村上春樹にご用心とは? わかりやすく解説

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村上春樹にご用心

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2017/03/15 07:52 UTC 版)

村上春樹にご用心
著者 内田樹
イラスト フジモトマサル
発行日 2007年9月29日[1]
発行元 アルテスパブリッシング
ジャンル 評論、エッセイ
日本
言語 日本語
形態 並製本
ページ数 256
コード ISBN 978-4903951003
ウィキポータル 文学
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村上春樹にご用心』(むらかみはるきにごようじん)は、内田樹が著した文芸評論、エッセイ。「村上春樹関係のテクストのほぼすべてを網羅したアンソロジー」[2]本である。

概要

本書は、(1) 最初の単行本、(2) 増補版、(3) 増補版の文庫版、と3種類あり、それぞれ内容が異なる。

(1) 『村上春樹にご用心』 / アルテスパブリッシング / 2007年9月29日 / ISBN 978-4903951003

(2) 『もういちど村上春樹にご用心』 / アルテスパブリッシング / 2010年11月25日 / ISBN 978-4-903951-37-9

(3) 『もういちど村上春樹にご用心』 / 文春文庫 / 2014年12月4日 / ISBN 978-4-16-790259-9

「どうして村上春樹はある種の批評家たちからこれほど深い憎しみを向けられるのか?」[3]という著者の積年の疑問から本書は成立している[注 1]。また、本書のように村上を絶賛するだけの本というのは類がない[注 2]。タイトルは大滝詠一の「あの娘に御用心」(1976年)から取られている[6]

最初の単行本のカバー・イラストを描いたフジモトマサルは、のちに村上春樹の期間限定サイト「村上さんのところ」(2015年1月15日~5月13日公開)の絵を担当した。

収録された文章の多くは著者のブログ「内田樹の研究室」に掲載されたものである。これまでに中国語(簡体字版、繁体字版)と韓国語に翻訳されている[7]

版元の株式会社アルテスパブリッシングは2007年4月に設立された会社であるが、『村上春樹にご用心』は同社が最初に出版した1冊である[8]

内容

タイトル 単行本 増補版 文庫版
はじめに――ノーベル文学賞受賞のヴァーチャル祝辞 -- --
極東のアヴァター
――『羊をめぐる冒険』と『ロング・グッドバイ
すぐれた物語は身体に効く
キャッチャー・イン・ザ・ライ』を読む
お掃除するキャッチャー
翻訳とは憑依することである -- --
「父」の不在
冬のソナタ』と村上春樹 -- --
『冬ソナ』と『羊をめぐる冒険』の説話論的構造
霊的な配電盤について
フッサール幽霊学とハイデガー死者論 -- --
After dark till dawn
無国籍性と世界性 -- --
パリで「かえるくん、東京を救う」を読む -- --
フランス語で読む村上春樹 -- --
太宰治と村上春樹
身体で読む -- --
読者のとりつく島 -- --
倍音的エクリチュール
うなぎくん、小説を救う
ランゲルハンス島の魔性の女 -- --
村上文学における「朝ご飯」の物語論的機能
比較文学とは何か? -- --
食欲をそそる批評
村上春樹恐怖症[注 3] -- --
なぜ村上春樹は文芸批評家から憎まれるのか? -- --
「激しく欠けているもの」について
詩人と批評家 -- --
批判されることについて -- --
ニッポンの小説は再生できるか -- --
村上春樹とハードボイルド・イーヴル・ランド[注 4]
ハーバーライトを守る人 -- --
三大港町作家 -- --
アーバンとピンボールの話
三〇~四〇代の女性に薦める一作
――『神の子どもたちはみな踊る
ふるさとは遠きにありて思ふもの -- --
一〇〇パーセントの女の子とウェーバー的直感について
はじめに――村上春樹の太古的な物語性について --
初心者のための村上春樹の「ここが読みどころ」 --
壁と卵――エルサレム・スピーチを読む[注 5] --
1Q84』読書中 --
「父」からの離脱の方位 --
「子ども」に今できること――『1Q84』BOOK3評 --
困ったときの老師頼み --
ペット・サウンズ』の想い出 --
「ノーベル賞受賞祝賀予定稿」2009年ヴァージョン --
村上春樹と司馬遼太郎 --
<特別対談> 柴田元幸×内田樹『村上春樹はからだで読む』[注 6] --
村上春樹の翻訳を語る --
「君」とはホールデン自身である --
村上春樹の労働哲学 --
境界線と死者たちと狐のこと
――『色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年』について
-- --
「女のいない男」の一人として[注 7] -- --

脚注

注釈

  1. ^ 「私にはいまだにその理由がわからない」と一度は書いた内田であるが、本書で次のように述べている。「村上春樹の愛読者たちの『選ばれた受信者』感覚は他の作家に比べてより先鋭であるが、それは彼が『批評家たちにぜんぜん評価されない』という文壇的事実によっていっそう強化されている。皮肉なことだが、批評家たちが『私には何も聞こえない』と声高に言えば言うほど、『では、私が聴き取っているこの倍音は、私だけに聞こえているのだ』という読者ひとりひとりの確信は深められる。批評家たちは逆説的なことに、村上春樹からは『何の音もしない』と言い続けることで、販促活動に活発な協力を果たしているのである」[4]
  2. ^ 内田樹も自身のブログで「村上春樹を絶賛する本だから(そんな本これまでないし)、村上ファンはみな買うわな(ぼくだって買うもの)」と述べている[5]
  3. ^ 村上春樹は2006年3月10日発売の『文藝春秋』4月号に、『ある編集者の生と死――安原顯氏のこと』と題するエッセイを発表。自身の自筆原稿が本人に無断で、安原によって古書店に売り払われていたことを述べた。「村上春樹恐怖症」はこの村上のエッセイが発表された直後に書かれた文章である[9]。「安原顯が村上春樹を憎むようになったきっかけは、安原の作家的才能に対する外部評価が、彼が望んでいるほどには高くなかったことと無関係ではないだろう。作家の直筆原稿という生々しいオブジェを換金商品として古書店に売り飛ばしたというところに私は安原の村上春樹に対する憎悪の深さを感じる」[10]
  4. ^ 「村上春樹とハードボイルド・イーヴル・ランド」は『Meets Regional』2002年3月号に掲載された文章で、本書よりも先に『期間限定の思想―「おじさん」的思考2』(晶文社、2002年11月)に収録された。そのときのタイトルは「邪悪なものが存在する」。元の文章はよりくだけた書き方になっている。「『先生、村上春樹の小説のテーマって、何でしょう?』 むずかしい質問だね。(中略) しかし、あらゆる質問に間髪を入れずに答えるのは大学教師に求められる重要な技能の一つである。お答えしよう。『それはね、ヨシオカくん。邪悪なものが存在するということだよ』」[11]
  5. ^ 村上春樹は2009年2月15日に行われたエルサレム賞授賞式で英文のスピーチを行う[12]。内田はすぐにその英文スピーチを訳し、自身のブログで2回に分けてこれを論じた(「内田樹の研究室」2009年2月18日、2月20日)。「壁と卵――エルサレム・スピーチを読む」はその二つをまとめたものであるが、『もういちど村上春樹にご用心』に収録される際文章の多くがカットされた。引用されたモーリス・ブランショの言葉もそのひとつ。「神を見た者は死ぬ。言葉の中で言葉に生命を与えたものは息絶える。言葉とはこの死の生命なのだ。それは『死をもたらし、死のうちで保たれる生命』なのだ。驚嘆すべき力。何かがそこにあった。そして、今はもうない。何かが消え去った」[13]
  6. ^ 柴田元幸と内田樹の対談は、柴田の『代表質問 16のインタビュー』(新書館、2009年6月)にも収録された。ただし、本書に収録されたものと言い回しは異なる。
  7. ^ 文春文庫版のために書き下ろされた、短編集『女のいない男たち』(2014年)の評論。内田は次のように述べる。「村上春樹は久しく『自制心がつよく、礼儀正しく、正確な言葉づかいをする男』が『純粋な悪意』に遭遇し、それを生き延びる物語を書き続けてきた。ある意味で二元論的な、コスモロジカルに整った世界である。でも、それがここに来て、さらに深みを増してきたように僕は思う。(中略) 僕は作家が『救いのなさ』を扱うだけの物語構成力と文体を獲得しつつあることに驚嘆するのである」[14]

出典

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