ステップ4:祖音素の再構
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/06/12 09:48 UTC 版)
「比較方法 (言語学)」の記事における「ステップ4:祖音素の再構」の解説
類型論は、どの再構がデータに最適かを判断するのに役立つ。たとえば、母音間において、無声破裂音の有音化は一般的であるが、有声破裂音の無声化は稀である。母音間の対応 -t-: -d-が2つの言語で見つかった場合、祖音素は *-t-であり、子言語で有声音に変化した可能性が高い。逆の再構は、稀なタイプの変化が起こったことを推定することになる。 しかしながら、普通ではない音変化も生じることがある。インド・ヨーロッパ祖語の「2」にあたる語は、例えば、*dwō のように再構されるが、これは古典アルメニア語における erku に対応する。アルメニア語では、他のいくつかの同根語は*dw- → erk-という規則的な音変化を示す。同様に、アサバスカ諸語のスレイビー語のBearlake方言では、アサバスカ祖語 *ts → Bearlake方言 kʷという変化が起こっている。 *dw- が erk- に変化したり、 *ts が kʷ に変化したりするのは、起こりにくい変化であるが、おそらく、現在の状態に至るまでの間にいくつかの中間段階を経ている。比較方法において重要なのは、音声的類似ではなく、規則的な音対応なのである。 オッカムの剃刀により、素音素の再構は、現在の娘言語の状態までの間でできるだけ少ない音変化で済むような形にする必要がある。例えば、アルゴンキン諸語においては、次のような対応セットを示す。 オジブウェー語 ミクマク語 クリー語 ムンセー語(英語版) ブラックフット語 アラパホー語 m m m m m b これについて最少の音変化で済む再構の候補は *m または *bである。 *m → b の変化も *b → m の変化も良く起こるものである。 m は5つの言語で見られ、 b は1つの言語でしか見られない。このことから、もし *b が再構されれば *b → m という変化が5回の別々に起こる必要があるが、もし *m が再構されれば *m → b という変化が1回起こっただけで済む。よって、最構音は *m が最節約的である。 この議論は、アラパオー語以外の5言語が、少なくとも部分的に、互いに独立していることを前提としている。逆に、もしこれらの5言語がすべて共通の下位グループに属す場合には、 *b → m の変化もたった1回だけで済むことになる。
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