松阪牛 生産

松阪牛

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2023/12/06 06:43 UTC 版)

生産

宮崎牛、但馬牛など全国各地の高級子牛を買い入れ、肥育農家にて3年程度肥育する。肥育は牛舎で主に穀物類を与え、放牧を行うことはない。1戸あたりの肥育頭数は少なく、大規模経営は和田金牧場くらいである[31]。多くの牧場は後継者が不足しており、牛肉の輸入自由化以降は取引価格も抑えられているなど、盤石の経営環境とは言えない[32]

一部の農家ではウシにビールを飲ませる事がある[2][33][34]。肥育末期に摂食量が落ちる「食い止まり」という現象への対処のためで、ルーメン(第1胃、瘤胃)内の発酵状態を改善する作用が食欲増進に通じ、より肉付きを良くするのが目的である。餌を摂る量が落ちた時に与えるので、毎日飲ませているわけではない[35]。この方法を考案したのは、自社牧場[注 4]を持つ和田金である[37]と言われているるが、ヨーロッパでは家畜や軍用犬の品種改良の際にワインとともに用いられた手法でもある。(ビールの食欲増進効果については否定的な考えを持つ研究者もいる[38]。)

マッサージを行うこともある[2]。これは脂肪を均一にする(霜降り肉にする)ためと一般に言われている[2]が、実際にはそのような効果はなく、出荷前のウシをリラックスさせることが目的である[39]

松阪牛生産農家を中心に、生産地域の地方自治体も含めた約130会員を擁する松阪牛協議会2004年平成16年)11月1日に発足し、松阪牛の生産振興、BSEや産地偽装の無い安全・安心な松阪肉の提供、ブランド維持と発展に向けて活動している。

また、松阪牛は全国各地の優秀な子牛を松阪牛生産地域に導入後、生産者が手塩にかけて育て上げた松阪牛1頭1頭の個体情報や肥育農家情報(給餌飼料や肥育農家名などの農家情報と、牛の出生地、肥育場所、肥育日数)など、導入から出荷まで36項目のデータが松阪牛個体識別管理システムへ集積される[40]


注釈

  1. ^ 田幸和歌子が三重県農水商工部に問い合わせたところ、「まつざかぎゅう」でも誤りではないとの回答を得た[4]が、松阪牛協議会は誤りであると公式サイトで明記している[1]。松阪市は2005年の市町村合併を機に「松阪」の読み方を「まつさか」に統一した[1][5]。語呂の都合から「まつか○○」と濁るように呼称されることがあり、そのようなルビも散見される。地元では「まっつぁか」のように発音されることも多い[4][6]
  2. ^ 「大坂」が「大阪」に変更されたこともあり、1889年(明治22年)に「松坂」から「松阪」に改められた[5]
  3. ^ 平成の大合併で市町村の数は変わっているが、肥育エリアであった市町村と肥育エリアではなかった市町村が合併したりしたためこのような定義の仕方をしている。平成の大合併以降は松阪市、明和町、多気町、玉城町、度会町、大台町の全域と津市、伊勢市、大紀町の各一部が該当する[21]
  4. ^ 厳密には、牧場は株式会社和田金ファームとして分社化している[36]。牧場の開設当初は直営であった[36]

出典

  1. ^ a b c d e f 松阪牛協議会. “松阪牛とは”. 2019年1月6日閲覧。
  2. ^ a b c d 岡田 2015, p. 64.
  3. ^ 三重県地位向上委員会 編 2015, p. 99.
  4. ^ a b c d e 田幸和歌子 (2008年1月31日). “松阪牛は、いつから「まつさかうし」に?”. 2019年1月6日閲覧。
  5. ^ a b 松阪市 (2016年8月15日). “松阪市の概要”. 2017年5月31日閲覧。
  6. ^ 松阪のことは「まっつぁか」と言う”. 三重の会社 カラフル. 2019年1月6日閲覧。
  7. ^ 伊勢志摩編集室 1997, pp. 33–36.
  8. ^ 伊勢志摩編集室 1997, pp. 33–37.
  9. ^ 伊勢志摩編集室 1997, p. 37.
  10. ^ 伊勢志摩編集室 1997, pp. 18–29.
  11. ^ a b 伊勢志摩編集室 1997, pp. 18–30.
  12. ^ a b 大喜多 2007, p. 354.
  13. ^ 伊勢志摩編集室 1997, p. 22, 30, 44, 46.
  14. ^ 浅井 2008, p. 72.
  15. ^ 伊勢志摩編集室 1997, p. 40, 42.
  16. ^ 「わが街企業ファイル 和田金 独特の方法で松阪牛を飼育」読売新聞2005年7月20日付朝刊、三重A、25ページ
  17. ^ 伊勢志摩編集室 1997, p. 54.
  18. ^ 伊勢志摩編集室 1997, p. 52-53, 60-61.
  19. ^ 横田 2004, p. 130.
  20. ^ 岡田(2015):66 - 67ページ
  21. ^ a b 松阪牛生産区域”. 松阪市. 2018年8月18日閲覧。
  22. ^ 岡田(2015):67ページ
  23. ^ a b c d e "「松阪牛」使えず農家泣く 「肥育22市町村」外れた地域" 朝日新聞2002年8月17日付朝刊、名古屋版夕刊1ページ
  24. ^ a b c d e f "「松阪牛」ブランド保護で波紋 産地限定に農家反発 価格高騰、引っ越し組も" 日本経済新聞2002年9月16日付朝刊、24ページ
  25. ^ 浅井 2008, p. 75.
  26. ^ a b 浅井 2008, p. 74.
  27. ^ a b "「松阪牛」定義訴訟 異議の原告が敗訴" 朝日新聞2010年11月5日付朝刊、名古屋版社会面27ページ
  28. ^ a b c 松阪牛”. 農林水産省東海農政局. 2016年3月3日時点のオリジナルよりアーカイブ。2018年8月18日閲覧。
  29. ^ 横田 2004, p. 131-132, 134.
  30. ^ 横田 2004, p. 134.
  31. ^ 伊勢志摩編集室 1997, pp. 96–101.
  32. ^ 横田 2004, p. 130, 134.
  33. ^ ブース 2014, pp. 117–125.
  34. ^ 松阪牛とは”. 株式会社三重県松阪食肉公社. 2018年8月18日閲覧。
  35. ^ ブース 2014, p. 124.
  36. ^ a b 向笠・すきや連 2014, p. 177.
  37. ^ 伊勢志摩編集室 1997, p. 31.
  38. ^ ブース 2014, p. 126.
  39. ^ ブース 2014, p. 125, 127.
  40. ^ 松阪牛について”. 松阪牛の牛若丸. 2014年4月12日時点のオリジナルよりアーカイブ。2018年8月18日閲覧。
  41. ^ “中国に「松坂牛」? 「松阪牛」の商標登録ピンチ”. 朝日新聞. (2008年5月15日). オリジナルの2008年5月15日時点におけるアーカイブ。. https://megalodon.jp/2008-0515-1824-21/www.asahi.com/life/update/0515/NGY200805150005.html 2018年8月18日閲覧。 
  42. ^ “「松阪牛」本家の商標登録、中国却下 「一般的な食材」”]. 朝日新聞. (2010年5月12日). オリジナルの2010年5月14日時点におけるアーカイブ。. https://web.archive.org/web/20100514025801/http://www.asahi.com/national/update/0512/NGY201005120027.html 
  43. ^ “市長「政府のツケ…香川とブランド守る連携も」 松阪牛商標登録、中国却下”. 産経ニュース. (2010年5月13日). オリジナルの2010年10月30日時点におけるアーカイブ。. https://web.archive.org/web/20101030152957/http://sankei.jp.msn.com/economy/finance/100513/fnc1005130918006-n1.htm 
  44. ^ 三重新聞夕刊版 2010年6月1日
  45. ^ 夕刊三重 2010年6月報道 幹事長室からの圧力[リンク切れ]
  46. ^ “【台湾ブログ】「松坂豚(ブタ)」にも合う! 日本発の塩麹を自作してみた”. サーチナ. (2014年1月3日). オリジナルの2014年1月4日時点におけるアーカイブ。. https://web.archive.org/web/20140104045907/http://blog.searchina.net/node/3358 2018年8月18日閲覧。 






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