NVIDIA
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歴史
LSIロジックを退社したジェンスン・フアン(社長兼CEO)が、1993年にクリス・マラコウスキー(Chris Malachowsky: 副社長)らと共にNVIDIAを設立した。社名はラテン語の「invidia」が由来で未来を見る・無限を見るという意味が込められており、目を象ったロゴマークが使われている[5][6]。
最初のグラフィックスチップ製品である「NV1」は、ダイアモンド・マルチメディア社より3Dグラフィックスボード「EDGE 3D」に搭載された。この製品は曲面描画を採用した意欲的製品ではあったが、Windowsのリアルタイム3次元コンピュータグラフィックス(3DCG)描画機能(API)であるDirect3Dがまだ確立していない時期であったため、同APIには対応していなかった。結果、製品デモとしてバンドルしていた専用バージョンのゲームソフト、セガの『バーチャファイター』など一部のソフトでしか利用可能ではなかったため、限定的な売上げに留まっており、後継製品も出なかった。後にDirect3Dにも対応したが、曲面描画ではなくポリゴンという描画方式の違いでパフォーマンスが出ない有様であった。
1997年、SGIに所属していた技術者が続々と参加し、低価格でありながら非常にパワフルなグラフィックスチップ「RIVA 128」[注釈 1]を発表し、業界大手の仲間入りを果たす。更に後継製品である「RIVA TNT」が1998年に発売され、一躍PCグラフィックスチップ界の技術的筆頭メーカーとなった。
1999年、PC用の廉価なグラフィックスチップとしては世界で初めてハードウェアジオメトリエンジン(ハードウェアT&L)を搭載した「GeForce 256」を発売、3dfx社のVoodoo3+Glideのパフォーマンスを超え、その地位を不動のものとした。なお、この製品から、NVIDIAによって提唱された「Graphics Processing Unit (GPU)」という名称が使われるようになった[7]。GeForce以前にも業務用ワークステーションなどで用いられる高価なジオメトリエンジン搭載チップや、3DlabsのPermediaシリーズなどのOpenGLに特化したジオメトリエンジン搭載VGAカードは存在したが、業務用として発売されているGPU搭載ボード(またはグラフィックスワークステーション)は個人で購入するには高価であり、比較的安価だったPermediaは満足できる性能には至っていなかった。NVIDIAは以前から取引のある多数のアセンブリメーカーにチップを提供、多数の消費者に対して売り出し、ハリウッドでしか作ることができなかったレベルの3DCGを個人のPCで実現可能としたことにより、市場に衝撃を与えると同時に好感をもって受け入れられた。
以降に登場するGPUは、ジオメトリエンジン搭載が標準となり、搭載していないものは、HDTV等の機能に特化、あるいは数世代遅れの性能を持つローエンド向け製品として区別されることとなる。しかし、GPUをチップセットが内蔵するようになったことでローエンド製品の存在意義が消失、多大な開発費を要する高性能GPUのみが存続できるという市場状況となった。これによりNVIDIAと肩を並べるATIなど一部を除き、ほとんどのメーカーが合併や事業縮小撤退などにより、次々と淘汰されていった。
CPUメーカー第2位のAMDは、チップセットへのGPU統合化、将来的にはCPUとの統合を模索しており、GPU技術を持たないAMDは、GPUメーカー第2位のATIの買収を行なった。これによりATIを擁するAMDプラットフォームからNVIDIAは徐々に締め出され、NVIDIAはIntelプラットフォームへ傾倒していくようになった。しかしPC用CPUメーカー第1位のIntelも自前のGPUを持っており、新型の高性能GPUとしてLarrabeeの開発を行なっていた。Larrabee自体は開発中止となったものの、Intelは自前のGPU(HD Graphicsシリーズ)をCPUに内蔵するようになったため、Intel向けGPU内蔵チップセットを開発する意味を失ってしまった。第3位のVIAも買収したS3を持っており、PC向けオンボードGPU市場が事実上消滅してしまう可能性も取り沙汰された。2010年、NVIDIAはついにチップセット事業からの撤退を発表することになった。
このことから抜本的な経営方針の見直しを迫られた同社は、ARM系CPUを自社製GPUに統合したTegraシリーズ、同じくデータセンターやサーバー用として2008年頃から注目されていたTeslaシリーズ、そしてゲーム用GPUのGeForceシリーズの3つに注力し、一定の成功を収める。
その後も少しずつ業績を伸ばし、2016年頃に起こったディープラーニングブームの波に乗って一気に成長。これは、CPUを遥かにしのぐGPUの超マルチコアプロセッサアーキテクチャによる並列計算能力が、機械学習やディープラーニングでよく使われるテンソル計算に適していたことと、またCUDAと呼ばれるNVIDIA製GPU専用のGPGPUプログラミング環境およびライブラリが、OpenCLやDirectComputeなどの他のAPIと比べて充実しており、ハイパフォーマンスコンピューティング(HPC)分野で広く普及していたことが大きな理由である。
以上のことから2019年現在、NVIDIAは人工知能、特に自動運転の分野では圧倒的な地位を占めるようになっている。世界中で過熱する開発競争の中で超並列計算機に設備投資が集中し、GPUの需要が高まりすぎたため、1人あたりの購入枚数に制限が掛けられるまでに至っている[8]。
略歴
- 1997年には本社をカリフォルニア州サンタクララに移転した。
- 2000年12月には当時ライバルであった3dfx社を買収している[9]。
- 2001年末の北米でのクリスマス商戦では、マイクロソフトと共同開発したXboxが発売。日本でも翌年2月に発売された[10]。
- 2004年12月7日、ソニー・コンピュータエンタテインメント (SCEI) と共同でPlayStation 3のGPU (RSX) を共同開発することを正式発表した[9]。
- 2006年11月、GPGPUソフトウェア開発基盤「CUDA」を発表[9]。
- 2008年、Tegraプロセッサを発表。従来の携帯機器向けプロセッサと比較して強力なグラフィックス性能を有しており、スマートフォンなどで1080p FHDの映像再生を可能にする[11]。翌年(2009年)にはAndroidと提携[9]。
- 2013年1月7日に自社で携帯型ゲーム機を開発する「Project SHIELD」を発表。同ゲーム機はAndroidとTegra 4を搭載して同年7月末に「SHIELD」という正式名称で北米にて発売された。
- 2014年、組み込みシステム向けソリューション「Jetson」を発表[12]。
- 2016年、ディープラーニング用スーパーコンピュータ「DGX-1」を発表[9][13]。
- 2017年3月3日に任天堂から発売されたゲーム機「Nintendo Switch」を共同開発した[14]。
- 2019年3月18日に開催されたGTCにて、トヨタ自動車子会社、「TRI-AD」が自動運転分野における同社との提携を発表[15]。
- 2020年、英国のコンピューティング・アーキテクチャ開発企業であるArmを、3分の1を現金、3分の2の額を自社株交換によりソフトバンク・グループから買収合意。Armは2016年来ソフトバンク・グループ傘下にあった[16]。
- 2022年2月、Armの買収についてソフトバンクから断念が発表された[17]。
- 2022年10月3日、ロシア事業の全面停止を発表[18]。
- 2023年12月、ジェンスン・フアンは岸田文雄、西村康稔と面会。ソフトバンクやNEC、NTTなどと協力し人工知能を開発する「AIファクトリー」のネットワークを構築する考えを示した[19]。
- 2024年2月14日 – Chat with RTXが公開[20][21][22][23]。
注釈
- ^ 製造を担当するSGS-Thomsonのブランドでの製品名はSTG2000、STBからはVelocity 128 AGP。
出典
- ^ “エヌビディア【NVDA】:業績(通期)/株価 - Yahoo!ファイナンス”. Yahoo! JAPAN. 2020年4月6日閲覧。
- ^ “エヌビディア【NVDA】:企業情報/株価 - Yahoo!ファイナンス”. Yahoo! JAPAN. 2020年4月6日閲覧。
- ^ “エヌビディア ジャパン”. エヌビディア ジャパン Facebook. 2023年2月20日閲覧。
- ^ “NVIDIA Logo GuideLines 1.0”. NVIDIA. p. 1. 2023年7月10日閲覧。 “NVIDIA is always written in upper case.”
- ^ 第203回 エヌビディア創業者 ジェンスン・フアンCEO/台湾
- ^ TECH.C.の強みは多様性国際色豊かな学生が集まるのがすごく良い
- ^ 【やじうまPC Watch】17年前の8月31日、世界初のGPUが誕生した - PC Watch
- ^ “Crypto miners beware, Nvidia wants to keep GPU in the gaming industry” (英語). CCN.com (2018年1月22日). 2019年12月16日閲覧。
- ^ a b c d e “NVIDIA の歴史: 長年にわたるイノベーション”. NVIDIA. 2019年8月7日閲覧。
- ^ ASCII. “原点はXbox NVIDIAチップセットの系譜をたどる”. ASCII.jp. 2019年8月7日閲覧。
- ^ NVIDIA、MID向けの新しいSoC「Tegra」を発表
- ^ NVIDIA Tegra K1搭載開発キット「Jetson TK1」ハンズオンセッションに参加してみた - Car Watch
- ^ NVIDIA、Pascal搭載の深層学習用スパコン「DGX-1」の国内販売開始 ~「Deep Learning Day 2016 Spring」講演 - PC Watch
- ^ “NVIDIA の技術が任天堂の新ゲーム機「Nintendo Switch」に採用されました | NVIDIA”. NVIDIA Japan Blog (2016年10月20日). 2024年2月5日閲覧。
- ^ “NVIDIAとトヨタグループTRI-AD、より安全な自動運転の実現に向けて協業”. 日本経済新聞 電子版. 2019年3月21日閲覧。
- ^ “2022年3月期 第2四半期 決算説明会”. ソフトバンクグループ株式会社. 2021年11月13日閲覧。
- ^ 株式会社インプレス (2022年2月8日). “ソフトバンク、NVIDIAへのArm売却を断念”. PC Watch. 2022年2月8日閲覧。
- ^ “米エヌビディア、ロシア事業を全面停止 従業員は海外移転も(ロイター)”. LINE NEWS. 2022年10月4日閲覧。
- ^ “エヌビディアCEO、日本で「AIファクトリー」-経産相と面会”. 2023年12月6日閲覧。
- ^ 株式会社インプレス (2024年2月14日). “NVIDIA、PC上で動くカスタムAI「Chat with RTX」を無償公開”. PC Watch. 2024年3月2日閲覧。
- ^ “無料のチャットボットAI「Chat With RTX」をNVIDIAがリリース、GeForce RTX GPU搭載PCでローカル動作が可能 - GIGAZINE”. gigazine.net (2024年2月14日). 2024年3月2日閲覧。
- ^ 株式会社インプレス (2024年2月26日). “NVIDIA「Chat With RTX」を、RTX4060搭載ノートPCで動かす〜ローカルLLMでRAGを実現【イニシャルB】”. INTERNET Watch. 2024年3月2日閲覧。
- ^ 株式会社インプレス (2024年2月27日). “【西川和久の不定期コラム】 NVIDIAがローカルで手軽に動せるAIチャット「Chat with RTX」をリリース!その実力は?”. PC Watch. 2024年3月2日閲覧。
- ^ Nvidia signs up with Global Foundries semiaccurate.com
- ^ ATIのチップセット ロードマップをまとめる - マイナビニュース 2006/6/27
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