待機児童
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2023/12/10 13:09 UTC 版)
定義
保育所の待機児童は、入所・利用資格があるにもかかわらず、保育所が不足していたり定員が一杯であるために入所できずに入所を待っている児童のことと定義される[1]。古くは1960年代から1970年代にかけて第二次ベビーブームをうけた保育所不足の際に多数発生している(当時は同様の状態にある児童を「保留児」とも呼んだ[2])。1980年代には保育所不足はいったん沈静化したが、1990年代後半以降、特に大都市部で待機児童が増加している。
厚生労働省の統計では2003年度以降、“他に入所可能な保育所があるにもかかわらず第1希望の保育所に入所するために待機している児童”や“地方単独保育事業を利用しながら待機している児童”は、待機児童から除かれている。このため実質的な待機児童数は公表されている統計よりも多いとみられ、「潜在的待機児童」として取り上げることもある。
問題の概要
1990年代後半以降、一部の都市における待機児童数の急増が問題化している。2015年4月1日時点の待機児童数は全国で23,167人[3]で、10年前の2003年(26,383人)と比較すると数自体は減っている[4]が、2014年4月1日時点の21,371人[5]から5年ぶりの増加となった。その半年後の2015年10月1日時点では45,315人[3]と春より秋が多い傾向があり、年度内の変動も大きい。2013年時点で待機児童が最も多いのは東京都(8,117人)で、沖縄県は待機児童数で2位(2,216人)、待機児童率(保育所定員に対する待機児童の割合)で全国1位(6.35%)である。待機児童率1%以上が9都道府県存在し、東京都、沖縄県、宮城県の3都道府県が2.5%以上と他都道府県に比べて桁違いに高い。待機児童問題は都道府県により深刻さが大きく異なる[4]。待機児童がゼロの県は2015年4月1日時点で、11県だった(青森・群馬・新潟・富山・石川・福井・山梨・長野・鳥取・香川・宮崎)が、同年10月1日時点では富山・石川・福井・山梨・長野の5県にとどまっている[3]。
2019年9月6日、厚生労働省は、認可保育施設に入れない待機児童は、同年4月1日時点で1万6772人になったと発表した[6]。
なお学童保育(放課後児童クラブ・学童クラブ)においても待機児童が発生しており、その数は2015年5月1日時点で16,941人[7]であった。特に公立小学校では少子化や都市部のドーナツ化現象により学校統廃合が進行しており、公設学童クラブ(運営を民間に委託しているものを含む)において定員を大きく超えているケースが東京都中野区・世田谷区・八王子市等でみられる。待機児童がゼロの県は石川の1県のみだった[8]。
人口の多い都心部を中心に待機児童が多い傾向にあるが、愛知県は東京や大阪と比較して待機児童が少ない傾向にある[9]。
2019年9月30日、民間団体の「全国学童保育連絡協議会」は、「学童保育」(放課後児童クラブ)の待機児童が、同年5月1日時点で少なくとも1万8176人いると発表した[10]。
問題の原因
人気のある都市への流入による人口集中が一因であると考えられるが、その他にも共働き家庭の増加や家庭環境の多様化など社会構造が大きく変化して夫婦共に時間の融通がない正社員の家庭が急増する中で、保育所の増設や受け入れ数増加など施設整備が立ち遅れたことなども原因である。高度経済成長期頃までは、いわゆる専業主婦モデルが最も豊かに経済成長させる仕組みだった[10]。日本国憲法第14条(平等権)、女子差別撤廃条約、男女雇用機会均等法、育児休業制度等の理念や制度の普及により離職が減少し、出産後も正社員として働く女性の数は長期的にみると増加している[11]。既婚女性・乳幼児期子育て中の就業率は高度成長期でも50%以上だったが、時間に融通のきくパートタイムが圧倒多数だった[12]。一般的には、女性の社会進出、かつ正社員として働く女性が増えたことに加え、一人親家庭など日中の保育に欠ける家族形態があることが保育の需要増加の理由にあげられている。女性が働いて、夫が家庭で子育てに専念する「専業主夫」という形態もあるが、割合としては少数である。
また、本心では育児休業を延長するつもりで、その手続きに使うため、競争率が高い保育所へ敢えて申し込んで「落選通知」を得ようとする保護者が一部に存在している。こうした「落選狙い」組は統計上の待機児童数を増やしており、厚生労働省や各自治体が対策を検討・実施している[13]。
住民の保育園反対
国や地方自治体は2010年代から特に待機児童対策に力を入れ、保育園の新設を検討するも、「静かな余生」を主張する高齢者など一部住民らの市民団体に騒音問題等により反対され自治体が断念するケースもある。保育所関係者はこのような反対者らを「理由をつけて建設中止を要求してくる」と批判している。為末大は「園児の声は無条件で騒音とは見なさないとする条例を作ってくれたら」と提唱し、国や自治体が一部の近隣住民の反対運動などは無視出来るような法令の制定にしてはどうか、と意見している程である。更に、いったんは当初の待機児童解消させても、そのような福祉が充実している自治体への他地域から移住者の増加、補助金の増加や入れ人数の拡大が「子どもを預けて働きたい」という「潜在的需要の掘り起こし」で待機児童が続々と出てくるなど結果的に「鼬ごっこ」になっている。そのため、国や自治体が力を入れてるのに減るどころか逆に希望者が増加する状況に地域住民の建設反対運動など解決するには難しい問題になっている[14][15][16][17][18][19][20][21][22]。
- ^ 庄司洋子他編『福祉社会辞典』p.668, 弘文堂, 1999年.
- ^ 待機児童とは何か(PDF), 『現代社会における保育所入所待機問題』第1章, 大畑陽平(京都学園大学), 2012年.
- ^ a b c 厚労省 平成27年4月の保育園等の待機児童数とその後
- ^ a b 保育所整備と待機児童解消及び出生率向上の関係分析(PDF), 三重県戦略企画部統計課, 2014年4月.
- ^ 厚労省 保育所関連状況取りまとめ(平成26年4月1日)
- ^ “待機児童、最少って… 残る1万人超「無償化より園を」:朝日新聞デジタル”. (2019年9月9日)
- ^ 産経ニュース 学童保育の待機児童、最多の1万6941人 厚労省「6年生まで対象拡大など影響」 厚生労働省,2015年12月18日発表
- ^ 厚労省 平成27年 放課後児童健全育成事業(放課後児童クラブ)の実施状況(5月1日現在)
- ^ mw.nikkei.com/sp/#!/article/DGXLASFD02H2T_S6A900C1L91000/
- ^ 実際に都市部では専業主婦がいるサラリーマン家庭が多かった。ただし、農漁村や商家など自営業者では家業で働くことが通例であった。
- ^ 厚生労働省 (2008年3月28日). “「平成19年版 働く女性の実情」” (PDF). 図表1-1-6 勤続年数階級別一般労働者構成比の推移. pp. 4頁. 2009年2月20日閲覧。
- ^ 平成23年版働く女性の実情, 厚生労働省
- ^ 保育所あえて「落選狙い」育休延長目的で横行/厚労省 応募本気度 確認制を検討『読売新聞』朝刊2018年10月21日(社会面)。
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- ^ 社会保障審議会少子化対策特別部会 (2009年2月24日). “次世代育成支援のための新たな制度体系の設計に向けて” (PDF). 労働市場参加が進まない場合の労働力の推移. pp. 10頁. 2009年6月30日閲覧。
- ^ 社会保障審議会少子化対策特別部会 (2009年2月24日). “次世代育成支援のための新たな制度体系の設計に向けて” (PDF). 子どものいる女性の就労希望. pp. 9頁. 2009年6月30日閲覧。
- ^ 保育所待機児童数(平成24年10月), 厚生労働省, 2013年3月
- ^ 保育所関連状況取りまとめ(平成24年4月1日), 厚生労働省, 2012年9月
- ^ 保育所待機児童数(平成23年10月), 厚生労働省
- ^ 保育所関連状況取りまとめ(平成23年4月1日), 厚生労働省
- ^ 保育所待機児童数(平成22年10月), 厚生労働省
- ^ 保育所関連状況取りまとめ(平成22年4月1日), 厚生労働省
- ^ 保育所待機児童数(平成21年10月), 厚生労働省
- ^ 保育所関連状況取りまとめ(平成21年4月1日), 厚生労働省
- ^ 東日本大震災の影響により、岩手県陸前高田市・大槌町、宮城県山元町・女川町・南三陸町、福島県浪江町、広野町、富岡町については未集計
- ^ 待機児童の速やかな解消に向けて, 厚生労働省, 2013年3月21日.
- ^ 平成25年4月1日現在の保育所待機児童数について, 横浜市子ども青少年局, 2013年5月20日.
- ^ 横浜市の待機児童、2年連続ゼロはならず 注目され殺到, 朝日新聞2014年5月20日付(2014年7月11日閲覧).
- ^ 給食おばちゃん、道路指導員、役所、保育士、看護師、教師など。
- ^ 「2017年 日本はこうなる」 p14,三菱UFJリサーチ&コンサルティング ,2016年
- ^ 従業員向け企業保育所 県内急増 9市に24施設
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- ^ 厚生労働省社会保障審議会少子化対策特別部会 (2009年2月21日). “社会保障審議会少子化対策特別部会 第1次報告 -次世代育成支援のための新たな制度体系の設計に向けて-”. 2009年8月29日閲覧。
- ^ “子ども・子育てビジョン~子どもの笑顔があふれる社会のために~” (PDF). 内閣府政策統括官(共生社会政策担当) (2010年1月29日). 2010年4月1日閲覧。
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