カタツムリ 生態

カタツムリ

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/05/11 14:22 UTC 版)

生態

生息環境

多くの種は乾燥に弱いためにある程度の湿度があるところに多く生息するが、乾いたところを好む種類もあり、中には砂漠の環境に適応した種さえある。ミジンマイマイやウスカワマイマイのように海岸や畑地、道路や人家周辺などの開けた場所を好む種や、深山にしか生息しない種などがあり、種ごとに地理的分布や生息環境が決まっていることが多い。中には岩の表面に住むもの、朽ち木にいるもの、あるいは樹上性のものなど、限られた条件にのみ生息するものがある。

また、貝殻の材料となるカルシウムはカタツムリにとって補給の難しい資源であり、個体数の制限要因となり得る。したがって、それを豊富に供給してくれる石灰岩地はカタツムリにとって好適な環境で、そのため種類や個体数が多い。たとえば沖縄諸島の隆起珊瑚礁の森林では、温暖な気候も相まってカタツムリの個体数が多く、貝殻を踏まずに一歩も歩けないほどである。また石灰岩地で種分化して固有種となっているものが多い。このようなことから、ある場所で採取された一群のカタツムリを見ることで、その地理的位置やおおよその環境を推定することが可能である。

生殖

交尾しようとしているリンゴマイマイブランデンブルク州・6月)
いろいろな形の恋矢(れんし)とその断面

ヤマタニシなどの前鰓類では雌雄異体であるが、有肺類では同一個体が卵子と精子を持つ雌雄同体である。ただし成長中の個体にあっては雄の機能が先に成熟することが多い。一般には他の個体と相互に交尾することで受精し産卵する。雌雄同体のため自家受精もできるが、産卵数・孵化率とも著しく低下する例が多い[5]。交尾の際、精子精莢(せいきょう)と呼ばれる入れ物ごと受け渡されるのが普通である。一般には生殖器を直接挿入しない動物が精子の入れ物として精莢を形成するが、カタツムリは直接交尾をするにもかかわらず精莢を作るため、その機能は精子運搬のためだけではなく、精子の栄養体ではないかと考えられている。精莢は雄部生殖器の一部を鋳型として形成されるため分類群によって違った形をしているが、概ね半透明で細長いのが一般的で、受け取った側の雌部生殖器内で分解される。

リンゴマイマイ科やナンバンマイマイ科など一部のグループでは生殖器に恋矢(れんし、英:Love dart)と呼ばれる石灰質の状構造を持ち、交尾の際にはそれを相手に突き刺すことが知られている。その行動はダートシューティングと呼ばれる。恋矢で刺された個体は寿命が短くなることが明らかになっている[10][11]。またナンバンマイマイ科では、生殖期に大触角の間の「額」の位置が盛り上がって瘤(こぶ)状になっているのが見られることがある。これは頭瘤(とうりゅう)と呼ばれるもので、性フェロモンを分泌すると考えられている。

卵は炭酸カルシウムの殻で覆われた球形のものが多いが、寒天質のものや、ノミガイ科やキセルガイ科の一部のように卵胎生で稚貝を直接産むものなどもある。産卵場所は地面の浅いところや朽木の下、木の根元の隙間などで、卵は頭部後方側面の生殖孔から一つずつ産み落とされ、一箇所にまとめられるのが普通である。多くは1週間から1か月程度で孵化する。通常の水生巻貝に見られるような幼生期は卵の中で過ごすため、孵化した子は小さくて巻きも少ないとはいえ既にカタツムリの形をしている。

ヒダリマキマイマイとその食痕。1個のしずく型が一舐めの痕。横一列に数回舐めると "一歩" 前進し、手前の列が終わった地点から再び横一列に舐め始めるため、食痕はS字状の連続となる。

ほとんどの種は植物性のものを食べ、生の植物や枯葉などやや分解の進んだ植物遺骸などを食べるほか、菌類を餌とするもの、雑食性のものなどがあり、一般にやや広い食性をもつ。また建物壁面やガードレールなどの人工物の表面に発生した藻類も餌となり、その食痕は日常的に見ることができる。

農作物や園芸植物を食べるウスカワマイマイチャコウラナメクジは、農業害虫であるため殺虫剤防除される。多くの種がセルロースを分解吸収できるため、新聞紙チラシなどの紙類もよく食べ、その場合は糞が元の紙の色になる。

しかし中には他のカタツムリを捕食する肉食性の種もあり、米国南部原産の肉食種ヤマヒタチオビアフリカマイマイの駆除のためにハワイ小笠原諸島、その他の太平洋諸島に人為的に移入された。しかしアフリカマイマイの駆除にはあまり役立たず、むしろこれらの島々の固有種を捕食して絶滅に一役買うことになってしまった。このほか近年日本の一部に定着した地中海原産のオオクビキレガイは農作物のほか陸貝を捕食するといわれており、ニュージーランドヌリツヤマイマイミミズを捕食する大型種として知られる。

またカタツムリは殻を形成・維持するためにカルシウムを多く必要とし、捨てられた貝殻や古くなった他のカタツムリの死殻をなめることがある。雨が降った後、ブロック塀やコンクリート壁にカタツムリが沢山現れる所を見ることがあるが、これもコンクリートに含まれるカルシウムを摂食するために集まっている現象である。

天敵

鳥に捕食されたニワノオウシュウマイマイ(黄色)とモリノオウシュウマイマイ(茶帯)
シュリマイマイを食べるイワサキセダカヘビ
捕食中のマイマイカブリ

カタツムリを主食とする動物(天敵)としては、ホタル類の幼虫やオサムシ類のマイマイカブリがよく知られているが、欧州に分布するアゴザトウムシ科 Ischyropsalididae のザトウムシも主にカタツムリを食べることから、ドイツ語で Schneckenkanker("マイマイザトウムシ"の意)と呼ばれる。石垣島西表島に生息するイワサキセダカヘビもカタツムリを専食することで知られ、顎を器用に使い貝の中身だけを食べる。これらの専食者以外にも多くの動物が捕食者となり、なかでも鳥類は主な天敵の一つである。また地上性のカタツムリでは、ヤマネズミ類、イタチアナグマツチブタタヌキイノシシトカゲ類、カエル類などの脊椎動物にも捕食されるほか、コウガイビルニューギニアヤリガタリクウズムシなどの扁形動物、線虫類、捕食寄生をするハエ目の昆虫など敵は非常に多い。餌の項にもあるとおり、同じ陸産貝類にも肉食で陸貝を狙うものがあり、日本ではイボイボナメクジがその例として知られている。

これらの天敵に対し、殻のある種では殻の中にじっと潜んで天敵から身を守るのが一般的であるが、エゾマイマイなど腹足の筋肉が大きく進化した一部の種ではエゾマイマイカブリやオオルリオサムシなどの天敵に対し殻を振り回して撃退していることが実証研究で明らかになっている[12][13]動画あり)。

寿命

カタツムリの寿命は種によって大きく異なるはずだが、詳しいことはわかっていない。大型のマイマイ類では数年、小型の殻の薄い種類では1年程度かそれ以下と考えられており、ウスカワマイマイの寿命は普通1年で後者に属する。キセルガイ科のものは長寿傾向にあり、野外で成貝として採取したナミコギセルを15年間飼育した例が知られている。この例では、飼育環境を不注意に乾燥させてしまったのが死因であるため、実際には更に長生きした可能性があるという。


注釈

  1. ^ ただし直径が数ミリの微小種では比較的広い分布域をもつものが少なくない。

出典

  1. ^ 中山(2011)
  2. ^ 武田・西(2015)
  3. ^ a b c d 東(1995)
  4. ^ a b c 波部&小菅(1996)
  5. ^ a b c d e 小菅(1994)
  6. ^ 行田(2003)
  7. ^ 講談社『もっと!科学の宝箱 もっと!人に話したくなる25の「すごい」豆知識』(TBSラジオ編、2014年)
  8. ^ カタツムリの防汚メカニズムから見つけた汚れにくい外壁の新技術!”. INAXストーリー. 2012年6月14日閲覧。
  9. ^ Pfenninger et al(2005)
  10. ^ カタツムリの「恋の矢」が相手の寿命短縮、東北大”. 2Aug2018閲覧。
  11. ^ 貝のストーリー 「貝的生活」をめぐる7つの謎解き. 東海大学出版部 
  12. ^ 殻を振り回し敵撃退…北大研究員が初確認 毎日新聞、2016年12月12日閲覧
  13. ^ Morii, Yuta; Prozorova, Larisa; Chiba, Sathosi (2016-11-11). “Parallel evolution of passive and active defence in land snails”. Scientific Reports (Nature Publishing Group .) 6 (Article number: 35600). doi:10.1038/srep35600. http://www.nature.com/articles/srep35600. 
  14. ^ a b c d フリーランス雑学ライダーズ(1988)、p.38
  15. ^ フリーランス雑学ライダーズ(1988)、p.39
  16. ^ 1979年発売のコンパクト盤『英語で歌う日本の童謡 手をたたきましょう/かたつむり/おもちゃのチャチャチャ/いぬのおまわりさん』(日本コロムビア EK-31)に収録された(歌:HENRY V. DRENNAN、REGINA M. DOI、青葉インターナショナルスクール児童)。





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