕著であった場合などはJBCより引退勧告が出され、以後は特例の認可はされなくなる。
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