分離・非分離多項式
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2019/02/16 08:54 UTC 版)
F[X] の多項式 f が分離多項式 (separable polynomial) であるとは、F[X] における f のすべての既約因子が相異なる根をもつということである。多項式の分離性は係数をどの体で考えているかに依存する。例えば、g が F[X] の非分離多項式で、g の F 上の分解体 E を考えると、E[X] における g の任意の既約因子は線型でありしたがって相異なる根をもつので、g は E[X] において分離的である必要がある。これにもかかわらず、F[X] の分離多項式 h は F の すべての 拡大体上で分離的でなければならない。 F[X] の元 f を既約多項式とし f′ をその形式微分とする。このとき以下の条件は f が分離的である、すなわち相異なる根をもつための同値な条件である。 E ⊃ F および α ∈ E であれば、(X − α)2 は E[X] において f を割らない。 K ⊃ F が存在して f は K において deg(f) 個の根をもつ。 f と f′ は F のどの拡大体においても共通根をもたない。 f′ は零多項式でない。 上記最後の条件から、既約多項式が相異なる根をもたなければ、その微分は 0 でなければならない。次数が正の多項式の形式微分が 0 になるのは体が素数標数のときに限るから、既約多項式が相異なる根をもたないためにはその係数は素数標数の体に入っていなければならない。より一般に、既約(非零)多項式 f ∈ F[X] が相異なる根をもたなければ、 F の標数が(零でない)素数 p でなければならないだけでなく、ある既約多項式 g ∈ F[X] に対して f(X)=g(Xp) である。この性質を繰り返し用いることによって、実はある非負整数 n とある分離既約多項式 g ∈ F[X] に対して f ( X ) = g ( X p n ) {\displaystyle f(X)=g(X^{p^{n}})} であるということが従う(ただし F は素数標数 p をもっているとする)。 上の段落に書かれた性質から、f が素数標数 p の体 F に係数をもつ既約(非零)多項式で、相異なる根をもたなければ、f(X)=g(Xp) と書くことができる。さらに、 g ( X ) = ∑ a i X i {\displaystyle g(X)=\sum a_{i}X^{i}} で F のフロベニウス自己準同型が自己同型であれば、g は g ( X ) = ∑ b i p X i {\displaystyle g(X)=\sum b_{i}^{p}X^{i}} と書くことができ、とくに、 f ( X ) = g ( X p ) = ∑ b i p X p i = ( ∑ b i X i ) p {\displaystyle f(X)=g(X^{p})=\sum b_{i}^{p}X^{pi}=(\sum b_{i}X^{i})^{p}} である。これは f の既約性に矛盾する。したがって、F[X] が非分離既約(非零)多項式をもつならば、F のフロベニウス自己準同型は自己同型ではありえない(ただし F は素数標数 p をもつとする)。 K が素数標数 p の有限体で X が不定元であれば、K 上の有理関数体 K(X) は不完全体である必要がある。さらに、多項式 f(Y)=Yp−X は非分離である。(このことを確かめるには、f が根 α をもつような拡大体 E ⊃ K(X) が存在することに注意しよう。すると E において α p = X {\displaystyle \alpha ^{p}=X} である。したがって、E 上で考えることにより、 f ( Y ) = Y p − X = Y p − α p = ( Y − α ) p {\displaystyle f(Y)=Y^{p}-X=Y^{p}-\alpha ^{p}=(Y-\alpha )^{p}} (最後の等号は freshman's dream(英語版) から従う)であり、f は相異なる根をもたない。)より一般に、F が正標数の任意の体でフロベニウス自己準同型が自己同型でなければ、F は非分離代数拡大を有する。 体 F が完全であることとその代数拡大のすべてが分離的であることは同値である(実は F のすべての代数拡大が分離的であることと F のすべての有限次元拡大が分離的であることは同値である)。上の段落で概説された議論から、F が完全であることと F の標数が 0 であるかまたは F の標数は素数 p でフロベニウス自己準同型が自己同型であることが同値であることが従う。
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