Flash-OFDMとは? わかりやすく解説

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直交周波数分割多重方式

(Flash-OFDM から転送)

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/08/28 18:22 UTC 版)

直交周波数分割多重方式(ちょっこうしゅうはすうぶんかつたじゅうほうしき、英語: orthogonal frequency-division multiplexing, OFDM)は、デジタル変調の一種である。coded OFDM (COFDM) とは実質的に同一である。フランスCentre Commun d'Etudes de Télévision et de Télécommunications(放送通信研究所、略称:CCETT)で、第3世代移動通信システム用に開発されたが、本格的に導入されたのは第3.9世代移動通信システムからである。

概要

OFDMの周波数
OFDMシグナルスペクトラム

データを、多数の搬送波(サブキャリア)に乗せるので、マルチキャリア変調に属する。これらのサブキャリアは互いに直交しているため、普通は周波数軸上で重なりが生じる程に密に並べられるにも拘わらず、従来の周波数分割多重化方式 (FDM) と異なり、互いに干渉しない利点がある。サブキャリアは高速フーリエ変換 (FFT) アルゴリズムを用いて効率的に区別できる。

OFDMは広帯域デジタル通信において、無線/有線の区別を問わず広く使われている。具体的な応用としてデジタルテレビや放送、ブロードバンドインターネット接続が挙げられる。

各々のサブキャリアは直交振幅変調 (QAM) 等の従来通りの方式で、低シンボルレートで変調される。この段階でのデータレートは、同じ帯域幅のシングルキャリア変調と比較すると同程度である。では主要な長所は何かと言うと、複雑なフィルタ回路なしでも悪い伝送路(チャネル)状況に対応できる点である。具体的には長い銅線による高周波の減衰、マルチパスによる狭帯域干渉や周波数選択性(フェージング)等に強い。OFDMは、高速の変調を受けた単一の広帯域幅信号ではなく、ゆっくりとした変調を受けた多数の狭帯域幅信号を使っているとみなせる。このためチャネルのイコライザーは簡易で済む。

シンボルレートが低いおかげでシンボル間のガードインターバルが利用できるため、時間軸上での拡散への対処や、符号間干渉 (ISI) の除去が可能になる。さらにシングルキャリアネットワークの構成が容易になる利点もある。これは遠距離にある複数の送信機からの信号同士が強め合うように重ね合わせることができるためである(従来の方式では信号同士が干渉で妨げ合うのが普通だった)。

応用例

OFDMに基づく既存の標準と製品の概要を以下に列挙する。

ケーブル

無線

鍵となる特徴

利点

  • 複雑な等化器を用いずに劣悪な伝送路(チャネル)状況に簡単に適応できる。
  • 狭帯域伝送路干渉に対して強い。
  • マルチパス伝達による符号間干渉フェージングに対して頑強。
  • 高い周波数利用効率。
  • FFTの使用による効率的な実装。
  • タイミング同期エラーに対して強い。
  • 従来のFDMと違い、調整されたサブチャネルレシーバーフィルタは必要ない。
  • シングル周波数ネットワーク (SFN)、すなわち送信機のマクロダイバシティが容易に実現できる。

欠点

  • ドップラー偏移に影響されやすい。
  • 周波数同期問題に影響されやすい。
  • ピーク対平均電力比 (PAPR) が高い。このため高価な送信機回路を必要とする割には出力効率が悪い。

特性と動作原理

直交性

OFDMでは、サブキャリアの周波数はお互いのサブキャリアが直交するように選ばれる。よってサブチャネル同士の混信がなくなるために搬送波干渉ガード帯域が必要とされず、送受信機の設計を大いに単純化できる。具体的には従来のFDMと異なり、各サブチャネルに対し別々のフィルタを用意する必要がない。

直交性のおかげで高いスペクトル効率が得られ、理論上の限界であるナイキスト・レートに匹敵する。割り当てられた周波数帯はほとんど全て無駄なく利用できる。一般にOFDMは「」に近いスペクトルを持ち、他の共同伝送路ユーザーに対する電磁干渉特性が良性である。

OFDMではその直交性によりFFTアルゴリズムを利用でき、変調器ではIFFT、復調器ではFFTを用いて効率的に実装できる。その原理および利点は1960年代から知られていたが、広く使われるようになるにはFFTを能率的に計算できる低コストのデジタル信号処理ICの普及を待つ必要があった。

OFDMでは受信機と送信機に非常に正確な周波数同期を必要とする。これは、周波数がずれるとサブキャリア間の直交性が崩れてしまい、搬送波間干渉、すなわちサブキャリア間における干渉 (ICI) を引き起こすからである。周波数オフセットは一般的に、送信機や受信機の局部発振器の発振周波数のずれ、もしくは移動によるドップラー偏移が原因である。ドップラー偏移は受信機で単独で補正することが可能ではあるが、マルチパス存在下では反射がさまざまな周波数オフセットに現われるのでより訂正しにくく、状況は悪化する。この影響は一般的に移動速度の増加するにつれ悪化し、高速移動体でのOFDMの使用を制限している重要な要因である。ICI抑制の手法は多数提案されているが、受信機が複雑になるという問題がある。

シンボル間干渉除去のためのガードインターバル

OFDMの重要な原理の1つは低いシンボルレートの変調方式(すなわち、シンボルがチャネル時間特性と比較して比較的長い)ということであり、マルチパスによって引き起こされるシンボル間干渉が抑えられる、つまり単一の高いシンボルレートの伝送よりも並列にいくつかの低いシンボルレートの伝送を行う方が有利であるということである。それぞれのシンボルの期間は長いので、各OFDMシンボル間にガード・インターバルを挿入することが可能であり、シンボル間干渉を除くことができる。

またガード・インターバルはパルス整形フィルタの必要性を省き、そして同時に時間同期問題による影響を減らすことができる。

単純な例:
もし1秒につき100万のシンボルを無線伝送路上で従来のシングルキャリア変調を用いて伝送すると、それぞれのシンボルの期間は1マイクロ秒以下になる。これはタイミング同期に厳しい制約が付き、マルチパス干渉の除去を必要とする。もし同じ1秒につき100万のシンボルが1000個のサブチャネルに分割すれば、それぞれのシンボルの期間は直交性によりほぼ同じ帯域幅で1000倍、すなわち1ミリ秒と長くできる。シンボル長の1/8の長さのガード・インターバルがそれぞれのシンボルの間に挿入されると仮定する。もし時間遅延(最初の受信と最後の反射の時間間隔)によるマルチパスがガード・インターバルより短ければ、すなわちこの例では125マイクロ秒以下であれば、シンボル間干渉 (ISI) は避けることができる。これは経路の長さで、最大37.5キロメートルの相違に対応する。

ガード・インターバルには基本的にサイクリック・プレフィクス (CP) が送信される。これはOFDMシンボルの終わりの部分のガードインターバルの長さ分のコピーとなっており、ガード・インターバルの後に元のOFDMシンボルが送られる。ガード・インターバルがOFDMシンボルの終わりのコピーから成る理由は、FFTを用いてOFDMの復調を行なう際、各マルチパスをサブキャリアの正弦波周期の整数倍で積分するためである。これによりチャネル推定(等化器)が簡略化できる。

簡略化された等化器

例えばマルチパス環境下で発生するフェーディングによる周波数選択性チャネルの影響はサブチャネルが十分に狭帯域である、つまりサブキャリア数が十分多ければ、サブキャリア単位で見ればチャネル特性は一定(平坦)であるとみなすことができる。これによりOFDM受信機は従来のシングルキャリア変調と比較してはるかに単純化することが可能となる。具体的には、等化器(イコライザー)は各サブキャリアに対し一定値もしくはほとんど変化しない値を掛算するだけで済む。

単純な例:
上記の例におけるOFDMの等化は受信機においてOFDMシンボル毎に

受信機では受信信号

OFDMによるノッチ
(サブキャリア5個ごとに1個(1サブキャリア分)のノッチの例)

OFDMは家庭内の電力配線を用いて通信回線を構築する電力線搬送通信に使用されている。OFDMで可能な適応変調(例:QPSKから16-QAMへの変更)は特に電力配線のような雑音が多い伝送路に対して重要となる。

なお高速PLCにおいては、漏洩電波(電磁両立性のエミッション)などの問題で、OFDM信号に「ノッチ」と呼ばれる特定の周波数帯域を減衰させる技術が使われる。ノッチ帯域を作り出すには、OFDMの一部のサブキャリアを使用停止にする。

無線LANおよびMetropolitan Area Network (MAN)

OFDMはIEEE 802.11a/g/nやWiMAXなどのワイヤレスLAN/WANアプリケーションにおいて使用されている。

IEEE 802.11aは5GHz帯域を使用し、6-54Mbit/sの通信速度が規定されている。変調方式にはBPSK、4-QAM (QPSK)、16-QAM、64-QAMの4つといくつかの畳み込み符号誤り検出訂正)が使用される。これによりその時々の通信状況に合わせて最適な通信速度とエラーレートに変更することが出来る。

米国ではワイヤレスISPであるClearwire社が2.5GHz帯のWiMAXネットワーク拡大において変調方式にOFDMを使用している。日本でもUQコミュニケーションズ社がモバイルWiMAXのサービス事業を展開している。

パーソナル・エリア・ネットワーク (PAN)

地上デジタルラジオおよびテレビ

地上デジタルテレビ方式の分布図。緑がISDB-T、青がDVB-Tを採用している地域である。

ヨーロッパとアジアでは主にOFDMが用いられるデジタルテレビ及びラジオ規格が採用されている。

地上デジタルテレビでは日本、ブラジルでは日本放送協会が中心となって策定されたISDB-Tが採用されており、またヨーロッパ・アジアの多くの地域ではDVB-Tが採用されている。

OFDMを利用していることにより、アナログ放送ではゴースト現象として問題となったマルチパスによる問題が緩和され、SFNが実現可能であるため中継時に周波数変換をして再送する必要がなく、周波数を有効活用できるメリットがある。

DVB-T

欧州委員会の指示により、欧州共同体内の視聴者に送信される全てのテレビサービスは認められたヨーロッパの標準化団体によって標準化された変調システムを使用しなければならないことになっている[3]。 そしてその標準規格はデジタルビデオブロードキャスティングプロジェクト (DVB Project) によりフレーム構造、チャネルコーディング、変調方式が策定された[4]。 この標準規格は慣習的にDVB-Tと呼ばれており、これには変調にCOFDMが必要となっている。現在DVB-Tはデジタルテレビシステムとしてヨーロッパを中心に広い地域で利用されている。

ISDB(日本の地上デジタル放送)で使われるBST-OFDM

日本ではBST-OFDMシステムが提唱されており、日本のデジタル放送規格であるISDB-T、ISDB-TSB、ISDB-C放送システムで使われるものである。BST-OFDMはいくつかのOFDMキャリアが同一多重内で異なる変調が可能であるということを利用し、COFDMを改善している。既にCOFDMのいくつかの形式は階層的な変調が可能であるが、BST-OFDMはこれをさらに柔軟にすることを目的としている。6MHzの1つのテレビチャンネル帯域は「セグメント」に分割することができ、セグメント毎に異なる変調を行い、異なるサービスに使用される。

例えば、BST-OFDMでは音声、データ、映像といったサービスをそれぞれ数本のキャリアから成る異なるセグメントに分けて同一の6MHzの帯域内で送信することが可能である。さらに例えばテレビ放送を高いマルチパス環境内の固定受信に最適化しつつ、音声やデータは移動体受信に最適化できるといった異なるパラメータで変調することが可能である。

地上デジタル放送規格であるISDB-Tでは1つのチャンネルに割り当てられる周波数帯を13個のセグメントに分割し、中心の1セグメントは移動体受信(ワンセグ)向けにビットレートを落としてその引き換えに低性能なアンテナでの受信などを可能にし、残りの12セグメントは固定受信向けにビットレートを高くしている。また今後予定されているデジタルラジオについても同様の手法が使用される予定であったがこれは中止された。

脚注

  1. ^ http://www.nec.co.jp/techrep/ja/journal/g06/n02/060204.html
  2. ^ NR: Nordstrom-Robinson code
  3. ^ DIRECTIVE 95/47/EC OF THE EUROPEAN PARLIAMENT AND OF THE COUNCIL on the use of standards for the transmission of television signals
  4. ^ ETSI Standard: EN 300 744 V1.5.1 (2004-11).

関連項目

外部リンク




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