シスター・ロゼッタ・サープ
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晩年と死
1970年に脳卒中となり、演奏の機会は著しく減った。その後、糖尿病との合併症により、片足を切断することとなった[28]。1973年10月9日、フィラデルフィアにて、予定されていたレコーディングの前夜に脳卒中の再発により死亡。フィラデルフィアのノースウッド墓地に埋葬された[29][30]。
音楽的影響
サープのギター演奏スタイルはメロディを主に展開するアーバン・ブルース、民族音楽、スウィングのビートを混ぜ合わせたもので、ロックンロールの先駆けとなった[17][31]。
リトル・リチャードは、彼女のストンプし、シャウトするゴスペル・スタイルが子どもの頃のお気に入りだったと話している。1947年のメイコン・シティ・オーディトリアムで彼女の前座として演奏していたリトル・リチャードの歌を聴いたサープは自分のステージにリチャードを招きいれ共演している。これはリトル・リチャードにとって、教会以外で初めての公衆の前で演奏する機会となった。終演後、サープはリチャードに出演料を支払い、この経験がリチャードがプロを志すきっかけになったという[32]。
1940年代にエレクトリック・ギターを使って収録された「ザッツ・オール」はチャック・ベリーやエルヴィス・プレスリーに影響を与えたとされている[17]。サープを敬愛するチャック・ベリーは「自分は、キャリアを通じてずっと彼女の真似をしていただけ」と発言したことが伝えられている。エルヴィス・プレスリーと共演したジョーダネアーズのメンバーは「エルヴィスは彼女の大ファンだった。とくに類をみないギターのピッキングに魅了されていた」と話している[27]。ジョニー・キャッシュは『ロックンロールの殿堂』入りをする際に、サープは子どもの頃の憧れだったと話している。キャッシュの娘であるロザンヌ・キャッシュは、ラリー・キングによるインタビューで「シスター・ロゼッタ・サープは父のお気に入りの歌手だった」と話している。
アレサ・フランクリンやジェリー・リー・ルイス[3]、アイザック・ヘイズはサープの歌唱法やギター演奏、ステージ・パフォーマンスから大きな影響を受けたと話している。ボブ・ディランは自身のラジオ番組で「シスター・ロゼッタ・サープは特別だった。歌い、ギターを弾く伝道師」と絶賛し、カントリー歌手のミランダ・ランバートは自身のコンサートのオープニングにサープの代表作となる「アップ・アバーブ・マイ・ヘッド」の音楽クリップを使っている[27]。イギリスのジャズ、ブルース・シンガーのジョージ・メリーもサープを高く評価しており、ティナ・ターナーは若い頃に影響を受けた人物として、マヘリア・ジャクソンとともにサープの名をあげている[33]。カーペンターズのドラム・フィルにもサープの影響が見られ、ロックやブルース、ジャズの世界だけでなく、ミートローフやニール・セダカ、カレン・カーペンターといったさまざまなジャンルのミュージシャンがサープのリズミカルでエネルギッシュな演奏にに影響を受けたとしている。
2018年には歌手のフランク・ターナーが「シスター・ロゼッタ」と題した楽曲を作曲、演奏し、サープがいかにロックンロールに貢献したかを伝えている。このシングル盤は2019年7月に発売されている[34]。
受賞歴
1998年7月にはアメリカの郵便局がサープの偉業を称えて32セント記念切手を発行。[35]2007年にはブルースの殿堂入りを果たす。2008年には彼女の記念墓碑のための基金が立ち上げられ、ペンシルバニアでは1月11日はシスター・ロゼッタ・サープの日とされた[36]。墓石は同年のちに建てられ[37]、フィラデルフィア近郊のヨークタウンにあるサープの生家にはサープの名を記した記念碑が設置されることとなった[37]。
『シスター・ロゼッタ・サープ: ロックンロールの母(英語: Sister Rosetta Tharpe: The Godmother of Rock & Roll)』を制作[14]。同作は2013年にアメリカの公共放送サービス(PBS)でアメリカン・マスターズ・シリーズの一部として放映された[15][38]。同作はイギリスとアメリカで繰り返し放映され、2015年のサープ生誕100周年にも放映されている。2015年3月20日にはイギリスのガーディアン紙がリチャード・ウィリアム(英語: Richard Williams)によるサープ生誕100年の記念記事を掲載[39]。2016年にはサープとマリー・ナイトの関係をもとにしたミュージカル『マリーとロゼッタ』がNYのアトランティック・シアター・カンパニーで上映されている。
2017年10月5日、サープは翌年のロックンロールの殿堂リストにノミネートされ、同年12月にロックンロール黎明期への貢献を称えて殿堂入りが決まった[40]。
リトル・リチャードやチャック・ベリー、またエルヴィス・プレスリーなどロックンロールを代表する才能に多大な影響を与えてきたにもかかわらず、ロックンロールの殿堂入りが2017年まで認められなかったことをはじめ、サープの音楽や才能が過小評価されてきた背景には、黒人で女性であるということ[41]、そしてクイアであったことが少なからず関係しているとの指摘がある。
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