転向 転向の概要

転向

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/02/04 16:19 UTC 版)

また、同義語は「変節」(へんせつ。守ってきた節義を変えること。転向することへの批判的な意味で用いられる)。「変節」した者への批判・非難、あるいは侮蔑的な表現として「変節漢」(へんせつかん)がある。

「転向」の語源と意味の変遷

類似する概念として、近世に行われたキリシタンに対する仏教神道への改宗棄教の強要があげられる。棄教したキリシタンのことを転びキリシタンと呼ぶ。戦前には、特別高等警察憲兵検察などによって硬軟あらゆる手段を使って「主義者」の「過激」思想を放棄させようとするのが国家の思想政策、思想行政であった。その際に、組織からの離脱を心理的に容易にさせるため、「これは変節ではなく、『正しい路線にかう』のだ」という論法がもちいられた。これが転向の起源である。戦後、思想・良心の自由が保障されるようになってからは「日和った」、「転んだ」などと軽蔑される傾向がある。

普遍的な現象として

近世以前の日本において

日蓮密教を評価していた形跡があるが、その後「真言亡国」を唱えた[1]

安土桃山時代から江戸時代の人物であるハビアンは、禅僧からキリシタンに転向し、さらに反キリスト教に転向した。

近代日本思想史上の現象として

近代日本思想史上に広くみられた現象として転向をとらえることもある。例えば、幕末に攘夷を叫んでいた倒幕側の指導者が政権に就くと、一転して欧化政策を取るようになった。思想家でよく知られる例では、加藤弘之啓蒙主義天賦人権論から国権主義的な社会進化論に主張を変えたことや、三国干渉に衝撃を受けた徳富蘇峰平民主義から国家主義に転じたことなどがある。

世界史における転向

古代ローマでは共和派が帝政派に変わることがあった。古くは革命家から反革命に転ずる者がいる。例えば、ナポレオン・ボナパルトはその典型である。ナポレオンは元々は革命家のマクシミリアン・ロベスピエールの熱烈な支持者であった。しかし、テルミドールの反動で逮捕された後、帝政派に転向し、世界に名を轟かせる皇帝となった。近代警察機構を築いたジョゼフ・フーシェはロベスピエール支持者から反革命に転じて幾度も政権を渡り歩いて警察権力を振るった点で転向者の典型と呼べる。

16世紀には、宗教改革を行ったマルティン・ルターが、反カトリックの観点から当初は反ユダヤ主義を批判し、ユダヤ人に同情していた。しかし、ユダヤ人のキリスト教への改宗がうまくいかなかったため、ユダヤ人に失望し、一転して強固な反ユダヤ主義に転じ、著書『ユダヤ人と彼らの嘘について』で、ユダヤ人の迫害や奴隷化を主張した。


  1. ^ 平島盛龍「日蓮聖人の真言批判について 末法下種思想形成の一側面
  2. ^ 佐野・鍋山が転向理由を弁護団に説明『東京朝日新聞』昭和8年6月11日(『昭和ニュース事典第4巻 昭和8年-昭和9年』本編p548 昭和ニュース事典編纂委員会 毎日コミュニケーションズ刊 1994年)
  3. ^ 『思想検事』(荻野富士夫)P31 - P32、 P43
  4. ^ 三田村、高橋、中尾も転向声明『中外商業新報』昭和8年7月7日(『昭和ニュース事典第4巻 昭和8年-昭和9年』本編p549)
  5. ^ 転向相次ぎ、被告の三割越す『中外商業新報』昭和8年9月5日(『昭和ニュース事典第4巻 昭和8年-昭和9年』本編p550)
  6. ^ 桑尾光太郎『左翼学生の転向と復学--東京帝国大学における事例』東京大学史紀要 (24), 1-20, 2006-03
  7. ^ 桑尾光太郎『転向学生の復学とその後--東北帝国大学・京都帝国大学における事例』東京大学史紀要 (27), 1-16, 2009-03
  8. ^ 思想犯保護観察所を設け乗り出した司法省、東京日日新聞、1935年10月2日(神戸大学電子図書館システム)
  9. ^ 左翼転向者の身の振方に内務省一肌脱ぐ 全国警察署に職業紹介係設置、大阪毎日新聞、1935年4月23日(神戸大学電子図書館システム)
  10. ^ 「文化評論」1976年臨時増刊号
  11. ^ 「「國体の本義」はなぜ手ごわいのか(中)」/稲浜 昇 | 論壇/
  12. ^ 予防拘禁で非転向左翼を再収用『朝日新聞』昭和16年5月16日夕刊(『昭和ニュース事典第7巻 昭和14年-昭和16年』本編p466)
  13. ^ 1922年3月24日付ミュンヒナー・ポスト
  14. ^ オットー・シュトラッサー著『Flight from Terror』[1]
  15. ^ Ian Kershaw: Hitler. 1889–1936. Stuttgart 1998, S. 164; David Clay Large: Hitlers München – Aufstieg und Fall der Hauptstadt der Bewegung, München 2001, S. 159.
  16. ^ Josef Schüßlburner, Sozialdemokratie und Nationalsozialismus: Heil Dir, Lassalle!, 2013
  17. ^ 岡崎久彦『重光・東郷とその時代』PHP研究所、2001年、66頁。ISBN 978-4569616643 
  18. ^ 岡崎『重光・東郷とその時代』、67頁。 
  19. ^ 岡崎『重光・東郷とその時代』、68頁。 
  20. ^ 読書人WEB
  21. ^ 村田晃嗣「レーガン」中公新書、P108
  22. ^ “Putin: I Still Like Communist Ideas ‘Very Much’”. CNS. (2016年1月25日). https://www.cnsnews.com/news/article/patrick-goodenough/putin-his-communist-party-membership-card-i-still-keep-it-home 2019年3月14日閲覧。 
  23. ^ 議員在職50年 小沢一郎「出世とキャリア」〈4〉 1990代~革命(2/7) | JBpress (ジェイビープレス)
  24. ^ 【悲報】実家に帰省したら親がネトウヨになってた…元凶の「ビジネス右翼」を生む歴史と構造。そして治療法はあるのか|古谷経衡(文筆家)|FINDERS
  25. ^ 閉ざす小集団と、開く心 – ページ 2 – 集英社新書プラス
  26. ^ 外山恒一学生運動入門 2.歴史篇


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