ザヴァケファレ
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2025/09/20 21:07 UTC 版)
ザヴァケファレ | |||||||||||||||||||||||||||||||||
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骨格レプリカ
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地質時代 | |||||||||||||||||||||||||||||||||
前期白亜紀アプチアン期あるいはアルビアン期 | |||||||||||||||||||||||||||||||||
分類 | |||||||||||||||||||||||||||||||||
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学名 | |||||||||||||||||||||||||||||||||
Zavacephale Chinzorig et al., 2025 |
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タイプ種 | |||||||||||||||||||||||||||||||||
Zavacephale rinpoche Chinzorig et al., 2025 |
ザヴァケファレ(学名:Zavacephale)は、モンゴル国のゴビ砂漠から化石が発見された、堅頭竜類に属する鳥盤類の恐竜の属[1]。約1億1000万年前の地層から化石が産出しており、確実な堅頭竜類としては記載・命名時点で最古の例である[1]。パキケファロサウルスのような後の時代の堅頭竜類と同じくドーム状の頭部が発達している[1]。2025年に新属新種として命名されたタイプ種ザヴァケファレ・リンポチェ(Zavacephale rinpoche)が知られる[1]。
発見と命名
ザヴァケファレの化石は、2019年にモンゴル国で発見された[2]。当時は後のザヴァケファレ・リンポチェの記載論文著者であるチンゾリグ・ツォクトバートルや⾼崎⻯司、吉⽥純輝などが参加する国際発掘調査がゴビ砂漠で実施されていた[2]。産出層準は下部白亜系のKhuren Dukh層であった[3]。
化石は断崖に露出していたところを発見された[2]。標本は頭部、肩帯・上腕骨・指骨、腰帯・後肢、胴椎・仙椎・尾椎が保存されている[2]。特に前肢の指骨と完全な尾椎が保存された堅頭竜類としては世界初の例である[1][2]。また腹部には角ばった胃石が保存されており、堅頭竜類から報告された胃石の例としても初となる[2]。
タイプ種であるザヴァケファレ・リンポチェはチンゾリグを筆頭著者として2025年に記載・命名された[3]。属名は堅頭竜類の進化史上における本属の位置を考慮してチベット語で「根」「起源」を意味するZavaとラテン語で「頭」を意味するcephaleに由来し、タイプ種の種小名は化石の産状を反映して「尊いもの」を意味するチベット語の語句に由来する[2]。岡山理科大学と福島県立博物館によるプレスリリースでは、種名全体の日本語訳は「ドーム頭の恐⻯の起源にして、尊い宝」とされている[2]。
特徴

ザヴァケファレは前期白亜紀の後期に生息した極めて初期の堅頭竜類でありながらドーム状の頭部構造が既に発達している[2]。このドーム状の頭骨は前頭部が発達する一方で、後頭部の装飾が後の時代の分類群ほど発達していない[2]。このため、頭部が平坦なタイプの堅頭竜類は初期の形質状態を保存しているのでなく、二次的に当該の形質状態を獲得した可能性が考えられている[2]。
ザヴァケファレ・リンポチェのホロタイプ標本の個体は生時において全長約1メートル、体重約6キログラムと推定されている[1]。種を形態的に定義する特徴としては、上顎骨の表面が平滑であること、最前列の歯骨歯が小型であること、尾椎の骨化腱が発達していること、後頭部の装飾が発達しないことなどが挙げられる[1]。
個体発生
ザヴァケファレ・リンポチェのホロタイプ標本の個体は、後肢の長骨の断面に見られる成長停止線の数から、2歳以上の未成熟個体であったと推定されている[2]。このためザヴァケファレは骨格が完全に成熟する前にドーム状の頭部を発達させていたことや、またその頭部の発達がステゴケラスなどの他の堅頭竜類と同様に、またスティギモロクとは反対に、前側から開始したことが示唆される[2]。
系統発生

Chinzorig et al. (2025)は過去の複数の系統解析に起源を持つ新たな系統データマトリックスを作成し、これによりザヴァケファレを含む堅頭竜類の系統解析を行った。結果としてザヴァケファレは堅頭竜類の非常に基盤的な位置に配置され、ワンナノサウルスよりも派生的とされた。この樹形はザヴァケファレが他の全ての堅頭竜類との姉妹群となることを意味する。以下はこの系統解析に基づくクラドグラムであり[3]、ノード名はMadzia et al. (2021)に基づく[4]。
堅頭竜類 |
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古環境
ザヴァケファレは下部Khuren Dukh層の上部から化石が産出しており、当該の層準は前期白亜紀のアプチアン期からアルビアン期にかけての地層と推定されている。他の既知の堅頭竜類は化石記録が後期白亜紀に限られており、本属の発見は当該分類群の最古の記録を大きく遡らせるものとなった[3]。Khuren Dukh層(フフテグ層とも)から化石が産出した恐竜には、角竜類のプシッタコサウルス、オルニトミモサウルス類のハルピミムス、イグアノドン類のアルティリヌスとチョイロドン、そして属レベルで同定されていないトロオドン科とネメグトサウルス科のものがいる[5][注 1]。恐竜以外の動物ではカメやコリストデラ類の化石が産出している[5]。
脚注
注釈
出典
- ^ a b c d e f g “最古の「頭突き恐竜」化石を発見、新属新種の「ザヴァケファレ・リンポチェ」と命名”. 岡山理科大学 (2025年9月18日). 2025年9月19日閲覧。
- ^ a b c d e f g h i j k l m “最古の頭突き恐⻯化⽯、新属新種「ザヴァケファレ・リンポチェ」を発⾒ 〜謎の恐⻯グループの『ミッシング・リンク』発⾒〜”. 岡山理科大学、福島県立博物館 (2015年9月18日). 2025年9月20日閲覧。
- ^ a b c d Chinzorig, Tsogtbaatar; Takasaki, Ryuji; Yoshida, Junki; Tucker, Ryan T.; Buyantegsh, Batsaikhan; Mainbayar, Buuvei; Tsogtbaatar, Khishigjav; Zanno, Lindsay E. (2025-09-17). “A domed pachycephalosaur from the early Cretaceous of Mongolia” (英語). Nature: 1–8. doi:10.1038/s41586-025-09213-6. ISSN 1476-4687.
- ^ Madzia, Daniel; Arbour, Victoria M.; Boyd, Clint A.; Farke, Andrew A.; Cruzado-Caballero, Penélope; Evans, David C. (2021-12-09). “The phylogenetic nomenclature of ornithischian dinosaurs”. PeerJ 9. doi:10.7717/peerj.12362. PMC 8667728. PMID 34966571 .
- ^ a b c 国立科学博物館、読売新聞社 編「CHAPTER 1 茶色い丘 フレンドゥフ」『大恐竜展 ゴビ砂漠の驚異』坂田智佐子 編集協力、読売新聞社、2013年、35-43頁。
- ^ Gates, Terry A.; Tsogtbaatar, Khishigjav; Zanno, Lindsay E.; Chinzorig, Tsogtbaatar; Watabe, Mahito (2018-08-03). “A new iguanodontian (Dinosauria: Ornithopoda) from the Early Cretaceous of Mongolia” (英語). PeerJ 6: e5300. doi:10.7717/peerj.5300. ISSN 2167-8359. PMC 6078070. PMID 30083450 .
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