コガタノゲンゴロウ 生態

コガタノゲンゴロウ

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/09/07 13:36 UTC 版)

生態

池沼放棄水田などに生息し[12]、水生植物が豊富な浅い止水域を好むが、水生植物がない水たまりや河川の岸際の植生帯でも見られる[14]

成虫寿命は2年 - 3年で、4月 - 7月にかけて水草の茎に産卵し[1]、幼虫は主に初夏に確認されるが[14]、条件次第では10月末ごろまで産卵が続き[13]、孵化後約2か月で成虫となる[1]。蛹室の直径は約28ミリメートル[15]・幼虫上陸 - 蛹化までの前蛹期は7日 - 12日程度、蛹化 - 羽化までの蛹期は8日 - 12日程度である[16]。幼虫・成虫ともに肉食性であるが成虫は水草も食べる[1]

分類

Cybister tripunctatus 種の1亜種で、基亜種 C. t. tripunctatus (Olivier, 1795)[10]アジアアフリカオーストラリア熱帯亜熱帯温帯域に極めて広い分布域を持つ[17]

2015年発行の『環境省レッドデータブック2014』では C. t. orientalis Gschwendtner, 1931 として掲載されている一方[1]、2018年版環境省レッドリストおよびITISでは C. t. lateralis (Fabricius, 1798) として掲載されている[18][11]。Nilsson (2015) によると、C. t. orientalisC. t. lateralis のシノニムとされている[10]

保全状況

かつては日本各地の平地 - 低山地で普通に見られたようだが[12]、農薬の大量使用とほぼ同時に多くの地域で絶滅した[注 3][19]。近年は本州では生息地はわずか数か所に残るのみとなったほか、四国・九州でも局所的に残存するのみで減少が著しく[1]、2018年現在は絶滅危惧II類 (VU)環境省レッドリスト)に指定されている[18]。各都道府県のレッドデータブックにも以下のように掲載されている[17]

このように、個体数が回復傾向にあり、分布にも再拡大の傾向が見られる。2012年度公表のレッドリストでは大型ゲンゴロウ類で唯一ランクが下方修正された(絶滅危惧I類→絶滅危惧II類)[42]。その要因としては地球温暖化により南方系の種である本種が生息可能な地域が拡大したことに加え、成虫がゲンゴロウ・クロゲンゴロウより活発に飛翔し移動分散能力が高いため、過去に絶滅・減少した地域に再定着している可能性が指摘されている[43]
前述の三重県、京都府、兵庫県、島根県での再発見のほか、石川県でも再定着していることが報告[44]されている。さらに、千葉県でも2例の報告[45]があり、高い飛行能力を背景に全国的に分布を再拡大していると見られる。


注釈

  1. ^ 森・北山(2002)は「ゲンゴロウ類 Dytiscoidea は鞘翅目・食肉亜目(オサムシ亜目)水生食肉亜目に属する」と述べている[2]
  2. ^ ゲンゴロウ属 Cybister および同属を含むゲンゴロウ族 Cybistrini は森・北山(2002)ではゲンゴロウ亜科 Dytiscinae に分類されているが[4]、Nilsson (2015) では Dytiscinae 亜科から Cybistrinae 亜科を分離し[6]、ゲンゴロウ族 Cybistrini を Cybistrinae 亜科に分類する学説が提唱されている[7]。中島・林ら(2020)はゲンゴロウ類の分類表(307頁)にてゲンゴロウ属・ゲンゴロウモドキ属を「ゲンゴロウ科 ゲンゴロウ亜科・ゲンゴロウモドキ亜科」として紹介している[8]
  3. ^ 平野部に生息していたため特に農薬の影響を受けやすかった種と思われる[19]
  4. ^ 東京都区部(23区)では1950年代、多摩地域でも1970年ごろを最後に確実な記録がない[20]。伊豆諸島では八丈島のみ確実な記録があったが2013年版レッドリスト改訂前には記録が途絶え、改訂時の現地調査でも生息が確認されなかったため[21]本土部(23区および多摩地域)・伊豆諸島とも絶滅したと推測される[20][21]。小笠原諸島では硫黄島の池沼数か所で確認されているため東京都内全体で絶滅したわけではないが、硫黄島の産地も開発による個体数減少が懸念されているため、小笠原諸島版のレッドデータブックでは絶滅危惧種IB類(EN)に指定されている[22]
  5. ^ 2012年に県内における古い標本記録が新しく公表された一方、県内で50年以上生息がないことが確認されたことから2015年3月の県レッドデータブック改訂で「絶滅種」となった[23]
  6. ^ 過去に東松浦郡七川村で記録があるが確実な産地はない[29]
  7. ^ 県RDB(レッドデータブック)で絶滅危惧1類(CR+EN)に指定されている[30]。2002年(平成14年)10月15日付で「鳥取県希少野生動植物の保護に関する条例」に基づき「特定希少野生動植物」に指定され[31]生きている個体の捕獲・採取・殺傷・損傷などが禁止されている[32]。県内では一時期絶滅寸前にまで陥り[33]、県主導で保護管理事業計画が行われている[34]
  8. ^ 県RDB(レッドデータブック)で絶滅危惧1類(CR+EN)に指定されている[35]。2009年(平成21年)3月16日付で「愛媛県野生動植物の多様性の保全に関する条例」に基づき「特定希少野生動植物」に指定され生きている個体の捕獲・採取・殺傷・損傷などが禁止されている[36]

出典

  1. ^ a b c d e f g h 環境省 2015, p. 251.
  2. ^ a b c d 森 & 北山 2002, p. 33.
  3. ^ 森 & 北山 2002, p. 53.
  4. ^ a b 森 & 北山 2002, pp. 138–139.
  5. ^ a b c d 森 & 北山 2002, p. 139.
  6. ^ Nilsson 2015, p. 7.
  7. ^ a b c d Nilsson 2015, p. 73.
  8. ^ 中島 et al. 2020, p. 307.
  9. ^ 森 & 北山 2002, p. 152.
  10. ^ a b c d Nilsson 2015, pp. 75–76.
  11. ^ a b "Cybister tripunctatus lateralis" (英語). Integrated Taxonomic Information System. 2019年11月3日閲覧
  12. ^ a b c d e f g h i j k l 森 & 北山 2002, p. 154.
  13. ^ a b c d 森 et al. 2014, p. 62.
  14. ^ a b c d 中島 et al. 2020, p. 100.
  15. ^ 都築, 谷脇 & 猪田 2003, p. 158.
  16. ^ 都築, 谷脇 & 猪田 2003, p. 159.
  17. ^ a b 森 & 北山 2002, p. 155.
  18. ^ a b 環境省 2018, p. 23.
  19. ^ a b c 神奈川県 2006.
  20. ^ a b c 東京都, 2013 & 本土.
  21. ^ a b c 東京都, 2013 & 伊豆.
  22. ^ “『レッドデータブック東京2013』コガタノゲンゴロウ(小笠原諸島)” (日本語) (プレスリリース), 東京都, オリジナルの2019年2月26日時点におけるアーカイブ。, https://web.archive.org/web/20190226064927/http://tokyo-rdb.jp/kohyou.php?serial=2382 2019年2月26日閲覧。 
  23. ^ a b “長野県版レッドリスト(動物編 無脊椎動物)2015 カテゴリー新規追加種” (日本語) (PDF) (プレスリリース), 長野県, (2015年3月), オリジナルの2019年3月23日時点におけるアーカイブ。, https://web.archive.org/web/20190323134138/https://www.pref.nagano.lg.jp/shizenhogo/kurashi/shizen/hogo/kisyoyasei/redlist/documents/ch5.pdf 2019年3月23日閲覧。 
  24. ^ 「長野県版レッドリスト」改定、ゲンゴロウ2種を絶滅種に」『産経新聞』産業経済新聞社、2015年3月19日。2019年3月19日閲覧。オリジナルの2019-03-19時点におけるアーカイブ。
  25. ^ “コガタノゲンゴロウ(レッドリストあいち2015)” (日本語) (プレスリリース), 愛知県, (2015年1月22日), オリジナルの2019年3月19日時点におけるアーカイブ。, https://web.archive.org/web/20190319142444/http://www.pref.aichi.jp/kankyo/sizen-ka/shizen/yasei/rdb/zukan/sp06/ex_04.html 2019年3月19日閲覧。 
  26. ^ “コガタノゲンゴロウ(レッドリストあいち2015、本文PDF)” (日本語) (PDF) (プレスリリース), 愛知県, (2015年1月22日), オリジナルの2019年3月19日時点におけるアーカイブ。, https://web.archive.org/web/20190319142510/http://www.pref.aichi.jp/kankyo/sizen-ka/shizen/yasei/rdb/koncyu/animals_228.pdf 2019年3月19日閲覧。 
  27. ^ 和歌山県 2012, p. 8.
  28. ^ “大阪府レッドリスト・大阪の生物多様性ホットスポット” (日本語) (PDF) (プレスリリース), 大阪府, (2016年7月21日), p. 14, オリジナルの2017年7月2日時点におけるアーカイブ。, https://web.archive.org/web/20170702214328/http://www.pref.osaka.lg.jp/attach/21490/00148206/zentai.pdf#page=16 2017年7月3日閲覧。 
  29. ^ a b 佐賀県 2004, p. 34.
  30. ^ “レッドデータブック改訂版” (日本語) (PDF) (プレスリリース), 鳥取県, (2012年3月30日), p. 3, オリジナルの2019年2月20日時点におけるアーカイブ。, https://web.archive.org/web/20190220154345/https://www.pref.tottori.lg.jp/secure/704255/5-3.pdf 2019年2月20日閲覧。 
  31. ^ “鳥取県公報(平成14年10月15日)” (日本語) (PDF) (プレスリリース), 鳥取県, (2002年10月15日), p. 6, オリジナルの2019年2月20日時点におけるアーカイブ。, https://web.archive.org/web/20190220150527/https://www.pref.tottori.lg.jp/secure/307066/145go.pdf 2019年2月20日閲覧。 
  32. ^ “鳥取県希少野生動植物の保護に関する条例” (日本語) (PDF) (プレスリリース), 鳥取県, (2001年12月21日), p. 4, オリジナルの2019年2月20日時点におけるアーカイブ。, https://web.archive.org/web/20190220150519/http://www.pref.tottori.lg.jp/secure/307066/jyourei.pdf 2019年2月20日閲覧。 
  33. ^ “レッドデータブックとっとり初版” (日本語) (PDF) (プレスリリース), 鳥取県, (2002年3月), p. 30, オリジナルの2019年2月20日時点におけるアーカイブ。, https://web.archive.org/web/20190220152051/https://www.pref.tottori.lg.jp/secure/311860/www_pref_tottori_lg_jp_secure_281886_a-12.pdf 2019年2月20日閲覧。 
  34. ^ “鳥取県コガタノゲンゴロウ保護管理事業計画” (日本語) (PDF) (プレスリリース), 鳥取県, (2002年3月), オリジナルの2019年2月20日時点におけるアーカイブ。, https://web.archive.org/web/20190220153137/https://www.pref.tottori.lg.jp/secure/312059/kogatanogenngorou.pdf 2019年2月20日閲覧。 
  35. ^ “愛媛県レッドデータブック2014” (日本語) (プレスリリース), 愛媛県, (2014年12月5日), オリジナルの2019年2月20日時点におけるアーカイブ。, https://web.archive.org/web/20190220153414/https://www.pref.ehime.jp/reddatabook2014/detail/05_03_001950_1.html 2019年2月20日閲覧。 
  36. ^ “特定希少野生動植物の所有者、占有者へのお知らせ” (日本語) (プレスリリース), 愛媛県, (2009年3月16日), オリジナルの2019年2月20日時点におけるアーカイブ。, https://web.archive.org/web/20190220150057/https://www.pref.ehime.jp/h15800/1190754_1934.html 2019年2月20日閲覧。 
  37. ^ 採集禁止種” (日本語). むし社 (2017年6月4日). 2019年3月19日時点のオリジナルよりアーカイブ。2019年3月19日閲覧。
  38. ^ 兵庫県西部と島根県東部におけるコガタノゲンゴロウの記録 (PDF)” (日本語). NPO法人こどもとむしの会 (2011年12月25日). 2019年3月19日時点のオリジナルよりアーカイブ。2019年3月19日閲覧。
  39. ^ コガタノゲンゴロウ復活プロジェクト” (日本語). 相楽東部広域連合立笠置中学校. 2014年7月26日時点のオリジナル[リンク切れ]よりアーカイブ。2012年10月19日閲覧。
  40. ^ 「県内で27年ぶり確認 あすから志摩で公開 コガタノゲンゴロウ」朝刊三重総合面、『中日新聞中日新聞社、2011年12月6日、19面。
  41. ^ 絶滅危惧I類の「コガタノゲンゴロウ」、三重県で27年ぶりの発見」『伊勢志摩経済新聞』グローブ・データ、2011年12月7日。2019年3月19日閲覧。オリジナルの2019-03-19時点におけるアーカイブ。
  42. ^ 大庭 2015, p. 2.
  43. ^ 大庭 2015, p. 3.
  44. ^ 渡部晃平 (2021). “石川県におけるコガタノゲンゴロウの定着状況”. さやばねニューシリーズ(日本甲虫学会和文誌) 41: 1-5. ISSN 21859787. https://researchmap.jp/marukeshi/published_papers/32019440. 
  45. ^ 柳丈陽, 高野直也, 中村涼 (2020). “約30年ぶりの記録となる千葉県産コガタノゲンゴロウの記録2例について”. 月刊むし A Monthly Journal of Entomology 587: 22-23. ISSN 0388418X. https://researchmap.jp/t_yanagi/published_papers/18618150. 
  46. ^ a b c 三橋 2010, p. 127.
  47. ^ 三橋 2012, p. 147.
  48. ^ 三橋 2012, p. 233.
  49. ^ 三橋 2012, p. 214.
  50. ^ 三橋 2012, p. 237.





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