レトログレードシグナル
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/01/06 09:03 UTC 版)
「DNA複製」の記事における「レトログレードシグナル」の解説
細胞分裂におけるミトコンドリアおよび葉緑体の分裂機構に研究において、単細胞紅藻シゾンCyanidioschyzon merolaeがモデル生物としてよく用いられている。C. merolaeにおける研究から、ミトコンドリアと葉緑体のDNA複製は核のそれより先んじて行われ、オルガネラにおけるDNA複製の開始はG1期/S期に特異的なサイクリン依存性キナーゼCDKA (cyclin-dependent kinase A) を活性化し、これが核の複製を開始させることが明らかとなっている。この知見はオルガネラの複製開始をCDKAの活性化につなげるシグナル伝達の存在を示唆する。このような、オルガネラから核へのシグナル伝達をレトログレードシグナルという。 C. merolaeにおいて、葉緑体から発信されてCDKAの活性化を引き起こすレトログレードシグナルのシグナル分子は、テトラピロールの一種であるMg-プロトポルフィリンIX (Mg-protoporphyrin IX:Mg-ProtoIX) である。また、Mg-プロトポルフィリンIXのレトログレードシグナルはタバコの培養細胞BY-2においても確認されているため、このシグナルは高等植物一般である可能性がある。葉緑体のDNA複製が行われると、葉緑体で合成されているMg-プロトポルフィリンIXが葉緑体外に放出されて細胞質に蓄積し、サイクリン1 (cyclin 1) の細胞内濃度を増大させる。サイクリン1がCDKAと結合すると、CDKAを活性化させる。 S期以外の細胞周期においてサイクリン1はポリユビキチン化され、ポリユビキチン化したタンパク質を標的とするプロテオソームによりサイクリン1が分解されている。サイクリン1のポリユビキチン化を行う酵素(ユビキチンリガーゼ)はSCF複合体であるとされている。SCF複合体はSkp1、Cullin 1、Fボックスタンパク質から構成され、標的の認識はFボックスタンパク質が行う。C. merolaeにおける典型的なFボックスタンパク質はFbx1~4の4種類があるが、サイクリン1を認識するFボックスタンパク質はFbx3である。Mg-プロトポルフィリンIXはFbx3との結合能を有しており、Mg-プロトポルフィリンIXがFbx3と結合することによりサイクリン1の結合を競合阻害すると考えられている。
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