学芸員 学芸員補となる資格

学芸員

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/07/18 03:10 UTC 版)

学芸員補となる資格

博物館法第6条では「学校教育法(昭和22年法律第26号)第90条第1項の規定により大学に入学することのできる者は、学芸員補となる資格を有する。」と規定されている。すなわち高等学校及び中等教育学校を卒業した者や高等学校卒業程度認定試験及び大学入学資格検定に合格した者などは学芸員補となる資格を有している。また、2022年の博物館法改正により、短期大学を卒業した短期大学士のうち博物館に関する科目を履修した者は学芸員補の資格を得ることになった。

各分野における学芸員

日本各地に多数の公立・私立の博物館が存在する。箱物行政により、建物は比較的容易に建つが、人的な面ではお座なりにされてきた傾向が強かった。さらに、近年の地方公共団体の財政悪化で、老朽化した建物の改築もままならず、人的補充が全くなされない博物館も多く、学芸員資格を有していても博物館に就職するのは常に困難を伴っている。

美術分野

美術分野における学芸員は、美術展の企画、所蔵品の選択、ワークショップなどの美術普及活動を行う専門的な職員である。しかし、実際には、人手不足の折、力仕事までこなす「何でも屋」になっているというのが実情という話もよく耳にする。

通常、学芸員には、それぞれ、1つまたは複数の専門の分野があり、その専門分野は、その学芸員が所属している美術館等の企画や収集と極めて密接な関係にある。

たとえば、写真が専門である学芸員がいる美術館では、通常、写真作品の収集に力を入れており、また、写真の企画がなされる可能性も高い。ときどき、「何故、あの美術館であんな写真の企画がなされるのだろうか」と不思議なケースがあるが、それは、その美術館に、写真専門の学芸員がいる、ということがその理由であることが多い。逆に写真を専門とする、または、少なくとも、副次的に写真を専門とする学芸員がいない美術館では、写真の企画はまずなされない。なぜならば、写真を扱える担当者がいない美術館に写真作品を任せられるはずがないからである。

したがって、美術のある分野に興味があり、その分野について「強い」美術館を知るためには、その分野について専門の学芸員を知らねばならない。そして、そのような学芸員が所属している美術館こそ、その分野について「強い」美術館であるということが言える。

しかし、以上のような認識は、専門家か一部の美術ファンにしかないため、学芸員の情報(どの美術館にどの分野を専門とする学芸員が所属しているかという情報)は、通常は存在せず、一般的に知る手段もない。これに関しては、

  1. 学芸員は、大学の教授などと異なり、美術館等の所属機関側が、その独立性を認めないことが多く、そういった情報の流布(や美術館等の枠を越えた活動、例えば、評論・出版活動)を妨げている。
  2. 学芸員自身が、余計な業務の増加等をおそれて、そういった情報の流布を嫌っている。
  3. 学芸員は、タレントや政治家などといった多数の目にさらされる人々とはまったく異なり、そういった情報の流布により、プライバシーの侵害のおそれがあるため、流布がなされない。

というような指摘もある。同じ日本の博物館施設でも、自然史系博物館、歴史系博物館、民俗学系博物館では学芸員の専門に応じた一般向けの講座や児童・生徒向けの教室がしばしば開かれており、そうした講座、教室のテーマ動向などによって学芸員の専門動向を比較的容易に知ることができる。しかし日本の美術系施設では、ワークショップ形式のイベントを取り入れている現代美術系の施設を除くと、そうした情報取得が比較的困難である。

なお、もちろん、国立などの、大きな美術館・博物館であれば、学芸員に相当する専門職員も多く、美術のほとんどの分野をカバーできるはずであるが、学芸員制度を採る私立、公立の美術館でそのような恵まれた施設はまれであろう。

歴史分野

歴史分野の学芸員も、多くの博物館では人員不足から少人数で研究活動や収蔵した資料の整理・目録化は勿論のこと、展示の企画、展示物の選定・賃借、図録用の写真撮影、図録や刊行物の執筆・編集、実際の展示まで行っている。

また、歴史分野は狭義の歴史分野(いわゆる文献史学)と考古分野と民俗分野に大きく分けられ、歴史分野はさらに時代別に細分される。一人でこの多分野を網羅できる学芸員はまずいない。そこで、都道府県立級の歴史系博物館では各分野の担当職員を一人ずつ置く場合もあるが、市町村立級の博物館では一人ないしは二人の職員が多分野を担当せざるを得ない。

博物館の専門的職員は博物館法施行規則に定められた要件を満たす学芸員資格の保持者でなければならない。学芸員資格には専門分野ごとの種別はないが、博物館の効果的な運用のためには、その博物館の理念、地域特性、収蔵品の傾向などに適した専門分野の人材を採用することが望ましい。都道府県立の博物館の多くは教育委員会の主管であるが、なかには学芸員の採用試験はおこなわずに、教員として採用された者を一定期間、配属するところもある。この場合、調査研究よりむしろ社会教育的な傾向が強くなる。また、市町村立の博物館では学芸員として採用する場合であっても「一般職に移動する場合がある」という条件が付せられている場合や、学芸員資格保持者を嘱託や臨時職員として雇用している場合もある。

自然史・地学分野

恐竜博物館等・古生物分野

天文台(プラネタリウム含む)・宇宙分野

科学分野

産業分野

動物園・生物分野

水族館・生物分野

植物園・生物分野

生物を主に取り扱う学芸員は、自然界に存在する生物のの形態形質、分布とそれらの変異幅の物証となる標本の蓄積と管理である。特に、種の記載の基準となるタイプ標本の保管は、タイプ標本を所蔵する博物館の国際的責務となる。博物館は館の方針にもよるが、基本的には大規模な博物館であっても、国際的な記録(インベントリー)事業のほかに,館の設置場所周辺の生物相の標本蓄積を伴っている

こうした基礎業務上、学芸員は何らかの生物群に関する分類学研究者、あるいは分類学のトレーニングをある程度受けた者が就くことが望ましいが、現代日本の大学教育で、分類学研究者の養成体制が弱体化していること、博物館に地域の環境教育の拠点としての機能が強く求められるようになり、そうした専門性を期待できる学芸員が必要とされてきていることなどもあって、同じ野外系生物学の生態学を専攻した者が生物系学芸員の職に就くことも多くなっている。

生態学の専門知識を持つ学芸員には、環境教育の基礎情報となる地域の生態系に関する基礎調査が求められるが、同時にその地域の生態系が地域社会の人間生活と歴史的にいかなる関係を築いてきたかを解明する必要があり、里山研究などの形で人文系学芸員とかなり近接した研究活動を行うことも多くなってきている。

博物館法の見直し

2010年代までの見直し議論

学芸員資格に関する改正の議論が、文部科学省の「これからの博物館の在り方に関する検討協力者会議」(2006年立ち上げ)により行われ、次のような趣旨の改正案が作成された[12]

  • 現行の学芸員の『学芸員補』への格下げ
  • 新制度による学芸員の資格
    • 登録博物館における5年以上の学芸員補の経験
    • 学芸員補+博物館に関する専門的科目の取得+修士
    • 国家試験
  • 上級学芸員
    • 登録博物館において10年以上の学芸員の経験+実績+研修+国家試験、及び取得後定期的に研修等を受講

しかし、案は棚上げされ、2012年現在で実現の見通しは立っていなかった[13]

2017年の山本大臣発言

2017年4月、滋賀県主催の地方創生セミナーにおいて、博物館を含む文化財などを観光資源にしようと考える山本幸三地方創生担当大臣第3次安倍第2次改造内閣)が、それを妨げる存在として「学芸員はガンだ」との主旨の発言をし、「学芸員の価値を理解していない。」「学芸員の仕事には観光振興は含まれない。」など、博物館などの関係者から猛反発を受ける事態が生じた[14]。これについて山本は毎日新聞の取材に対し、例えば京都の二条城ではかつて英語の紹介すらなかったし、文化財などで観光客、特にインバウンド(訪日外国人)向けのパフォーマンスをしようとすると学芸員が反対する、観光立国を目指すなら学芸員も観光マインドを持って説明やパフォーマンスをする、プロだけの仕事ではないと理解してもらうことが大事と述べ、全員をクビにするのは少し言い過ぎだがイギリスのロンドンでは実際にそういうことが起こったとも説明した[14][15]。これに先立つ同年3月9日の参議院内閣委員会において、公明党西田実仁に対する答弁の中でも、(2012年の)ロンドンオリンピックの時に行った文化プログラムに際し、大英博物館の壁を取り払うなどの改造に一番抵抗をしたのが学芸員で、「観光マインドがない学芸員は全部首にした」ので「大英博物館を始め大変な観光客が継続して続くようになりまして、オリンピック終わってもにぎやかさを保っている」と語っていた[16]

しかし、山本は翌日の4月17日に上記の発言を撤回して陳謝した。更に、ハフィントンポストの取材に対して大英博物館の担当者が大改装や学芸員の解雇は行っていないと述べた後、4月21日に山本は自らに事実誤認があったと釈明した[17]

2022年の博物館法改正

2017年には文化芸術基本法が成立し、観光、まちづくり、国際交流、福祉などの関連分野での政策を取り込みながら文化芸術が生み出す価値をその継承や発展につなげる好循環の創出が含まれた[18]。2018年6月、第4次安倍内閣が提出した文部科学省設置法改正法が成立して博物館の所管官庁が同省外局の文化庁に統合された[19]

これを受け、文部科学省文化審議会は今後の博物館に関するあり方を審議し、2021年12月20日に答申を提出した。これを受け、第2次岸田内閣は博物館法改正法案(第208回国会閣法31号)を提出し、2022年3月24日に衆議院[20]、4月7日に参議院で可決され成立し、4月15日に公布されて、2023年4月1日からの施行が決まった(令和4年法律第15号)[21]。その中では博物館事業へのデジタルアーカイブ追加、他の博物館との連携、地域の多様な主体と連携協力した文化観光などの地域活性化への取り組みなどが含まれたほか、上記の通り、関連科目を履修した短期大学士にも学芸員補の資格を与えることになった[22]


  1. ^ 学芸員について:文部科学省
  2. ^ 博物館について”. 文化庁博物館総合サイト. 文化庁. 2024年3月28日時点のオリジナルよりアーカイブ。2024年7月18日閲覧。
  3. ^ a b 博物館法”. e-GOV法令検索. 2024年7月18日閲覧。
  4. ^ 橋爪勇介 (2022年7月5日). “学芸員を蝕む労務問題。業務量7割が「多い」、パワハラ経験も”. ウェブ版「美術手帖」. 2024年7月12日閲覧。
  5. ^ 和田岳 (2022年7月5日). “学芸員の仕事”. 大阪市立自然史博物館. 2024年7月12日閲覧。
  6. ^ 文化庁. “e-gov法令検索_博物館法”. 文化庁. 2024年7月12日閲覧。
  7. ^ 学芸員になるには:文部科学省
  8. ^ 博物館に関する科目について:文部科学省(文部科学省ホームページ)、図書館法施行規則の一部を改正する省令及び博物館法施行規則の一部を改正する省令等の施行について(通知) (PDF) 。いずれも2012年2月27日閲覧
  9. ^ 放送大学|学芸員の資格|資格取得を目指したい方放送大学
  10. ^ 奥野花代子「「昭和27年(最初)の博物館学芸員講習」について—赤星直忠氏の第1號学芸員講習身分證明書から—」(『神奈川県立博物館だより』137号、1994年)
  11. ^ 早稲田大学 文学部 学芸員資格課程 夏季集中講座
  12. ^ 学芸員資格の改正について(案・文部科学省)
  13. ^ “「博物館法改正、期待外れ」”. 朝日新聞. (2008年8月30日). http://www.asahi.com/culture/news_culture/TKY200808300050.html 2012年2月27日閲覧。 
  14. ^ a b 吉川慧 (2017年4月16日). “山本幸三・地方創生相「学芸員はがん。一掃しないと」 発言に批判相次ぐ”. ハフィントンポスト日本語版. 2022年6月29日閲覧。
  15. ^ https://mainichi.jp/articles/20170417/k00/00m/010/093000c”.+毎日新聞. (2017年4月16日) 
  16. ^ 第193回国会 参議院 内閣委員会 第2号 平成29年3月9日”. 参議院 (第193回国会 参議院 内閣委員会 第2号 平成29年3月9日). 2022年6月29日閲覧。
  17. ^ 吉川慧 (2017年4月21日). “山本地方創生相、"大英博物館が学芸員を全部クビ"は事実誤認と認める「若干の記憶違いがあった」”. ハフィントンポスト. 2022年6月29日閲覧。 “「私に若干の時系列で記憶違いがあったようだ」「事実ではなく、反対した人は辞めざるを得なくなった」「英国人の友人に確認した」”
  18. ^ 文化審議会(2021)、p6。
  19. ^ 文化大革命(2021)、p1。
  20. ^ この際、れいわ新選組のみが反対し、他の会派はすべて賛成した。
  21. ^ 議案名「博物館法の一部を改正する法律案」の審議経過情報”. 衆議院. 2022年6月29日閲覧。
  22. ^ 博物館法の一部を改正する法律の概要”. 文化庁. 2022年6月29日閲覧。


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