ケイリー=バッハラッハの定理
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2025/04/20 03:55 UTC 版)

ケイリー=バッハラッハの定理(ケイリー=バッハラッハのていり[1]、英: Cayley–Bacharach theorem)は数学における射影平面P2上の三次曲線に関する定理。
- 射影平面上の2つの3次曲線C1,C2が、異なる9つの点で交わっているとする。この9点のうち8点を通る3次曲線は他の9番目の点を通る。
ケイリー=バッハラッハの本質的な形式は次のように導かれる。
- 与えられた8点P1, ..., P8を通る代数的閉体上のすべての3次曲線Cは、P1, ..., P8に依存するある点P9を通る。
ミシェル・シャールは最初に円錐曲線の場合の定理を証明した。その後アーサー・ケイリーとイザーク・バッハラッハによって一般化された[2]。ケイリーの証明には、重大な見落としがあった。バッハラッハはアレクサンダー・フォン・ブリルとマックス・ネーターの研究に基づき、ケイリーの証明を改善し、1881年に正しい一般化を示した[3]。
詳細
三次曲線は二次曲線を含むため、P1, ..., P8のうち7点が円錐曲線上にあるならば、9つ目の点をその円錐曲線上に選ぶことができる。そうでない場合は次のようになる。
この場合、P1, ..., P8を通るすべての3次曲線は、同様にP1, ..., P8を通る異なる2つの三次曲線の9番目の交点を通る。ベズーの定理によれば2つの3次曲線には代数的閉包上に必ず9つの交点が存在する。
円錐曲線が1,2直線に退化したならば、退化した円錐曲線上の7点のうち、少なくとも4点は共線である。よって次の結果を得る。
一方で、P1, P2, P3, P4が共線で、8点P1, ..., P8のうちどの7点も非退化円錐曲線上にない場合を考えると、8点のうちどの5点も共線でなく、また、P5, P6, P7, P8のうちどの3点も共線でない。3次曲線は直線を含むから、P1, ..., P8(のアフィン凸錐上)で0を取る三次斉次多項式のベクトル空間は、P5, P6, P7, P8(のアフィン凸錐上)で0を取る2次元の二次斎次多項式ベクトル空間と同型である。
2次元の結果の条件とは異なるものの、どちらも、一般の位置にある場合よりも弱い結果である。上記の結果は3点が共線であること、6点が同一円錐曲線上にあることを許す場合である。 ケイリー=バッハラッハの定理の成立条件は、ただ9点を通る3次曲線の族であることが条件である。
ベズーの定理によれば、代数的閉体上の既約でない異なる2つの3次曲線は重複を含め、常に9点で交わる。したがって、ケイリー=バッハラッハの定理は、どの7点も同一円錐曲線にない8つの交点を与えたとき、曲線の族内の任意の2つの交点の最後の点は不動であることを主張する。
応用
ケイリー=バッハラッハの定理の特殊な場合にパスカルの定理がある。パスカルの定理は円錐曲線上に6点P1, ..., P6を取ったとき、P1P2とP4P5、P2P3とP5P6、P3P4とP6P1の交点は共線であるという定理である。3次曲線の1つを3直線に退化させ、6つの交点を円錐曲線上に配置すれば、(もう一方の3次曲線をその円錐曲線とある1本の直線として)ケイリー=バッハラッハの定理より残り3つの交点が共線になる。
パップスの六角形定理は、上述の円錐曲線をさらに2直線に退化させることで示される。
ケイリー=バッハラッハの定理の上記の3番目の場合は楕円曲線の点の加法性により証明できる。1つめの3次曲線を3直線BC, O(A+B), A(B+C)とする。8点A, B, C, A+B, -A-B, B+C, -B-C, Oは、2つの3次曲線の共通の点である。9つ目の点は-A-(B+C)=-(A+B)-Cとなって一致する。
次元の勘定
ケイリー=バッハラッハの定理と、それが3次曲線で起きる理由は次元の勘定から説明できる。9つの点は一意的な三次曲線を決定する。したがって、9つの点が2つ以上の3次曲線上にある場合、つまり2つの3次曲線の(3 × 3 = 9つの)交点である場合、この点らは一般の位置にはないこと、1次元の過剰な決定 があることを意味する。そして、この9点を通る3次曲線は"eight implies nine"という特性を満たすように、さらなる条件を満たす。これを一般に過剰度(superabundance)という。過剰度については曲面のリーマン・ロッホの定理を見よ。
詳細
形式的には、まず、d次の2つの曲線が与えられたとき、方程式の線型結合でそれらがd次の束(1変数の線形システム)を成すことを考える。これは曲線の母数空間(あるいは単に射影空間)上の射影直線を決定する2点に対応する。
ケイリー=バッハラッハの定理は高次においても起こる。これはd次の2曲線の交点の個数d 2が 次数dの曲線を決定する点の個数より早く成長するためである。次数dの曲線を決定する点の個数は次式で与えられる。
- Michel Chasles, Traité des sections coniques, Gauthier-Villars, Paris, 1885.
- Bacharach, Isaak (1886), “Ueber den Cayley'schen Schnittpunktsatz”, Mathematische Annalen (Berlin/Heidelberg: Springer) 26 (2): 275–299, doi:10.1007/BF01444338, ISSN 0025-5831
- Cayley, Arthur (1889), On the Intersection of Curves, Cambridge: Cambridge University Press
- Edward D. Davis, Anthony V. Geramita, and Ferruccio Orecchia, Gorenstein algebras and Cayley–Bacharach theorem, Proceedings of the American Mathematical Society 93 (1985), 593–597.
- David Eisenbud, Mark Green, and Joe Harris, Cayley–Bacharach theorems and conjectures, Bulletin of the American Mathematical Society 33 (1996), no. 3, 295—324. MR 1376653
- Katz, Gabriel. "Curves in cages: an algebro-geometric zoo". arXiv:math/0508076。
- Qingchun Ren, Jürgen Richter-Gebert and Bernd Sturmfels (2015). Cayley–Bacharach Formulas. The American Mathematical Monthly
外部リンク
- Weisstein, Eric W. "Cayley-Bacharach Theorem". mathworld.wolfram.com (英語).
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