美 概説

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/03/19 16:06 UTC 版)

概説

辞書的定義

広辞苑では次のように定義されている。

  • 美しいこと。美しさ。りま。[2]
  • よいこと。りっぱなこと[2]

そして3番目に哲学用語の「美」を挙げており、次のような説明になっている。

  • (哲学)知覚・感覚・情感を刺激して内的快感をひきおこすもの[2]。『快』が生理的・個人的・偶然的・主観的であるのに対して、『美』は個人的利害関心から一応解放され、より普遍的・必然的・客観的・社会的である。

ブリタニカ百科事典では、(広辞苑の3番目に挙げてある哲学的説明から入り)、「感覚、特に視聴を媒介として得られる喜悦・快楽の根源的体験のひとつ」としている[3]。そして、続いて次の注意点を指摘している。

  • 対象にみられる均衡・充実・輝きによって惹起される(タイプの美もある)[3]
  • だが、直接感覚を通さない、いわゆる《精神美》も考えられ、それは「超越美」と呼ばれる[3]

つまり、一方で美には直接の感覚による美があるが、他方、直接感覚に依存せず、精神的に感じられる美もある、と言っているのである。たとえば「彼の一生懸命な生きざまは美しい」「最後まで正義を貫いたこのお方の人生は本当に美しい」などと言うことがある。また「美しいの持ち主」と言うこともある。

これに関連して、今道友信は、『岩波講座哲学 第14』の「美学と芸術理論」において、美は自然の事物等に対する感覚的に素朴な印象から、芸術作品に対して抱く感動感情、あるいは人間の行為の倫理価値に対する評価にいたるまで、さまざまな意味解釈の位相を持っている、と指摘した[4][注 1]

美しいものの具体例

人が例えば何を美しいと言うかというと、自分の祖国や故郷を美しいと言うことがあり、風景を見て美しいということがあり、はたまた美術作品などを見て美しいということもあり、男性は形の整った女性を美しいと言うことがあり、そして女性は形の整った男性を美しいと言うことがあり、数学者は方程式のある種の解法を美しいと述べることがある[5][注 2][注 3]

またモーツァルトフォーレの音楽は、「繊細な美しさを持つ」[6]と言われることがある。

ヘルマン・ヘッセは、作品に『青春は美し』という題をつけた。その意味で、青春も美しいとされることのあるもののひとつと言えよう(ただし、青春は人それぞれで、実に様々な形容詞がつけられている。)

美と芸術の相違

「美」と「芸術」は異なる。『岩波哲学講座 (6)芸術』の「はしがき」を書いた人によると、美しいものは必ずしも芸術ではない[6]」。美しいものすべてが芸術というわけではない。また、逆に芸術作品すべてが美しいというわけでもない。

美と存在論

プラトンは《超越美》(=「精神美」)は実在し、個々の美しいものは、この超越美の分有である、と述べた[3]。(イデア論


注釈

  1. ^ 今道友信は、より厳密な表現においてであるが、自然・技術・芸術・人格存在のありようにおいて、「美の位相差」を論じている。
  2. ^ これらは別の「美しいもの」によって例示可能である。
  3. ^ 数学者が感じる美についての説明は「数学的な美」という詳細な記事が書かれている。
  4. ^ 古代ギリシア語カロス(kalos)は、現代日本語の「美しい」とは意味の異なる言葉である。英語の beautiful に「見事な」という意味があるように、言葉の概念が対応しない例である。

出典

  1. ^ 麗しい/美しい(うるわしい) とは? 意味・読み方・使い方”. goo辞書. 2024年2月17日閲覧。
  2. ^ a b c 広辞苑第六版【美】
  3. ^ a b c d ブリタニカ百科事典【美】
  4. ^ 桑原武夫,加藤周一 編 1969, p. 13.
  5. ^ 「はしがき」『岩波講座哲学 (6)芸術』、i。巻頭の「はしがき」において、編者は、「大和の国は美しく、小野小町は美しく、方程式のこの解法は美しいという」と記している。(引用)
  6. ^ a b 「はしがき」『岩波講座哲学・芸術』、i。
  7. ^ 今道友信「西洋における芸術思想の歴史的展開(古代・中世)」『岩波講座哲学・芸術』、p.39。パンドーラーキルケーヘレネーなどの「美しき者」はまた同時に災悪(カキアー)であった。
  8. ^ 今道友信「西洋における芸術思想の歴史的展開(古代・中世)」、p.54。「カロカカキア」というギリシア語は存在しない。『理想』に掲載した論文中で今道が造語した。
  9. ^ a b 今道友信「西洋における芸術思想の歴史的展開(古代・中世)」『岩波講座哲学・芸術』、p.39。
  10. ^ 張世超; 孫凌安; 金国泰; 馬如森 (1996), 金文形義通解, 京都: 中文出版社, pp. 910–1 
  11. ^ 季旭昇 (2014), 説文新証, 台北: 芸文印書館, p. 299, ISBN 978-957-520-168-5 
  12. ^ 葛亮 (2022), “説“美”“好”――正確理解会意字”, 漢字再発現――従旧識到新知, 上海: 上海書画出版社, ISBN 978-7-5479-2884-4 
  13. ^ 黄徳寛 (2007), 古文字譜系疏証, 北京: 商務印書館, p. 3188, ISBN 978-7-100-05471-3 
  14. ^ 禤健聡 (2017), 戦国楚系簡帛用字習慣研究, 北京: 科学出版社, pp. 212–3, ISBN 978-7-03-052085-2 
  15. ^ 徐超 (2022), 古漢字通解500例, 北京: 中華書局, pp. 120–1, ISBN 978-7-101-15625-6 






美と同じ種類の言葉


英和和英テキスト翻訳>> Weblio翻訳
英語⇒日本語日本語⇒英語
  

辞書ショートカット

すべての辞書の索引

「美」の関連用語

1
94% |||||

2
94% |||||

3
94% |||||

4
94% |||||

5
94% |||||

6
94% |||||

7
94% |||||

8
94% |||||

9
94% |||||

10
94% |||||

美のお隣キーワード
検索ランキング

   

英語⇒日本語
日本語⇒英語
   



美のページの著作権
Weblio 辞書 情報提供元は 参加元一覧 にて確認できます。

   
ウィキペディアウィキペディア
All text is available under the terms of the GNU Free Documentation License.
この記事は、ウィキペディアの美 (改訂履歴)の記事を複製、再配布したものにあたり、GNU Free Documentation Licenseというライセンスの下で提供されています。 Weblio辞書に掲載されているウィキペディアの記事も、全てGNU Free Documentation Licenseの元に提供されております。

©2024 GRAS Group, Inc.RSS