ツノオウミセミとは? わかりやすく解説

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ツノオウミセミ

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2025/07/23 09:22 UTC 版)

ツノオウミセミ
αが典型的な雄、♀が雌。典型的な雄αのほかに、雌に擬態した雄β、幼体に擬態した雄γがいる。
分類
: 動物界 Animalia
: 節足動物門 Arthropoda
亜門 : 甲殻亜門 Crustacea
: 軟甲綱 Malacostraca
亜綱 : 真軟甲亜綱 Eumalacostraca
上目 : フクロエビ上目 Peracarida
: ワラジムシ目(等脚目) Isopoda
: コツブムシ科 Sphaeromatidae
: Paracerceis
: ツノオウミセミ P. sculpta
学名
Paracerceis sculpta
Holmes, 1904

ツノオウミセミ学名Paracerceis sculpta)は、体長が約1.3ミリメートル (0.05 in)から10.3ミリメートル (0.41 in)のワラジムシ目に属するコツブムシの一種である[1]。本種は主に潮間帯に生息し[2]、元来は北東太平洋の南カリフォルニアからメキシコにかけて分布していたが、現在では外来種として世界各地に定着している[3]。成体は草食性藻類を摂取するが、幼体は肉食性で母親の体内で母親の体の一部を食べる[2]。繁殖は海綿動物の中で行われるが、海綿の近くで採餌することはない[4]

繁殖

本種の繁殖戦略は注目に値し、雄・雌ともに動物としては珍しい特徴を示す。

雄はα型、β型、γ型の3つの形態を持ついわゆる多型であり、それぞれ大きさが異なる。3つのうち、α型の雄が最も大型で優位性が高く、ハレムを形成して複数の雌と交尾する(動物における一夫多妻制英語版)。β型の雄は雌に擬態しており、そのためα型雄のハレム内で一部の雌と交尾することに成功する。γ型はさらに小型で、幼体に擬態することでα型雄の目を逃れて交尾に至る。体の中の精巣の割合が最も多いのがγ型の雄であり、それに続くのがβ型、最も少ないのがα型である[4]。このような遺伝的多型に基づく代替的な繁殖戦略が見られる他の種としては、ソードテールニシキノボリユタトカゲ英語版エリマキシギワキモンユタトカゲなどが挙げられる[5]

雌は成熟直前に共食いすることがある。雌は繁殖のため海綿動物の中に入り(一つの海綿の中に最大で19匹が確認されている)、α型の雄がそれを守る。雌はその後、生殖のための脱皮を行い、その際に口器を失う。雌は一生に一度だけ英語版体内に産卵し、体が大きい雌ほど多くの卵を産む。卵は雌の体内で受精するが、この種および近縁種の精子運動性がないと考えられており、どのようにして精子が雌の体内に入るかは不明である。妊娠期間は水温によって異なり、水温が低いほど時間がかかる。雌の内臓や筋肉は妊娠期間中に分解されていく。雌の体内で卵がかえるとそのまま体内の育房で子を保護し、自らの体を子の餌とした後、子を外に放出する。子が放出された後、雌は間もなく死亡する。放出された子は藻類を食べるようになる[6]

ツノオウミセミ(A-E)と、同科のParadella dianae (G-J)、Sphaeroma walkeri (K-N)。A, C, Eが雄、B, Dが雌。矢印の箇所が3種を見分けるポイント

国際的な拡散

ツノオウミセミの原産はカルフォルニアからメキシコにかけての太平洋沿岸である[7]

ツノオウミセミは大型船舶によって世界中に拡散したと考えられている。本種が繁殖に利用する海綿動物は船の船底に付着して成長することがあり、これによってツノオウミセミも容易に輸送される。また、バラスト水を介して拡散した可能性も高い。こうした経路を通じて、ツノオウミセミはオーストラリアブラジル大西洋に面したヨーロッパ沿岸、ハワイ州香港地中海[3]、および日本[1]へと広がった。広範な水温環境への適応力が、船舶による拡散を可能にしている要因の一つと考えられている[3]

日本での受容

発見と和名

ウミセミ(海蝉)はツノオウミセミと同じコツブムシ科のニホンコツブムシ (Cymodoce japonica)の別名で、セミに似ていることから名付けられた。ツノオウミセミは1986年に布村昇により新種Paracerceis japonicaとして報告されたが、2004年に再発見されParacerceis sculptaと同じ種とされた。和名ツノオウミセミはそのまま残された[7]

環境省の扱い

2015年、日本の環境省は「我が国の生態系等に被害を及ぼすおそれのある外来種リスト」として動物229種、植物200種を発表したが[8]、ツノオウミセミは非掲載となった[9]

2024年9月に「リスト加除対象の候補種一覧」が発表されたが、この際も「事務局としては非掲載と判断した種」となった[9]

参考文献

  1. ^ a b H. Ariyama & M. Otani (2004). Paracerceis sculpta (Crustacea: Isopoda: Sphaeromatidae), a newly introduced species into Osaka Bay, Central Japan”. Benthos Research 59 (2): 53–59. doi:10.5179/benthos1996.59.2_53. http://sciencelinks.jp/j-east/article/200508/000020050805A0254133.php. 
  2. ^ a b Paracerceis sculpta species summary”. NIMPIS: National Introduced Marine Pest Information System (2002年). 2009年5月20日閲覧。[リンク切れ]
  3. ^ a b c Chad L. Hewitt & Marnie L. Campell (2001). “The Australian distribution of the introduced sphaeromatid isopod Paracerceis sculpta”. Crustaceana 74 (9): 925–936. doi:10.1163/15685400152682674. 
  4. ^ a b Stephen Shuster (1987). “Alternative reproductive behaviors: three discrete male morphs in Paracerceis sculpta, an intertidal isopod from the Northern Gulf of California”. Journal of Crustacean Biology 7 (2): 318–327. doi:10.2307/1548612. JSTOR 1548612. http://www4.nau.edu/isopod/Pubs/Shuster,%20S.M.%201987_2.pdf. 
  5. ^ Oscar Rios-Cardenas, M. Scarlett Tudor & Molly R. Morris (2007). “Female preference variation has implications for the maintenance of an alternative mating strategy in a swordtail fish”. Animal Behaviour 74 (3): 633–640. doi:10.1016/j.anbehav.2007.01.002. 
  6. ^ Stephen Shuster (1991). “Changes in female anatomy associated with the reproductive moult in Paracerceis sculpta, a semelparous isopod crustacean”. Journal of Zoology 225 (3): 365–379. doi:10.1111/j.1469-7998.1991.tb03822.x. http://www4.nau.edu/isopod/Pubs/Shuster,%20S.M.%20%201991.pdf. 
  7. ^ a b “外来種ツノオウミセミParacerceis sculpta(甲殻亜門;ワラジムシ目;コツブムシ科)の報告とクビレヅタへの影響”. 日本ベントス学会誌 69 (2): 85-89. (2024-12-31). https://jglobal.jst.go.jp/detail?JGLOBAL_ID=201502259262259954 2025年7月19日閲覧。. 
  8. ^ 「我が国の生態系等に被害を及ぼすおそれのある外来種リスト(生態系被害防止外来種リスト)」の公表について(お知らせ)”. 環境省 (2015年3月26日). 2025年7月19日閲覧。
  9. ^ a b 令和6年度 第3回 生態系被害防止外来種リストの見直しに係る検討会”. 環境省 (2024年9月17日). 2025年7月19日閲覧。

関連文献




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