マダニ
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/05/09 03:22 UTC 版)
マダニ | |||||||||||||||||||||
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シカのマダニ
Ixodes scapularis | |||||||||||||||||||||
分類 | |||||||||||||||||||||
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英名 | |||||||||||||||||||||
tick | |||||||||||||||||||||
科 | |||||||||||||||||||||
本文参照 |
英語では、大型の吸血性のダニであるマダニ類をtick、それ以外の小型のダニをmiteという[1]。
特徴
マダニはハーラー器官と呼ばれる感覚器を持ち、これらによって哺乳類から発せられる酪酸の匂いや体温、体臭、物理的振動などに反応して、草の上などから生物の上に飛び降り吸血行為を行う。その吸血行為によって、マダニの体は大きく膨れあがる[2]。
マダニ科の特徴の一つに背板の存在が挙げられる。これは胴部の背面に存在する外皮を覆う硬い組織である。これを持つことにより、マダニ科のダニは硬ダニ(hard-tick)と呼ばれる。一方でヒメダニ科のダニは背板を持たず、外皮が軟らかいため軟ダニ(soft-tick)と呼ばれる[1]。
電子顕微鏡用の真空には耐え、生きたままの状態を観察する事ができる[3]がクマムシほど研究されておらず、なぜ耐えられるのかのメカニズムは解明されていない[3]。
寄生の様式
マダニの吸血は吸血昆虫のそれとはまったく異なる。吸血昆虫の吸血は「刺す」ことによる。つまり、口吻が針状であり、これを血管に直接刺し入れることで吸血を行うのである。対してマダニの吸血は「噛む」ことによる。マダニの口器は鋏のような形状をしており、これにより皮膚を切り裂く。さらに、口下片と呼ばれるギザギザの歯を刺し入れて、宿主と連結し、皮下に形成された血液プールから血液を摂取する[2]。
この時、マダニは口下片から様々な生理的効果のある因子を含む余剰体液を宿主体内に分泌し[4][5]、吸血を維持している。また、フタトゲチマダニ等をはじめとした、マダニ属、キララマダニ属以外のマダニは、口下片を唾液に含まれる、セメントの様な物質で包むことで連結を強固にしている[2]。
このような吸血方式の違いのためマダニの吸血時間は極めて長く、雌成虫の場合は6 - 10日に達する。この間に約1mlに及ぶ大量の血液を吸血することができる[2]。
季節消長
マダニ科のダニは長期の活動停止期を持つことが知られる。例として日本に広く分布しているフタトゲチマダニを挙げる。フタトゲチマダニの幼虫は夏から秋にかけて活動が見られるが、次の発育段階に当たる若虫は春から夏に活動し、秋以降に活動が見られない。また、成虫は夏に活動のピークを持ち、秋以降はみられない。幼虫が秋まで活動しているのに、秋以降に若虫の活動が認められず、また若虫が春から夏にかけて活動しているのに、成虫が秋以降にみられないのは不自然であり、各発育段階において秋から春にかけて活動が停止している。
これはマダニが発育段階の間に休眠をとることから説明される。吸血を行ったダニは脱皮を経て次の発育段階へ進むが、この時に長期の休眠を行うのである。休眠行動はマダニ科のダニでも種によって、時期や期間、さらには休眠の有無が異なることが知られる。この休眠行動は日長の変化により支配されると考えられており、発育に適した時期と吸血行動の同調や、高温や低温に対する抵抗性の獲得に役立っていると考えられている[6]。
分類
マダニ科は14の属と702種から構成される[7]。この中にはボレリアやリケッチアのベクターとして生態学的に重要なものが含まれる[8]。
マダニ科には以下の属が含まれる:
- キララマダニ属 Amblyomma – 130種
- Anomalohimalaya – 3種
- Bothriocroton – 7種
- Cosmiomma – 1種
- Cornupalpatum – 1種
- Compluriscutula – 1種
- カクマダニ属 Dermacentor – 34種
- チマダニ属 Haemaphysalis – 166種
- Hyalomma – 27種
- マダニ属 Ixodes – 243種
- Margaropus – 3種
- Nosomma – 2種
- Rhipicentor – 2種
- コイタマダニ属 Rhipicephalus – 82種
- ^ a b c d e 今井壯一、板垣匡、藤崎幸藏 編 編『最新家畜寄生虫病学』板垣博、大石勇 監修、朝倉書店、2007年。ISBN 978-4254460278。
- ^ a b c d 佐伯英治「マダニの生物学」(PDF)『動薬研究』第57巻、第5号、バイエル薬品株式会社、13-21頁、1988年 。2013年4月18日閲覧。
- ^ a b 石垣靖人、中村有香「ダニは真空でも生存できた」『化学と生物』Vol.53 (2015) No.4 pp.258-260, doi:10.1271/kagakutoseibutsu.53.258
- ^ SAUER, J. R.: J. Med. Ent., 14, 1-19 (1977)
- ^ 藤崎幸蔵「マダニと宿主の相互作用」『日本獣医師会雑誌』1980年 33巻 3号 pp.109-112, doi:10.12935/jvma1951.33.109
- ^ 青木淳一編『ダニの生物学』東京大学出版会、2001年12月5日、92-108頁。ISBN 4130602101。
- ^ Alberto A. Guglielmone, Richard G. Robbing, Dmitry A. Apanaskevich, Trevor N. Petney, Agustín Estrada-Peña, Ivan G. Horak, Renfu Shao & Stephen C. Barker (2010). “The Argasidae, Ixodidae and Nuttalliellidae (Acari: Ixodida) of the world: a list of valid species names” (PDF). Zootaxa 2528: 1–28 .
- ^ D. H. Molyneux (1993). “Vectors”. In Francis E. G. Cox. Modern parasitology: a textbook of parasitology (2nd ed.). Wiley-Blackwell. pp. 53–74. ISBN 978-0-632-02585-5
- ^ 北海道における新規オルソナイロウイルス(エゾウイルス:Yezo virus)によるマダニ媒介性急性発熱性疾患の発見 IASR Vol.41 pp.11-13: 2020年1月号(国立感染症研究所)2021年10月1日閲覧
- ^ “SFTSウイルス女性が感染、死亡…国内初、ダニが媒介”. 毎日新聞 (2013年1月30日). 2013年2月2日時点のオリジナルよりアーカイブ。2018年8月18日閲覧。
- ^ 「見えてきた新ダニ媒介感染症の臨床像」日経メディカルオンライン(2013年4月4日)2013年4月5日閲覧
- ^ 『産経新聞』朝刊2014年2月25日※記事名不明※
- ^ “21人が死亡…日本全国に広がる“殺人ダニ”に注意”. テレビ朝日 (2014年2月25日). 2018年8月18日閲覧。
- ^ マダニ媒介「オズウイルス」で死亡 茨城県の女性 世界初『産経新聞』朝刊2023年6月24日2面(同日閲覧)
- ^ 山ありダニあり 厚生労働省 (PDF)
- ^ “リケッチア感染症(日本紅班熱)”. 和歌山市感染症情報センター. 2013年2月11日閲覧。
- ^ 夏秋 優「ワセリンを用いたマダニの除去法」『臨床皮膚科』68巻 5号(2014/4/10)pp.149-152, doi:10.11477/mf.1412103990
- ^ a b 夏秋優「マダニ刺症(ダニ媒介性疾患を考える,第3回日本衛生動物学会西日本支部例会講演要旨)」『衛生動物』2009年 60巻 2号 p.173-, doi:10.7601/mez.60.173
- ^ 川端寛樹. “ライム病とは”. 国立感染症研究所. 2018年8月18日閲覧。
- ^ a b c d e マルホ皮膚科セミナー 千貫祐子 牛肉アレルギーの意外な実態 島根大学医学部 皮膚科 講師(ラジオ日経 2014年9月11日放送)2017年12月5日閲覧
固有名詞の分類
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