八百長
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/04/13 06:44 UTC 版)
概説
選手、審判およびその家族や関係者を脅し(または人質を取り)、わざと敗退を強要する場合もあれば、選手に金品などの利益を供与し、便宜を図って行われる場合もある。
勝負事においては競技の如何を問わず、常にブックメーカーや暗黒街の暴力団、マフィアの主導による非合法の賭博が絡むなどの現実的側面が付きまとっているため、公営ギャンブル対象競技はもちろん、公営ギャンブル対象ではない他の競技でも組織の内部規定によって永久追放・出場停止・降格など厳しく処分される。
なお、複数の選手が同時に参加する個人競技において、同じチームメイトが複数人参加している場合はチーム側の意向で参加選手の前後位置を入れ替える例(モータースポーツのチームオーダー)や、自身の好記録を目標とせずに仲間の走行を容易にするためにペース作りや風除けなどでサポートする例(自転車ロードレース競技のアシスト・陸上競技のペースメーカー・競馬のラビット)がある。これらの行為は個人競技において「個人の上位進出を目指さず、故意に敗退すること」を前提としているため、スポーツマンシップに反するとしてかつてはタブー視されたり明文ルールで禁止された事例もあるが、現在は日本競馬のラビットを除き容認ないし黙認されている。
日本においては公営競技(競馬・競輪・競艇・オートレース)やJリーグなど、「合法的な賭博」の対象となる競技は競馬法第32条の2〜第32条の4・自転車競技法第60条〜第63条・小型自動車競走法第65条〜第68条・モーターボート競走法第72条〜第75条・スポーツ振興投票実施法第37条〜第40条で選手などに対し八百長などの不正行為に対する刑事罰が規定されている。
また賄賂でなくても選手が金銭的利益のために競走について他人に得させるために全力を出さない状況にしないため、競馬法第29条・自転車競技法第10条・小型自動車競走法第14条・モーターボート競走法第10条・スポーツ振興投票実施法第10条で選手などが投票券を購入や譲り受けをすることについて刑事罰が規定されている。また競技場への選手による通信機器[† 1]の持ち込みを禁止し、違反者は長期間の出場停止や選手資格の剥奪など処罰の対象になる[2]。
さらに競馬では競馬法第31条で自己が財産上の利益を得なくても、「一時的に馬の競走能力を減ずる薬品などを使用した者」や「(競走について他人に得させるため)競走において馬の全能力を発揮させなかった騎手」に対する刑事罰が規定されている。陸上競技のペースメーカーに類似した競馬のラビットは、刑事罰を規定した競馬法第31条の条文「他人に得させるため競走において馬の全能力を発揮させなかった騎手」に解釈次第によっては該当する可能性がある。
公営競技とJリーグを除く勝負事の八百長を刑事罰に規定する直接の法律はない[3] が、闇社会による賭博が絡む場合、賭博罪や詐欺罪の対象となる可能性がある[3]。また懸賞金がからむ勝負事での八百長については懸賞金を出す者に対する詐欺罪、勝負事を業務とすることができれば偽計業務妨害罪の適用可能性がある[3]。
八百長に伴う金銭の授受があった場合は、課税上の問題として現金を受け取った側に贈与税や雑所得としての所得税の課税対象になる可能性があるが、小額の場合は資産蓄積や対価性認定の問題もある[3]。
由来
八百長は明治時代の八百屋の店主「長兵衛(ちょうべえ)」に由来するといわれる。八百屋の長兵衛は通称を「八百長(やおちょう)」といい[† 2]、大相撲の年寄・伊勢ノ海五太夫と囲碁仲間であった。囲碁の実力は長兵衛が優っていたが、『八百屋の商品を買ってもらう商売上の打算』、『勝負の時間を、縮める』(説)、等から、一勝一敗になるように手加減した碁で機嫌を取っていた[4]。
しかし、その後、回向院近くの碁会所開きの来賓として招かれていた本因坊秀元と互角の勝負をしたため、周囲に長兵衛の本当の実力が知られるようになった。長兵衛が伊勢ノ海五太夫に行っていたのは相手には秘密の接待碁であったが、その後は真剣に争っているようにみせながら、事前に示し合わせた通りに勝負をつけることを八百長と呼ぶようになった。
2002年に発刊された日本相撲協会監修の『相撲大事典』の八百長の項目では、おおむね上記の通りで書かれているが、異説として長兵衛は囲碁ではなく花相撲に参加して親戚一同の前でわざと勝たせてもらった事を挙げているが、どちらも伝承で真偽は不明としており、「呑込八百長」とも言われたと記述されている。
1901年10月4日付の読売新聞では、「八百長」とは、もと八百屋で水茶屋「島屋」を営んでいた斎藤長吉のことであるとしている。
注釈
- ^ 電波による通信機能がついている機器全般が対象となるため、携帯電話・スマートフォン等の電話類だけでなく、ノートパソコンや携帯ゲーム機なども含まれる。
- ^ このように八百屋で店主の名を一文字取って屋号にする例は、21世紀の現代でも「八百正」「八百政」「八百半」というように存在する
- ^ 八百長の問題となった「たちばな賞」については専門家の間でも八百長に否定的な意見が出ている。実際にたちばな賞のパトロールフィルムを見た大川慶次郎、寺山修司は八百長なのかは分からないと発言した他、三木晴男や渡辺敬一郎は八百長の対象馬が4番人気であった点を疑問視し八百長に懐疑的な見解を述べている
- ^ 当時のオートレース第一人者広瀬登喜夫が冤罪で逮捕された
- ^ ダニエル・ケレラー、ダビド・サビッチなど数選手が八百長に関与し永久資格停止処分を受けた
- ^ この日先発した阪神の江夏豊(当時)は引退後、自身の著書『左腕の誇り』でこの試合に触れ、試合の2日前、当時の阪神タイガース球団代表長田睦夫と常務の鈴木一男から呼び出され「(最終戦甲子園の巨人戦で優勝を決めたいから)この試合は負けるように」と指示されたとし、江夏が反論すると監督の金田正泰も(この日の敗戦は)了承しているから」と言われたと記述している反論として、当時阪神のヘッドコーチ岡本伊三美は試合当日まで中日戦に江夏が登板することを知らされていなかった。また対戦相手の中日先発星野仙一は2011年、大相撲の八百長問題に関連して当時を振り返り、星野自身が消化試合であったことから(阪神を勝たせるため)阪神のバッターに打ち頃の球を投げ続けたが、阪神のバッターは一向に打てなかったと振り返っている。
- ^ この言葉は八百長力士にも実力がある事を示す言葉として用いられやすいが、八百長力士であれば非八百長の取組だけに集中できるため、非八百長の取組でも有利になる事に注意が必要である。しかし、大相撲は一般的なスポーツとは異なるため、他のスポーツにおける八百長とは同列視はできないという見方もある。
出典
- ^ コトバンク-八百長
- ^ 日本経済新聞2011年2月9日
- ^ a b c d 八百長問題 逮捕は?直接の法規定なし 東京新聞2011年2月4日
- ^ 日本国語大辞典,デジタル大辞泉, 精選版. “八百長(やおちょう)とは? 意味や使い方”. コトバンク. 2023年4月14日閲覧。
- ^ 競技者もしくはチームが、故意に試合に敗れる、または敗れるために策を用いるなどの行為を、対戦相手に知らせずに(知られずに)行うこと。
- ^ 色川, 武大 (1979), 小説 阿佐田哲也, 角川書店
- ^ “【JFL鈴鹿八百長未遂】藤田俊哉氏 金銭からむ欧州的な「八百長」迫っている 関係者に警鐘 - サッカー : 日刊スポーツ”. nikkansports.com. 2022年4月26日閲覧。
- ^ “【JFL鈴鹿八百長未遂】山口香氏 何に背いているか? 「自分はフェア」過信する人ほど危うい - サッカー : 日刊スポーツ”. nikkansports.com. 2022年4月26日閲覧。
- ^ CASが八百長選手の訴え退ける
- ^ 八百長でダビド・サビッチの永久失格確定
- ^ “サッカー=イタリアで八百長疑惑、代表監督含む130人を捜査へ”. reuters. 2022年10月1日閲覧。
- ^ テニス八百長で83人逮捕、スペイン警察 全米出場者も
- ^ 「疑惑の名勝負大全」ミリオン出版74〜75ページ
- ^ 江夏豊著『左腕の誇り』
- ^ “伝説のチャンピオン、波乱万丈の人生を語る Vol.4”. 卓球王国 2003年10月号 28頁. 2009年1月29日時点のオリジナルよりアーカイブ。2021年8月3日閲覧。
- ^ “国籍を変えて活躍する中国出身のアスリートたち--人民網日本語版--人民日報”. j.people.com.cn. 2021年8月3日閲覧。
- ^ W杯で八百長!?元ガーナ代表GK 06年チェコ戦を言及 スポーツニッポン2012年9月11日
- ^ 朝日新聞1970年1月25日付朝刊スポーツ面
- ^ 朝日新聞1970年1月26日付朝刊スポーツ面
- ^ 朝日新聞1970年1月29日付朝刊スポーツ面
- ^ 朝日新聞1971年7月16日付朝刊スポーツ面
- ^ 週刊ポスト1999年2月19日号
- ^ 週刊ポスト1999年10月1日号
- ^ 原文は実名。
- ^ 当時地方巡業や相撲トーナメントではお好み対決として若貴が対戦することはあったが、本割では同部屋のため対戦が組まれない。
- ^ 1993年7月場所で兄弟対決の可能性があったが巴戦で曙が若貴に連勝し実現しなかった。
- ^ 今日は何の日?:貴乃花vs若乃花、史上初の兄弟優勝決定戦 スポルティーバ、集英社
- ^ <共演NG?【犬猿の仲】の有名人>兄弟横綱“若貴ブーム”から一転!絶縁だらけの元花田家…真相は?
- ^ 相撲協会が刑事告訴へ 週刊誌の八百長疑惑報道 共同通信 2010年6月22日
- ^ 朝日新聞 2011年2月2日夕刊
- ^ 貴乃花親方激怒のきっかけは白鵬疑惑の一番 やくみつる氏指摘「親方は不信感抱いている」(livedoor news、2017年12月6日)
- ^ 石原知事定例記者会見録
- ^ 『ヤバい経済学――悪ガキ教授が世の裏側を探検する』、スティーヴン・D・レヴィット、スティーヴン・J・ダブナー著、望月衛訳、東洋経済新報社、2006年。ISBN 978-4492313657
- ^ M. Duggan and D. Levitt. “Winning isn’t everything: corruption in sumo wrestling,” American Economic Review, 92(5):1594-1605, 2002.[1] (PDF) 。スティーヴン・D・レヴィット/スティーヴン・J・ダブナー 『ヤバい経済学』
- ^ クローズアップ2011:大相撲八百長疑惑 番付維持、なれ合い 毎日新聞東京朝刊 2011年2月14日
- ^ 大乃国の負け越しは1989年9月場所の7勝8敗だが、ちょうど10年後の1999年9月場所には若乃花が7勝8敗で負け越した。この若乃花の負け越しについてもガチンコを貫いた結果とされている。
- ^ 途中休場の横綱・照ノ富士、場所後に昇進披露パーティー 巨額の祝儀集まるイベントだけに延期困難か(1/2ページ) NEWSポストセブン 2022.09.24 07:00 (2022年9月26日閲覧)
- ^ 途中休場の横綱・照ノ富士、場所後に昇進披露パーティー 巨額の祝儀集まるイベントだけに延期困難か(2/2ページ) NEWSポストセブン 2022.09.24 07:00 (2022年9月26日閲覧)
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