枕草子 評価

枕草子

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/06/20 01:15 UTC 版)

評価

「枕草子絵詞」(部分) 長徳元年(995年)十月、一条帝が岩清水八幡宮に行幸することがあった。その帰り、一条帝の生母詮子が還幸の様子を桟敷から見物していたのを、一条帝が輿をとどめて詮子に挨拶をする(三巻本122段)。

源氏物語』に比肩する中古文学の双璧として、後世の連歌俳諧仮名草子に大きな影響を与えた。鴨長明の『方丈記』、兼好の『徒然草』と並んで日本三大随筆と称される。

肯定的評価
  • 枕草子こそ、心のほど見えて、いとをかしう侍れ。さばかり、をかしくも、あはれにも、いみじくも、めでたくもあることも、残らず書き記したる中に、宮のめでたく盛りにときめかせ給ひしことばかりを、身の毛も立つばかり書き出でて、関白殿失せさせ給ひ、内の大臣流され給ひなどせしほどの衰へをば、かけても言ひ出でぬほどの、いみじき心ばせなりけむ
(さまざまな回想を記した中に、ただ中宮がめでたく栄えておられ、風雅をたしなみ、しみじみと情け深く、配慮にすぐれた素晴らしい様子を描き、伊周・隆家兄弟の左遷や実家の衰退にともなう中宮の悲境について、いささかも言及しないのは、清少納言の「いみじき心ばせ」であった、とする『無名草子』作者の見解)。
  • 枕草子は人間存在、自然を共に深く愛した故に、それを、それぞれの位相において、多種多彩の美として享受・形成した(目加田さくを)。
  • 次から次へと繰り出される連想の糸筋によって、各個の章段内部においても、類想・随想・回想の区別なく、豊富な素材が、天馬空をゆくが如き自在な表現によって、縦横に綾なされている(萩谷朴)。
  • 「季節-時刻」の表現(春は曙など)は、当時古今集に見られる「春-花-朝」のような通念的連環に従いつつ、和歌的伝統に慣れ親しんだ読者の美意識の硬直性への挑戦として中間項である風物を省いた斬新なものである(藤本宗利)。
  • 中宮定子への敬慕の念の現れである。道隆一族が衰退していく不幸の最中、崩じた定子の魂を静めるために書かれたものである。故に道隆一族衰退の様子が書かれていないのは当然である(同上)。
  • 自賛談のようにみえる章段も、(中略)中宮と中宮を取り巻く人々が失意の時代にあっても、天皇の恩寵を受けて政治とは無縁に美と好尚の世界に生きたことを主張している(上野理)。
批判的評価
  • 清少納言の出身階級を忘れひたすら上流に同化しようとした浅薄な様の現れである(秋山虔[注 5]
  • 「定子後宮の文明の記録」に過ぎず、「個」の資格によって書かれたものではない(石田穣二)。

注釈

  1. ^ たとえば第一段「春は曙」は、通説では随想章段に入るが異論あり。
  2. ^ 顕昭所引教長卿註で説かれたのをはじめ、近世の契沖村田春海らに継承され明治まで広く支持された。
  3. ^ 「枕」を「枕詞」「歌枕」などの「枕」と同じく見て、内容によって書名を推量した説で、『磐斎抄』『春曙抄』などに見える。
  4. ^ 関根正直らが説いた。
  5. ^ 自分の親族身分のみならず、身分が高い者に対しても敬語がないため
  6. ^ 『校註日本文学大系』第三巻所収[1]。三巻本系統の伝本を底本にした注釈書は、本書がはじめてであった。

出典

  1. ^ 池田亀鑑「枕草子の形態に関する一考察」 『岩波講座日本文学 10』 岩波書店、1932年。
  2. ^ 『枕草子』(『新編日本古典文学全集』18、小学館 1997/10)494 - 495頁
  3. ^ 石田穣二、角川文庫『枕草子』解説
  4. ^ a b 五味『「枕草子」の歴史学』(2014)pp.16-20
  5. ^ 五味『人物史の手法』(2014)pp.65-73
  6. ^ 『国語と国文学』第五巻第一号(昭和三年一月特別号)、明治書院
  7. ^ 光明道隆(楠道隆)「枕草子三巻本両類本考」 『国語国文』第五巻第六号(昭和10年6月)、臨川書店
  8. ^ 橋本不美男『原典をめざして―古典文学のための書誌―』(笠間書院、1983年)、「平安時代における作品享受と本文(片桐洋一)」(172頁)
  9. ^ 『枕草子』(『新編日本古典文学全集』18、小学館)479頁
  10. ^ 『前田家本枕冊子新註』解説、29頁






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