台詞の例
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/05/08 02:19 UTC 版)
大名 「八幡大名。冠者ゐるか」 冠者 「これにつめてござる」 大名 「今日は遊山に出う。供をせい」 冠者 「よい日和にて面白いな」 猿引 「これはこの辺に住む猿引でござる。町へ猿を引いて出まっせう」 大名 「冠者、よい猿の」 冠者 「見事な猿を引いてまゐる」 大名 「やいやい、その猿はどこへつれてゆくぞ」 猿引 「某は猿引でござる。町へ猿まはしに参りまする」 大名 「猿引ぢゃ。冠者、この靱にかけう。これこれ猿引、無心言ひたいが聴かうか」 猿引 「何なりとも承りませう」 大名 「過分におぢゃる。お礼申さう」 猿引 「迷惑な」 大名 「その猿の皮を貸せ。この靱にかけう」 猿引 「ざれごと御意なされまする」 大名 「いやいや、真実ぢゃ」 猿引 「生きてゐる猿の皮がからるるものでござるか。冠者殿頼みまする」 大名 「四五年過ぎて返さう」 猿引 「猿引づれと思うて、我侭をおしゃる。ならぬ」 大名 「やいやい、名字をもくびにかけた者が、礼まで言うた。貸さずは、猿もおのれも射殺(いころ)してやらう」 猿引 「まづ冠者殿。とりさへて下され。猿を進上致しませいでは」 大名 「はやう皮をおこせい」 猿引 「私が打って、皮に傷のないやうにして、進上仕らう」 大名 「早うゝゝ」 猿引 「猿よ、よう聞け。ちひさい時から飼うて、今殺すは迷惑なれども、あのお大名の、皮をかると御意ぢゃ。今殺す。それがし恨みな。えい」 大名 「皮はおこさずに、なぜ泣くぞ」 猿引 「冠者殿、死ぬる事は知らいで、艪(ろ)を押すまねかと思うて、艪を押しまする。畜生でも不憫や」 大名 「合点した。泣くが道理。許す、殺すなと言へ」 冠者 「ゆるさしらるる」 猿引 「忝(かたじけな)うござる。猿、お大名様へ御礼々々。冠者殿へもお礼」 大名 「冠者にまで礼をした」 猿引 「死をたすけ下されましたお礼に、猿をまはしませう」 大名 「まはせゝゝゝ」 冠者 「まはさしめ」 猿引 「畏(かしこ)まった」 ふし 「猿は山王真猿めでたい。まつきおろしの春の駒か、鼻をつるべて参りたるぞや。白銀黄金御知行まさる。めでたきままよ、飛騨(ひんだ)のをどりはひとをどり」 「こなたのお庭をけさ見れば、黄金の枡で米をはかる。三日月なりの鎌ほしや。妻もろともに草を苅らう。舟の中には何とおよるぞ。苫を敷寝に、楫を枕に」 (歌の間に刀、上下、扇をみな猿引にやる) 「一のへいだて、二のへいだて、三の黒駒、しなのをどり。俵を重ねてめんめんに、たのしくなるこそめでたき」
※この「台詞の例」の解説は、「靱猿」の解説の一部です。
「台詞の例」を含む「靱猿」の記事については、「靱猿」の概要を参照ください。
- 台詞の例のページへのリンク