ゲイン余裕と位相余裕
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2020/01/27 06:16 UTC 版)
ボード線図は、負帰還増幅器の安定性を確認するため、増幅器のゲイン余裕と位相余裕を調べるのに使われる。ゲイン余裕と位相余裕は、負帰還増幅回路の利得を表す以下の式から得られる。 A F B = A O L 1 + β A O L {\displaystyle A_{FB}={\frac {A_{OL}}{1+\beta A_{OL}}}\ } ここで、AFB は帰還を含めた増幅回路の利得(閉ループ利得)、β は帰還係数、AOL は帰還を除いた利得(開ループ利得)である。利得 AOL は周波数の複素関数であり、振幅成分と位相成分がある。βAOL = −1 になることがあるかどうかで不安定性(無限の利得)があるかどうかを示すことができる(つまり、βAOL の振幅が単位元で位相が -180° となる。これをバルクハウゼン基準という)。ボード線図は、増幅回路がそのような条件を満足するかどうかを判断する材料となる。 その鍵となるのは2つの周波数である。第一はここでは f180 とされる周波数で、開ループ利得の符号が反転する周波数である。第二はここでは f0dB とされる周波数で、| β AOL | = 1(dB で表すと振幅1は0dB)となる周波数である。周波数 f180 は以下の条件で決定される。 β A O L ( f 180 ) = − | β A O L ( f 180 ) | = − | β A O L | 180 {\displaystyle \beta A_{OL}\left(f_{180}\right)=-|\beta A_{OL}\left(f_{180}\right)|=-|\beta A_{OL}|_{180}\ } ここで、縦棒は複素数の振幅(絶対値)を表す(例えば、| a + j b | = [ a2 + b2]1/2)。周波数 f0dB は以下の条件で決定される。 | β A O L ( f 0 d B ) | = 1 {\displaystyle |\beta A_{OL}\left(f_{0dB}\right)|=1\ } 不安定性への接近性の尺度としてゲイン余裕がある。位相線図を使うと βAOL が −180° に達する周波数 f180 がわかる。この周波数をゲイン線図に適用すると βAOL の振幅がわかる。|βAOL|180 = 1 なら、その増幅回路は不安定ということになる。|βAOL|180 < 1 なら、不安定性は発生しない。|βAOL|180 と |βAOL| = 1 の振幅の差(デシベル)をゲイン余裕という。振幅が1なら0dBなので、ゲイン余裕は 20 log10( |βAOL|180) = 20 log10( |AOL|180) − 20 log10( 1 / β ) と等価な形式の1つにすぎない。 もうひとつの不安定性への接近性の尺度として位相余裕がある。ゲイン線図を使うと |βAOL| が単位元(1)に達する周波数 f0dB がわかる。この周波数を位相線図に適用すると βAOL の位相がわかる。位相 βAOL( f0dB) > −180° なら、どの周波数でも不安定な状態にはならない(f = f180 のときの振幅が1未満になるため)。f0dB における位相と −180°の位相差を位相余裕という。 単に安定かどうかを問うだけなら、f0dB < f180 であれば、その増幅回路は安定である。ただし、これが成り立つのは、極と零点の位置がある条件に適合している増幅回路(最小位相系)だけである。そうでない場合も例外的に存在し、その場合はナイキスト線図などの他の手法を使わなければならない。
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