水仙や男をまたぎ水飲みに
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季 語 |
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季 節 |
冬 |
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前 書 |
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評 言 |
小学校五年の時に、私の“象徴”は、てんとう虫だ。と決めたという。 第三句集は「紅娘」赤い水玉の赤い本です。この句に出会ったとき、久しくこの水を飲んでいないなあ。と呟き、あらいやだって、想い出し笑いをしたのは、私だけでしょうか。 さりげなく艶っぽい静かな水仙です。薔薇では少し怖いし、昼顔じゃあぶない。 水仙に健康な日常が写ったのでした。この紅娘の中いっぱいに敷きつめられた季語の豊かさに、信州の山河がやんわりと笑いかけます。そこには彼女の師が提唱する地貌季語の暖かさがありました。 だまされて蜂の子飯を口にせり 南信の人に「美味いから、だまされたと思って食ってみな」と差し出されたのは、蛆にしか見えない蜂の子飯でした。 北には北の、南には南の匂いがあります。海恋しければ、山恋しければ、俳句の中に、その匂いをさがせます。 松本サリン忌ざりがにの忌なりけり 日本中を震撼させた忌しいあの日、松本の空の下に、罪をなすりつけられた方がいました。その方の家の前の池には、夥しい程のざりがにが浮いていたそうです。 人は忘れるから生きてゆけるのだといいますが、こうして読んで思い出します。 生まれた時から、生きにくかった我が自画像と、あとがきに書いてあった、このてんと虫は、あなたですか。 苦悩する顔の赤子やてんと虫 でも笑顔のあなたは、やっぱりこちらの「紅娘」がよく似合う。 出典:『紅娘』 |
評 者 |
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備 考 |
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