胸たたきとは? わかりやすく解説

Weblio 辞書 > 辞書・百科事典 > デジタル大辞泉 > 胸たたきの意味・解説 

むね‐たたき【胸×叩き】

読み方:むねたたき

江戸時代歳末に手で裸の胸をたたきながら、祝言述べて銭を乞(こ)い歩いた門付(かどづ)け。


胸叩

(胸たたき から転送)

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2016/11/07 19:02 UTC 版)

胸叩(左)、鉦叩(右)の歌合(『三十二番職人歌合』、1494年、その1838年の模写)。上半身裸である。

胸叩、または胸叩き胸敲(むねたたき)は、中世近世12世紀 - 19世紀)の日本に存在した民俗芸能大道芸の一種であり、およびそれを行う者である[1][2][3]物乞いの一種であるとされ、歳末に上半身裸で胸を叩き「祝い言」を叫ぶという門付をして、金品を得た[1][2]。一種の予祝芸能である。冬の季語[4]

略歴・概要

「胸叩」は、上半身裸の人物が、自らの手で自らの胸を叩き、騒がしく叫びながら民家等をめぐり歩く、という芸能である[5]。『絵巻物と民俗』の五来重によれば、そもそも「胸叩」は「山伏苦行」の姿であるという[6]

室町時代15世紀末の1494年(明応3年)に編纂された『三十二番職人歌合』の冒頭には、「いやしき身なる者」として、「鉦叩」とともに「胸たたき」(胸叩)として紹介され、粗末な編笠を被り無精髭を生やし、上半身裸で地面に座り込む姿が描かれている[3]。この歌合に載せられた歌は、

  • 宿ごとに 春まゐらむと ちきりしは 花のためなる むなたゝきかな

というもので、門付で訪れる家々で「春まゐらむ」(「春が来るだろう」の意)と予祝して回る「胸叩」を歌っている[7]。五来重によれば、この時期の「胸叩」は、本来の「山伏の苦行」であることが忘れられてしまっている段階である、という[6]。同歌合に描かれる腰につけた容器状のものは「餌畚」(えふご、鷹狩の際に鷹の餌や弁当を入れる容器)である[7]

国史大辞典』(吉川弘文館)では「胸叩」を「節季候」(せきぞろ)とイコールであるとし、『日本国語大辞典』(小学館)では「節季候の類」としている[4]。確かに「胸叩」の唱える「祝い言」に「節季候」があるが、「節季候」の芸能者たちはみな覆面をしており、衣裳・装束、人数編成等も大きく異なっている[8][9]。『日本国語大辞典』によれば、「胸叩」は、歳末の物乞いの一種で、胸を叩き「節季候」と唱えながら門付をし、金品を乞う者であるとする[4]。『郷土史大辞典』も、中世の「胸叩」が戦国時代・江戸時代の「節季候」の前身であろうと記述している[10]。「節季候」は、近世になって登場したが、歳末に上半身裸で胸を叩く「胸叩」は、近世になっても「節季候」と平行して続いており[8][9]、「胸叩=節季候の前身」説は、「胸叩」の大道芸、正月に手を叩く祝言芸との混同ではないかという指摘もある[11]

江戸時代17世紀 - 19世紀)に入り、「胸叩」の門付は盛んに行われた[1]。「胸叩」たちの芸のうちから起きた俗謡に『浮世叩』(うきよたたき)がある[12][13]。江戸時代にあって、「浮世叩」とは、編笠を被りで拍子をとり、俗謡『浮世叩』を歌いながら行う門付、およびそれを行う者の呼称にもなった[12][13][14]。17世紀に現れた芸能集団「乞胸」の先駆的形態が「胸叩」である、とされる[15]。「乞胸」となった者たちは、そもそも武士階級であった浪人であり、慶安年間(1648年 - 1651年)に「町人階級」(職人商人)に下げられた上で、非人頭車善七の支配下に入った[15][16]。1871年(明治4年)、「乞胸」の名称は廃止となった[16]

脚注

[ヘルプ]
  1. ^ a b c 胸叩きデジタル大辞泉コトバンク、2012年9月11日閲覧。
  2. ^ a b 胸叩き大辞林 第三版、コトバンク、2012年9月11日閲覧。
  3. ^ a b 小山田ほか、p.142.
  4. ^ a b c 胸叩』 - Yahoo!百科事典、2012年9月11日閲覧。
  5. ^ 岩崎、p.32.
  6. ^ a b 五来、p.251-252.
  7. ^ a b 阿部、p.122-123.
  8. ^ a b 世界大百科事典 第2版『節季候』 - コトバンク、2012年9月11日閲覧。
  9. ^ a b 百科事典マイペディア『節季候』 - コトバンク、2012年9月11日閲覧。
  10. ^ 郷土史、p.985.
  11. ^ 京都、p.61.
  12. ^ a b 浮世叩』 - Yahoo!百科事典、2012年9月11日閲覧。
  13. ^ a b 第2巻、p.529.
  14. ^ 大辞林 第三版『浮世叩き』 - コトバンク、2012年9月11日閲覧。
  15. ^ a b 世界大百科事典 第2版『乞胸』 - コトバンク、2012年9月11日閲覧。
  16. ^ a b 書評・乞胸 江戸の辻芸人野口武彦アサヒコム、2012年9月11日閲覧。

参考文献

関連項目

外部リンク



英和和英テキスト翻訳>> Weblio翻訳
英語⇒日本語日本語⇒英語
  

辞書ショートカット

すべての辞書の索引

「胸たたき」の関連用語

胸たたきのお隣キーワード
検索ランキング

   

英語⇒日本語
日本語⇒英語
   



胸たたきのページの著作権
Weblio 辞書 情報提供元は 参加元一覧 にて確認できます。

   
デジタル大辞泉デジタル大辞泉
(C)Shogakukan Inc.
株式会社 小学館
ウィキペディアウィキペディア
All text is available under the terms of the GNU Free Documentation License.
この記事は、ウィキペディアの胸叩 (改訂履歴)の記事を複製、再配布したものにあたり、GNU Free Documentation Licenseというライセンスの下で提供されています。 Weblio辞書に掲載されているウィキペディアの記事も、全てGNU Free Documentation Licenseの元に提供されております。

©2025 GRAS Group, Inc.RSS