サネカズラ
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2023/07/17 01:47 UTC 版)
人間との関わり
利用
果実が美しく、庭木や盆栽(鉢植え)として利用されている[37][38][39][40][41][42](図4)。栽培は、挿し木、株分けで繁殖させることができ、垣栽培に向いている[28]。つるは軟らかいので、籠材や縄の代用としても使われることがある[29]。
果実は食べても味はしないが[35]、果実酒に利用できる。また、茎葉は2倍量の水に入れておくと粘液が出るので、その液を頭髪につけて、整髪料として利用できる[28]。奈良時代には、整髪料(髪油)としてサネカズラがふつうに使われていたと考えられている[43]。この整髪料は葛水(かずらみず)、鬢水(びんみず)、水鬘(すいかずら)とよばれた[44][45][46]。またサネカズラを浸けておく入れ物を蔓壺(かずらつぼ)、鬢盥(びんだらい)といったが、江戸時代には男の髪結いが持ち歩く道具箱を鬢盥というようになった[47][48]。サネカズラから得られた粘液質は、和紙の製紙用糊料(ネリ)としても用いられた[49]。
生薬とされることがあり、茎や葉から得られる粘液は美男葛(びなんかずら)、赤く熟した果実を乾燥したものは南五味子(なんごみし)とよばれる[28][39]。茎葉は、利用する都度に生のものを採取するか、夏に刈り取って陰干しして保存する[28]。これを水につけて得られた粘液は、上記のように整髪料などとして利用されたが、ヒビやあかぎれに外用する生薬ともなる[39]。果実は晩秋に熟した果実を採取し、天日で乾燥して保存する[28]。果実は鎮咳、滋養強壮に効用があるものとされ、五味子(同じマツブサ科のチョウセンゴミシの果実)の代用品とされることもある[28][39][50]。ただし本来の南五味子は、同属の Kadsura longipedunculata ともされる[51]。民間療法では、強壮、咳止めに1日量5グラムの南五味子をコップ2杯ほどの水で半量になるまで煎じ、食間3回に分けて服用する方法が知られる[52]。 ref
文化・文学
サネカズラは古くから日本人になじみ深い植物であり、文献上の初見は『古事記』にさかのぼる(「さなかづら」として)[53]。奈良時代に成立した『万葉集』や、中世に成立した『百人一首』にも登場する[29][50]。サネカズラはつる状の茎が絡み合うことから、「
あしひきの 山さなかづら もみつまで 妹に逢わずや わが恋ひ居らむ—作者不詳『万葉集』巻10‐2296
さねかづら 後も逢はむと 夢のみに うけひわたりて 年は経につつ
木綿 包み白月山 の さなかづら 後もかならず 逢はむとぞ思ふ—作者不詳『万葉集』巻12-3073
名にし負はば逢坂山 の さねかづら 人に知られで 来るよしもがな
花言葉は「再会」、「好機をつかむ」など[42]。
名称
別名が多い(上分類表参照)。上記のように、古くは若いつるから粘液をとって男性の整髪料に使われていたため、ビナンカズラ(美男葛)の名がある[17][26][27][32][56][37]。関連して鬢葛(ビンカズラ)[19]、鬢付蔓(ビンズケズル)[20]、糊葛 (ノリカズラ)[21]、薯蕷汁葛 (トロロカズラ)[22]、布海苔葛(フノリカズラ)[23] などもある。また、大阪ではビジョカズラ(美女葛)と称したともいわれる[56]。サナカズラ(真葛)の名は、枝に粘液が含まれ、粘ることによるとされる[30]。
- ^ 米倉浩司・梶田忠 (2003-). “Kadsura japonica (L.) Dunal サネカズラ(標準)”. BG Plants 和名−学名インデックス(YList). 2023年3月25日閲覧。
- ^ a b c “Kadsura japonica”. Plants of the World online. Kew Botanical Garden. 2021年8月11日閲覧。
- ^ a b c d GBIF Secretariat (2021年). “Kadsura japonica”. GBIF Backbone Taxonomy. 2021年8月11日閲覧。
- ^ a b "真葛". デジタル大辞泉. コトバンクより2021年8月11日閲覧。
- ^ "核葛". 動植物名よみかた辞典 普及版. コトバンクより2021年8月11日閲覧。
- ^ "五味葛". 動植物名よみかた辞典 普及版. コトバンクより2021年8月11日閲覧。
- ^ "狭根葛". 動植物名よみかた辞典 普及版. コトバンクより2021年8月11日閲覧。
- ^ "佐禰加豆良". 動植物名よみかた辞典 普及版. コトバンクより2021年8月11日閲覧。
- ^ "狭名葛". 動植物名よみかた辞典 普及版. コトバンクより2021年8月11日閲覧。
- ^ "佐名葛". 動植物名よみかた辞典 普及版. コトバンクより2021年8月11日閲覧。
- ^ "左名葛". 動植物名よみかた辞典 普及版. コトバンクより2021年8月11日閲覧。
- ^ "左那葛". 動植物名よみかた辞典 普及版. コトバンクより2021年8月11日閲覧。
- ^ "佐那葛". 動植物名よみかた辞典 普及版. コトバンクより2021年8月11日閲覧。
- ^ "佐奈葛". 動植物名よみかた辞典 普及版. コトバンクより2021年8月11日閲覧。
- ^ "真玉葛". 動植物名よみかた辞典 普及版. コトバンクより2021年8月11日閲覧。
- ^ "山さな葛". デジタル大辞泉. コトバンクより2021年8月11日閲覧。
- ^ a b "美男葛". 精選版 日本国語大辞典. コトバンクより2021年8月11日閲覧。
- ^ "美人草". 精選版 日本国語大辞典. コトバンクより2021年8月11日閲覧。
- ^ a b "鬢葛". 動植物名よみかた辞典 普及版. コトバンクより2021年8月11日閲覧。
- ^ a b "鬢付蔓". 動植物名よみかた辞典 普及版. コトバンクより2021年8月11日閲覧。
- ^ a b "糊葛". 動植物名よみかた辞典 普及版. コトバンクより2021年8月11日閲覧。
- ^ a b "薯蕷汁葛". 動植物名よみかた辞典 普及版. コトバンクより2021年8月11日閲覧。
- ^ a b "布海苔葛". 動植物名よみかた辞典 普及版. コトバンクより2021年8月11日閲覧。
- ^ "姫葛". 動植物名よみかた辞典 普及版. コトバンクより2021年8月11日閲覧。
- ^ "山黄蓮". 動植物名よみかた辞典 普及版. コトバンクより2021年8月11日閲覧。
- ^ a b c d e f g h i j k l m n o 大橋広好 (2015). “シキミ属”. In 大橋広好, 門田裕一, 邑田仁, 米倉浩司, 木原浩 (編). 改訂新版 日本の野生植物 1. 平凡社. p. 50. ISBN 978-4582535310
- ^ a b c d e f g h i j k l m n o p 勝山輝男 (2000). “シキミ”. 樹に咲く花 離弁花1. 山と渓谷社. p. 390. ISBN 4-635-07003-4
- ^ a b c d e f g h i j k 馬場篤 1996, p. 56.
- ^ a b c d e f g h i j 谷川栄子 2015, p. 32.
- ^ a b c d e f 西田尚道監修 志村隆・平野勝男編 2009, p. 233.
- ^ a b c 馬場多久男 (1999). “サネカズラ”. 葉でわかる樹木 625種の検索. 信濃毎日新聞社. p. 171. ISBN 978-4784098507
- ^ a b c d e f g h i 谷川栄子 2015, p. 33.
- ^ a b c d e f g 鈴木庸夫・高橋冬・安延尚文 2018, p. 270.
- ^ a b 平野隆久監修 永岡書店編 1997, p. 117.
- ^ a b 谷川栄子 2015, p. 34.
- ^ 『100年前に台湾で報告されるも既知種とされていた植物を日本で再発見 ― 別種であることを証明し、和名「リュウキュウサネカズラ」と命名 ―』(プレスリリース)神戸大学、2017年6月30日 。2021年8月11日閲覧。
- ^ a b c 林 (2011)、201頁
- ^ 群境介 (2002). “サネカズラ”. 盆栽入門. 西東社. p. 88. ISBN 978-4791611324
- ^ a b c d “サネカズラ”. 熊本大学薬学部 薬草園 植物データベース. 2021年8月11日閲覧。
- ^ “サネカズラ(ビナンカズラ)の育て方”. ガーデニングの図鑑. 2021年8月11日閲覧。
- ^ “ビナンカズラ(サネカズラ)”. ヤサシイエンゲイ. 京都けえ園芸企画舎. 2021年8月11日閲覧。
- ^ a b Yukari.S (2020年8月27日). “サネカズラとは?綺麗な実がなる植物の育て方を解説!食べられる?”. 暮らしーの. 2021年8月11日閲覧。
- ^ "髪油". 日本大百科全書(ニッポニカ). コトバンクより2021年8月11日閲覧。
- ^ "葛水". 精選版 日本国語大辞典. コトバンクより2021年8月11日閲覧。
- ^ "鬢水". 精選版 日本国語大辞典. コトバンクより2021年8月11日閲覧。
- ^ "水鬘". 精選版 日本国語大辞典. コトバンクより2021年8月11日閲覧。
- ^ "カズラ(蔓∥葛)". 世界大百科事典. コトバンクより2021年8月11日閲覧。
- ^ "鬢盥". 日本大百科全書(ニッポニカ). コトバンクより2021年8月11日閲覧。
- ^ "和紙". 日本大百科全書(ニッポニカ). コトバンクより2021年8月11日閲覧。
- ^ a b 杉山一男「万葉時代のグリーンケミストリー 2―万葉時代の生薬について―」『近畿大学工学部紀要 人文・社会科学篇』第49巻、2019年、1-50頁。
- ^ "サネカズラ". 日本大百科全書(ニッポニカ). コトバンクより2021年8月11日閲覧。
- ^ 高野昭人監修 世界文化社編『おいしく食べる 山菜・野草』世界文化社〈別冊家庭画報〉、2006年4月20日、108頁。ISBN 4-418-06111-8。
- ^ 磯野直秀「資料別・草木名初見リスト」『慶應義塾大学日吉紀要 自然科学』第45巻、2009年、69-94頁、NAID 120001413964。
- ^ 近藤浩文 (1995). “サネカズラ”. 王朝の植物. 保育社. p. 54. ISBN 978-4586508792
- ^ “名にし負はば 逢坂山の さねかづら 人に知られで 来るよしもがな”. 超訳と写真で旅する百人一首 三十一文字で綴る熱く切ない恋文. 笠倉出版社. (2015). p. 037. ISBN 978-4773056655
- ^ a b 山下智道 2018, p. 113.
- 1 サネカズラとは
- 2 サネカズラの概要
- 3 人間との関わり
- 4 脚注
サネカズラと同じ種類の言葉
- サネカズラのページへのリンク