AH-64D アパッチ・ロングボウ 開発経緯

AH-64D アパッチ・ロングボウ

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/05/29 07:39 UTC 版)

開発経緯

第2世代アパッチ開発計画

1986年7月初期作戦能力を獲得したAH-64A アパッチは、アメリカ軍の数々の作戦に投入されてその威力を発揮し、世界最強の攻撃ヘリコプターであることを知らしめた。ただ、進化が予想される将来の戦場シナリオに対応するための改良・発達が不可欠とされ、マクドネル・ダグラス社は1990年湾岸危機直後に第2世代アパッチ開発計画に着手した。この計画はAH-64Aに全地球測位システム(GPS)、地上・空中単一チャンネル無線システム(SINCGARS)、自動火器管制システムと目標引き渡し機能などを備え、新しいローター・ブレードの装備を含めた信頼性の向上を行うもので、AH-64Bの名称が与えられ、254機のAH-64AをAH-64Bに改修する計画が立てられた。しかし、1990年8月にアメリカ国防調達委員会はもう一つの改修計画である、AH-64C/D計画を承認。これにより、AH-64B計画は実現しなかった。

このAH-64C/D計画は、AN/APG-78ロングボウ火器管制レーダー(FCR)システムを装備し、AH-64B計画での改修点に加え、無線周波(RF)ヘルファイア 対戦車ミサイルの携行能力、ドップラー航法装置の装備、アビオニクスの小型化、コックピットの改善を行うもので、ミリ波レーダー搭載型をAH-64D、ミリ波レーダー非搭載型をAH-64Cと呼称した。1990年12月からAH-64C/Dへの改修作業が開始され、ヘルファイア対戦車ミサイルの開発に間に合わせるために当初の51ヶ月から延長して70ヶ月の全規模開発プログラムがスタートした。1993年末にはAH-64Cの呼称が廃止され、ミリ波レーダー搭載の如何に関わらず、改修機全機をAH-64D アパッチ・ロングボウと呼称することが決定された。

AH-64Dの開発

開発元のマクドネル・ダグラス社はAH-64Dの特徴を以下のように説明している。

  • 状況把握能力と戦場管理能力の向上
  • 悪天候時や障害物のある戦場環境において精密攻撃能力を有しつつ威力を発揮する
  • 戦闘力、生存性の向上
  • 信頼性、入手性、整備性の強化
  • 予算内、スケジュール通りの納入

アメリカ陸軍が装備するAH-64Dは全機、既存のAH-64Aからの改修機とし、全規模開発プログラムに基づいてまず、AH-64Aの量産2号機がAH-64D空力試作改造初号機となり、ダミーのロングボウ・レドームを装備して1991年3月11日に初飛行した。これに続いて試作改造機4機と先行量産改造機2機が製造されている。試作改造初号機は1992年4月15日、2号機は1992年11月13日に初飛行し、空力試験の後、1993年中頃にロングボウ・レーダーが装備されて1993年8月20日に進空した。3号機は1993年6月30日、4号機は1993年10月4日にそれぞれ初飛行しており、5号機はAH-64Cの改造初号機となる予定であったが、AH-64Cの呼称が廃止されたのに伴い、ロングボウ火器管制レーダーを装備しないAH-64Dとして1994年1月19日に初飛行しており、ハミルトン製の新型軽量飛行管理コンピューターを搭載した最初の機体となった。6号機は1994年3月4日に初飛行している。

1995年1月30日から2月9日にかけてカリフォルニア州チャイナレイクで実施された模擬戦形式の評価試験では、AH-64Aと比較して生存性で7倍、目標の破壊数で4倍もの記録を達成し[注 1]、「AH-64DはAH-64Aの28倍の能力を持つ」と謳われるようになった。

AH-64Dへの量産改修については、1995年12月に先行調達段階の契約が結ばれ、1996年8月16日にアメリカ陸軍とマクドネル・ダグラス社が今後5年間で232機を改造する多年度再生産契約を結んでいる。この契約ではまず、初年度に24機の再生産機を納入し、232機全機を2001年第1四半期までに完納することとされた。アメリカ陸軍では、保有する758機の全AH-64AをAH-64Dに改修し、ロングボウ・レーダー搭載機は227機にする計画を立てた。しかし、その後の試験評価などからAH-64Dへの改修機数を501機に削減し、ほぼ全機にロングボウ・レーダーを搭載する方針に変更している。

AH-64Dのアメリカ陸軍向けは、ブロック方式でのアップグレードが採用されており、さらに年度毎のロットによるスパイラル・アップデート方式での段階的な能力向上が行われている。初期引き渡し機はブロックIと呼ばれ、最初の284機がこの仕様である。続く313機がブロックIIと呼ばれるもので、2002年2月25日に初号機がアメリカ陸軍へ引き渡された。ブロックIIは、アメリカ陸軍の戦術級C4IシステムであるFBCB2に対応する通信機能を備えたもので、AN/TSQ-158強化型位置評定報告システム(EPLRS)との接続を可能にしている。


注釈

  1. ^ AH-64Dの300両破壊/4機損失に対し、AH-64Aは75両破壊/28機損失。
  2. ^ AH-64Aにはロックウェル・コリンズ製の自動引き渡しシステムが追加されているが、伝送速度は1,200bpsである。

出典

  1. ^ 平成24年度概算要求の概要(防衛省公式サイト)
  2. ^ 北朝鮮艇を波と識別…韓国軍アパッチヘリのレーダー”. 中央日報 - 韓国の最新ニュースを日本語でサービスします. 2020年12月19日閲覧。
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  4. ^ “Boeing to Start Delivering Military Helicopters to India in 2018”. Wall Street Journal. (2015年10月3日). http://www.wsj.com/articles/boeing-to-start-delivering-military-helicopters-to-india-in-2018-1443536340 2015年10月3日閲覧。 
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  6. ^ 井上孝司「航空最新ニュース・海外軍事航空 インド向けのAH-64E22機を完納」『航空ファン』第814号、文林堂、2020年10月、114頁。 
  7. ^ 『J-Wings』2021年4月、88頁。 
  8. ^ 井上孝司「航空最新ニュース・海外軍事航空 オーストラリアがAH-64E導入へ」『航空ファン』第824号、文林堂、2021年8月、114頁。 
  9. ^ 「航空最新ニュース」『航空ファン』第798号、文林堂、2019年6月、111-121頁。 
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