ハーバーボッシュ法とは? わかりやすく解説

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ハーバーボッシュ‐ほう〔‐ハフ〕【ハーバーボッシュ法】


ハーバー・ボッシュ法

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/09/22 12:25 UTC 版)

ハーバー・ボッシュ法(ハーバー・ボッシュほう、独:Haber-Bosch-Verfahren, 英:Haber–Bosch process)または単にハーバー法(Haber process)とは、を主体とした触媒上で水素窒素400–600 °C200–1000 atm超臨界流体状態で直接反応させる、下の化学反応式によってアンモニアを生産する方法である[1]。世界的な食糧不足が予想されていた中、ハーバー・ボッシュ法は化学肥料の大量生産を可能にした事で食糧生産量を急増させ、20世紀以降の人口爆発を支えてきた[2]。常に手法の改良は試みられている[3][4]が、21世紀に至るもハーバー・ボッシュ法の基礎理論は完全に置き換わること無く活用され続けている。

ベルリンのユダヤ博物館に展示されている1909年にフリッツハーバーがアンモニアを合成するために使用した実験装置

現代化学工業における窒素化合物合成の基本的製法であり、フリッツ・ハーバーカール・ボッシュが1906年にドイツで開発した[5][疑問点]。ボッシュは1909年にドイツの研究所で窒素固定に成功し、[6][7]1913年には、ボッシュ率いるBASFの研究グループが現在ハーバー・ボッシュ法と呼ばれている工業化された合成法を開発した。[8][9]ロイナ工場で実用化されて、褐炭から肥料を生産した。それまではユストゥス・フォン・リービッヒの理論に基づき、チリ硝石を用いていた。

反応過程

現代の工業化学では、メタンから不均一系触媒を使って単離された水素大気中の窒素とを反応させてアンモニアを合成している。

水素の合成

まず、メタン精製して触媒を失活させる硫黄分を除去する。約1000 °C3 MPa精製したメタン酸化ニッケル(II)を触媒として水蒸気と反応させる。これは水蒸気改質と呼ばれる。

アルヴィン・ミタッシュ
触媒開発を担当したアルヴィン・ミタッシュにより見出された。ミタッシュは、様々な鉄鉱石を触媒として用いたところ、スウェーデン産の磁鉄鉱が非常に高い活性を示すことを発見した。そしてさらに検討を重ね、微量のアルミナとカリウムが必要であると結論付けた。この結論に至るまで、ミタッシュは約2万種類の触媒を試したと言われている[12]
三重促進鉄触媒
より高効率で生成可能な触媒として CaO を付加した三重促進鉄触媒が開発された[12][10][13]
この節の加筆が望まれています。

結果

パンの原料である小麦を始めとして、農作物を育てるには、窒素・リン・カリウムの肥料の三要素が不可欠だが、ハーバー・ボッシュ法は、窒素を供給する化学肥料の大量生産を可能とし、結果として農作物の収穫量は飛躍的に増加した。このためハーバー・ボッシュ法は、水と石炭と空気からパンを作る方法とも称された[12]

化学肥料の誕生以前は、単位面積あたりの農作物の量に限界があるため、農作物の量が人口増加に追いつかず、人類は常に貧困飢餓に悩まされていた(マルサス人口論[22]

しかし、ハーバー・ボッシュ法による窒素の化学肥料(硫酸アンモニウムも参照)の誕生や、過リン酸石灰によるリンの化学肥料の誕生により、ヨーロッパアメリカ大陸では、人口爆発にも耐えうる生産量を確保することが可能となった[22]。これは1940年代から1960年代にかけて起きた、18世紀農業革命に続く「緑の革命」の先駆けとなった[23]。また日本などでは従来肥料として用いられてきた屎尿による寄生虫の感染も避けられるようになった。

ハーバー・ボッシュ法は同時に爆薬の原料となる硝酸の大量生産を可能にしたことから、平時には肥料を、戦時には火薬を空気から作るとも形容された。硝石の鉱床が無い国でも国内で火薬の生産が可能となり、その後の戦争が長引く要因を作った。例として第一次世界大戦において、ドイツ帝国海上封鎖により、チリ硝石の輸入が不可能となったが、戦争で使用した火薬の原料の窒素化合物の全てを国内で調達できた(火薬爆薬を参照)。

本法によるアンモニア合成法の開発以降、生物体としてのヒトバイオマスを、従来よりもはるかに多い量で保障するだけの窒素化合物が、世界中の農地生態系に供給され、世界の人口は急速に増加した。現在では地球の生態系において最大の窒素固定源となっている。さらに、農地生態系から直接間接双方の様々な形で、他の生態系に窒素化合物が大量に流出しており、地球全体の生態系への窒素化合物の過剰供給をも引き起こしている。この現象は、地球規模の環境破壊の一端を成しているのではないかとする懸念も生じている[24]

ハーバーは本法の業績により、1918年ノーベル化学賞を受賞したが、第一次世界大戦中にドイツ帝国の毒ガス開発を主導していたために物議を醸した[25][26]。またボッシュは実用化の業績により、1931年にノーベル化学賞を受賞している。

脚注

注釈

  1. ^ それ以前に15大財閥のひとつである日窒コンツェルンが1908年にイタリアでフランク・カロー式石灰窒素法の特許権、1927年にカザレー式アンモニア合成法の特許権を買収し、水俣などでの硫安製造やその輸出を行っていた。
  2. ^ 参加企業は、日本窒素肥料電気化学工業大日本人造肥料三池窒素昭和肥料住友化学工業旭ベンベルグ東洋高圧矢作工業宇部窒素工業

出典

  1. ^ 『超臨界流体のはなし』日刊工業新聞、21頁。ISBN 4-526-05708-8 
  2. ^ 崇志, 三ツ村 (2022年12月23日). “「空気からパンを作る技術」に100年越しの革命を。東工大ベンチャーの挑戦”. BUSINESS INSIDER JAPAN. 2024年4月10日閲覧。
  3. ^ アンモニア合成を通して人類を支えた研究者たち”. 東京工業大学. 2024年4月10日閲覧。
  4. ^ 日経クロステック(xTECH) (2021年1月14日). “ハーバーボッシュ法の欠点を大幅改善、アンモニアの地産が可能に”. 日経クロステック(xTECH). 2024年4月10日閲覧。
  5. ^ 『天文学入門 星とは何か』丸善出版、118頁。ISBN 978-4-621-081167 
  6. ^ Smil 2001, pp. 61–82
  7. ^ Hager 2008, pp. 63–108
  8. ^ Smil 2001, pp. 83–107
  9. ^ Bosch 1931
  10. ^ a b アンモニア合成を通して人類を支えた人たち 東京工業大学博物館
  11. ^ 江崎正直、アンモニア合成 (PDF)
  12. ^ a b c 西林仁昭、鉄触媒は「窒素固定能」を秘めていた! (PDF) 化学 Vol.68 No.6 (2013)
  13. ^ アンモニア合成を通して人類を支えた人たち (PDF)
  14. ^ 大阪朝日新聞経済部 1929.
  15. ^ 牧野功「肥料製造技術の系統化」(pdf)『国立科学博物館 技術の系統化調査報告』第12集、国立科学博物館、2008年3月28日、215頁、2022年8月27日閲覧 
  16. ^ 牧野功「肥料製造技術の系統化」(pdf)『国立科学博物館 技術の系統化調査報告』第12集、国立科学博物館、2008年3月28日、218-219頁、2022年8月27日閲覧 
  17. ^ #コトバンク
  18. ^ クロード式窒素工業の歴史①”. 鈴木商店記念館. 2021年11月14日閲覧。
  19. ^ 兒玉州平 2014.
  20. ^ 1931年11月5日官報。大蔵省印刷局。
  21. ^ 大阪毎日新聞 1936.
  22. ^ a b 独立行政法人農業環境技術研究所「情報:農業と環境 No.104 (2008年12月1日) 化学肥料の功績と土壌肥料学」
  23. ^ Defining the Green Revolution - What Was the Green Revolution?
  24. ^ 世界の人口を養う“窒素”の光と影:日経サイエンス 1997年12月号
  25. ^ イーゲーファルベン裁判
  26. ^ 井上尚英『生物兵器と化学兵器』(初)中央公論新社〈中公新書〉、2003年。ISBN 4121017269 

参考文献

関連項目

外部リンク


ハーバー=ボッシュ法

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/10/10 23:12 UTC 版)

化学平衡」の記事における「ハーバー=ボッシュ法」の解説

ハーバー=ボッシュ法は平衡移動化学工業応用して成功した例として知られている。 N 2 + 3 H 2 ↽ − − ⇀ 2 NH 3 {\displaystyle {\ce {N2 + 3H2 <=> 2NH3}}} , Δ r H = + 93   k J / m o l {\displaystyle \Delta _{\mathrm {r} }H=+93~\mathrm {kJ/mol} } この反応可逆反応であり、アンモニアを得るためには、この反応平衡を右へ移動させなければならない。このとき、ルシャトリエの原理利用してアンモニア合成することを考えたいルシャトリエの原理によれば平衡移動させられる変更可能な条件は、温度圧力濃度である。 温度変化させる反応発熱反応であるため、平衡を右に移動させるためには、低温反応させるべきである。 圧力変化させる 反応により分子数が減少するため、平衡を右に移動させるためには、高圧反応させるべきである。 しかし、この化学平衡から導かれる帰結従い低温であればあるほど、高圧であればあるほど、効率的にアンモニア合成できるということにはならない。 その理由について、まず反応温度影響述べる。窒素水素反応極めて遅く反応起こさせるには大変な高温を必要としてしまう。そこで、触媒用い必要がある。ミタッシュは数多ある触媒のなかから、この反応適す触媒として四酸化三鉄 Fe3O4 を主成分とする二重促進鉄触媒を見つけ出した。しかしながら、この触媒用いたとしても、平衡有利にするために、低温400 以下)で反応させると、反応速度が不十分であり、NH3 が出来るまで多大な時間要する。そこで、もう少し高温500 程度)で反応させると、収率は少し減るものの、短時間アンモニア生成するので、反応後、未反応原料回収し、再び反応用いる方がより経済的である。 次に圧力影響述べる。高圧にさせるためには、反応起こす容器がその圧力に耐えなければならないが、強度の高い反応器設計し高圧運用するためには多大なコストかかってしまう。よって、工業的には、300500 atm 程度運用されている。 さらに、まだ変化させていない条件濃度)を変化させる為に反応途中で適宜アンモニア取り出すことで、逆反応起こりにくくしアンモニア効率的に合成している。

※この「ハーバー=ボッシュ法」の解説は、「化学平衡」の解説の一部です。
「ハーバー=ボッシュ法」を含む「化学平衡」の記事については、「化学平衡」の概要を参照ください。

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