中世西洋音楽
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時期および時代区分
西洋史における中世は、一般に4~5世紀の西ローマ帝国末期から15世紀頃までとされる[2]。音楽における中世も概ね時期は一致するが、開始時期についてはローマ帝国のキリスト教受容を起点として4世紀とするもの[3]、「400年から500年頃から」とするもの[4]、5世紀半ば過ぎからとするもの[5]、グレゴリオ聖歌を起点として9世紀から記載するもの[6]、あえて明示しないものなどがあり、終わりに関しても「14世紀まで」「15世紀前半まで」「1450年頃まで」など様々見られる。
また、長く取れば1000年以上におよぶ音楽における中世には内部の時代区分がありうるが、これもほぼ西洋史に準拠して「初期(~900)」「盛期(900~1300)」「後期(1300~)」とするもの[4][注釈 1]、様式上の区分で「初期中世(~850)」「ロマネスク(850~1150)」「ゴシック(1150~1450)」とするもの[3][7]、特に区分しないが14世紀のみ「アルス・ノヴァ(フランス)」「トレチェント音楽(イタリア)」とするもの[8]など様々見られる。
概要
中世西洋音楽は、キリスト教聖歌、特にローマ・カトリック教会の典礼聖歌であるグレゴリオ聖歌の成立と、もともとその聖歌の敷衍・拡張として始まったポリフォニー(多声音楽)の発達を最大の特色としている[7]。初め単旋律だった聖歌に、早くも9世紀には典礼をより荘重にするために新たに説明的な歌詞をつけたり旋律の音数を増やして拡張したり(トロープス)[9]、同じ聖歌を異なった高さで同時に歌って重厚な響きを添えたり(オルガヌム)[10]ということが行われ始める。やがてオルガヌムは独立性を高め、11世紀には聖歌の旋律にのせて新しい装飾的な旋律を歌うようになった[3]。12世紀後半から13世紀前半にはパリのノートル・ダム寺院で、モード・リズムと呼ばれる明確なリズムを持つ2~4声部の華麗なオルガヌムが歌われ[11]、14世紀のマショーの4声の「ノートルダム・ミサ曲」(ひとりの作曲家によって通作された最古の多声ミサ)や数々のモテットに至る[12]。
その一方で、世俗音楽も盛んであったことが推察され、11世紀末以降には記録に残り始める[13]。その担い手は、騎士歌人[8](宮廷歌人とも[14])や大道芸人や職業芸人[13](以前はこれらは混同され「吟遊詩人」などと呼ばれていた)[15]、遍歴学生[1]などであった。世俗歌曲は単旋律であったが、中世盛期以降にはこうした単旋律世俗歌曲の形式と(ラテン語ではなく)俗語による宗教歌が見られ始めたり[3]、逆に宗教音楽に由来するポリフォニーの技法による世俗音楽が書かれるようになったりしている[3]。先のマショーは、世俗音楽であるビルレー(単旋律)やバラード(多声音楽)を次の15世紀に流行する世俗歌曲様式で書き[16]、時代を代表する作曲家が宗教音楽のみならず世俗音楽を書いた史上初めての例となった[17]。このようにして、中世ヨーロッパにおいて、芸術音楽の作曲とは「広義の多声音楽をつくること」を意味するようになり、世界的に見た時の西洋音楽の特徴の一つとなった[3]。
中世ヨーロッパにおいては、音楽は自由七科の一つとして必須の学とされたが、それは「音それ自体に即した自律的なもの」というよりも「感覚を超えた超人間的なものの啓示」[4]「世界を調律している秩序」[18]であるととらえられる傾向が強かった[4]。このため中世の音楽理論においては、実際の音楽を離れた抽象的な思索が珍しくなく、古代ギリシアの音楽理論の中核をなしていた数理論、象徴論、エートス論などが、キリスト教的変容を遂げて展開されており、音組織、旋法、リズム、協和、記譜法などの音楽の実践面にも少なからぬ影響を与えていた[4]。が、教会の権威が失墜する[3]とともに諸民族の強力な国家体系が成立してくる14世紀以降、世俗音楽が高度に発展し、宗教音楽においても宗教性の重視よりも純音楽的要請による傾向が強くなり、次のルネサンスの萌芽が見え始める[4]。
注釈
- ^ ただし、年代は一般的な西洋史の時代区分とずれている。
- ^ キリスト教公認直後に典礼に歌を導入した聖アンブロシウスの名にちなむ。
- ^ モサラベとはイスラム支配下のイベリア半島におけるキリスト教徒のこと。
- ^ 教会旋法に関しては、グレゴリオ聖歌よりも後に正教会の教会音楽で使われる八調を基盤としてつくられたため、実際のグレゴリオ聖歌には合致しないものがあり、教会旋法では分類困難なものもあるという。
- ^ 40通りもの手稿資料が残っており、その多くはボエティウスの「音楽教程」に続いて手写されている。
- ^ ネウマに関しても、「もともと東ローマ帝国で開発された」という話がある。
- ^ 大音楽事典「オルガヌム」では「シラビックな様式」としている。
- ^ 「計量」記譜法という訳もよく見られる。金澤正剛は「計量記譜法」とし、アルス・ノヴァ以降を「定量記譜法」としている。
- ^ 例えば皆川達夫は「中世・ルネサンスの音楽」の中で、この時期の音楽への記載に独立した節ではなく「アルス・ノヴァ」の節に含まれる5つの項の最後を充て、「マショーの亜流」「世紀末風のデカダンス」「マニエリスム」「技法だけが形骸化」「沈滞」などとして明らかに停滞のように扱っている。
出典
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