住民投票
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/01/29 04:30 UTC 版)
住民投票(じゅうみんとうひょう)とは、一定の地域において、住民のうち一定の資格を持つ人が立法や公職の罷免等について意思を明らかにするため行われる投票である。住民投票は、選挙ではないため、混同しないよう注意する必要がある。
日本における住民投票
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日本国憲法の規定に基づく住民投票
日本国憲法第95条では、国会が特定の地方自治体にのみ適用される特別法(地方自治特別法)を制定しようとするときは、その地方自治体の住民による住民投票の結果、過半数の賛成がなければ制定できない、とされている[1]。手続は国会法(67条等)及び地方自治法(261条・262条等)に規定されている[1]。
複数の地方公共団体を対象とする地方自治特別法の場合、対象となる地方公共団体ごとに住民投票が実施される(旧軍港市転換法では横須賀、舞鶴、呉及び佐世保の各市で住民投票が実施された)[1]。地方自治特別法は制定だけでなく改正にも住民投票を要する(例:伊東国際観光温泉文化都市建設法の一部を改正する法律)[1]。ただし、地方自治特別法の廃止には住民投票は必要でない(例:首都建設法)[1]。なお、現に国法上の地方公共団体が存在しない地域に適用する場合は地方自治特別法には当たらない(例:大規模な公有水面の埋立てに伴う村の設置に係る地方自治法等の特例に関する法律(秋田県大潟村の成立前に制定))[1]。
地方自治特別法の判断基準
ある法律案が日本国憲法第95条に規定されている「特別法」に該当し住民投票を実施すべきものかどうかは、地方自治法第261条の規定により、国会の最終可決院での可決後に同院議長から内閣総理大臣へ「特別法である」旨の通知がなされるかどうかで決まる。
特定の地方公共団体の地域を対象とする場合でも、その地域への国の行財政措置等を規律するための法律であれば地方自治特別法に当たらないとされている(例えば北海道開発法は地方公共団体としての「北海道」ではなく北海道地域の開発についての国の事務を定めるものと扱われる)[1]。
過去に住民投票を経た特別法はいずれも地方自治体に財政的優遇措置を与えるものであったため、全て賛成多数によって成立している。過去に住民投票を経た特別法はいずれも財政的援助を主たる内容とするものであったため憲法第95条の「特別法」にあたるのか疑問視する見解もある[1]。
一方、1997年の通常国会における、駐留軍用地特措法の一部改正法案の審議・制定過程において、当該改正により新たに追加される条項(用地の暫定使用を認める規定)の対象となる用地が事実上沖縄県内に所在する在日米軍基地に関するものしかなかったことから、在日米軍に反対する立場の団体・個人等から「この改正法案は憲法第95条に規定する特別法であり、住民投票の手続を経ずに制定するのは同条違反である」との批判がなされた。しかし、当該改正については、条文には適用地域を沖縄県に限定する旨の文言はなく、建前上は全ての在日米軍基地に適用し得るものであったため、最終可決院(参議院)の議長から内閣総理大臣へ「特別法である」旨の通知は付されず、住民投票は行われなかった。
当該法案の初制定時及び実質的な内容の変更を伴う改正法案の場合はその通知が付されて住民投票が実施されるが、たとえば既に特別法として住民投票を経て制定された法律条文中の語句の一部変更(例:行政組織再編に伴う大臣職名部分の変更等)に過ぎない場合は当該議長の(住民投票は必要ないとの)判断により当該通知を付さないため、住民投票は実施されずに通常の一部改正法として速やかに上奏・公布される。住民投票の最後の例である「伊東国際観光温泉文化都市建設法の一部を改正する法律」(昭和27年法律第312号)には実質的な内容の改正が含まれていたため(一部改正法としては唯一この1例のみである)当該通知が行われ住民投票が実施されたが、その他の軽微な一部改正(下記のいくつかの法律に複数回行われている)には当該通知が付されなかったためいずれも住民投票は実施されなかった。
地方自治特別法の制定手続
制定の手続は次の順で実施される。
- 議決後、最後に議決した議院の議長(衆議院の優越により、衆議院の議決が国会の議決となった場合には衆議院議長、参議院の緊急集会において議決した場合には参議院議長)が内閣総理大臣に通知(地方自治法261条1項)
- 内閣総理大臣が直ちにその旨を総務大臣に通知(地方自治法261条2項)
- 総務大臣が、5日以内に、関係普通地方公共団体の長にその旨を通知し関係書類を移送(地方自治法261条2項)
- 関係普通地方公共団体の長が、31日以後60日以内に、投票を実施(地方自治法261条3項)
- 投票後、関係普通地方公共団体の長は関係書類を添えてその結果を総務大臣に報告(地方自治法261条4項)
- 総務大臣は、直ちにその旨を内閣総理大臣に報告(地方自治法261条4項)
- 内閣総理大臣は、直ちに当該法律の公布の手続をとるとともに衆議院議長及び参議院議長に通知(地方自治法261条5項)
これらの法律の公布文の冒頭には「日本国憲法第九十五条に基く」との宣言が冠されている。その後、法令用語の表記方法変更により「基く」は「基づく」と表記するようになったため、今後特別法が制定される場合は「日本国憲法第九十五条に基づく」と冠されるものと考えられる。
住民投票を経た特別法
国会議決日 | 住民投票日 | 特別法 | 地方 自治体 |
賛成 | 反対 | 賛成率 | 結果 | 公布日 | 法令番号 |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
1949年5月11日 | 1949年7月7日 | 広島平和記念都市建設法案 | 広島市 | 71852 | 6340 | 91.89% | 成立 | 1949年8月6日 | 昭和24年法律第219号 |
1949年5月11日 | 長崎国際文化都市建設法案 | 長崎市 | 79220 | 1136 | 98.59% | 成立 | 1949年8月9日 | 昭和24年法律第220号 | |
1950年4月22日 | 1950年6月4日 | 首都建設法案 | 東京都 | 1025792 | 676550 | 60.26% | 成立 | 1950年6月28日 | 昭和25年法律第219号 |
1950年4月11日 | 旧軍港市転換法案 | 横須賀市 | 88644 | 8901 | 90.87% | 成立 | 昭和25年法律第220号 | ||
呉市 | 81355 | 3523 | 95.85% | 成立 | |||||
佐世保市 | 76678 | 2117 | 97.31% | 成立 | |||||
舞鶴市 | 28481 | 5200 | 74.28% | 成立 | |||||
1950年4月7日 | 1950年6月15日 | 別府国際観光温泉文化都市建設法案 | 別府市 | 29487 | 9858 | 74.94% | 成立 | 1950年7月18日 | 昭和25年法律第221号 |
1950年5月1日 | 伊東国際観光温泉文化都市建設法案 | 伊東市 | 6534 | 3652 | 64.15% | 成立 | 1950年7月25日 | 昭和25年法律第222号 | |
1950年6月28日 | 熱海国際観光温泉文化都市建設法案 | 熱海市 | 8792 | 1831 | 83.96% | 成立 | 1950年8月1日 | 昭和25年法律第233号 | |
1950年7月30日 | 1950年9月20日 | 横浜国際港都建設法案 | 横浜市 | 175361 | 19972 | 89.78% | 成立 | 1950年10月21日 | 昭和25年法律第248号 |
1950年9月20日 | 神戸国際港都建設法案 | 神戸市 | 138272 | 25638 | 84.36% | 成立 | 昭和25年法律第249号 | ||
1950年7月28日 | 奈良国際文化観光都市建設法案 | 奈良市 | 22089 | 7735 | 74.06% | 成立 | 昭和25年法律第250号 | ||
京都国際文化観光都市建設法案 | 京都市 | 132263 | 58261 | 69.42% | 成立 | 1950年10月22日 | 昭和25年法律第251号 | ||
1950年12月6日 | 1951年2月10日 | 松江国際文化観光都市建設法案 | 松江市 | 21486 | 6804 | 75.95% | 成立 | 1951年3月1日 | 昭和26年法律第7号 |
1951年2月11日 | 芦屋国際文化住宅都市建設法案 | 芦屋市 | 10288 | 2949 | 77.72% | 成立 | 1951年3月3日 | 昭和26年法律第8号 | |
松山国際観光温泉文化都市建設法案 | 松山市 | 40571 | 8016 | 83.50% | 成立 | 1951年4月1日 | 昭和26年法律第117号 | ||
1951年5月28日 | 1951年7月18日 | 軽井沢国際親善文化観光都市建設法案 | 軽井沢町 | 5138 | 410 | 92.61% | 成立 | 1951年8月15日 | 昭和26年法律第253号 |
1952年6月20日 | 1952年8月20日 | 伊東国際観光温泉文化都市建設法の 一部を改正する法律案 |
伊東市 | 12710 | 256 | 98.03% | 成立 | 1952年9月22日 | 昭和27年法律第312号 |
直接請求制度に基づく住民投票
地方自治法や市町村合併特例法等の規定による直接請求制度に基づく住民投票制度がある[1]。
地方自治法
地方自治法では直接請求のうち、議会の解散(第76条~第79条)、議員の解職(第80条、第82条~第85条)、首長の解職(第81条~第85条)について有権者の一定数の署名を集めて請求した場合、住民投票に付さなければならない規定がある[1]。
住民投票に必要な署名の数は、普通地方公共団体の有権者の数によって異なる。
- 有権者の数が40万人以下の場合
- 有権者の数をxとすると
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