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トスク方言

(アルバニア語トスク方言 から転送)

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2025/05/17 16:23 UTC 版)

トスク
toskërishtja
話される国 アルバニアイタリアギリシャコソヴォトルコマケドニア共和国
創案時期 2011年国勢調査
地域 東ヨーロッパ
話者数 3,108,200人/1.8 百万人
言語系統
初期形式
方言
Northern Tosk(北トスク語)
Southern Tosk(南トスク語)
アルベレシュ(英語版) aae
チャム(英語版) als-cam
マンドリツァ(英語版)
表記体系 アルバニア翻字英語版、旧称エルバサン翻字
言語コード
ISO 639-3 als
Glottolog alba1268[2]
tosk1239[3]
Linguasphere 55-AAA-aca から 55-AAA-ace まで
テンプレートを表示
アルバニア語の方言分布。
凡例:トスク語話者=茶系の配色のうち最も薄い2色。

トスクアルバニア語: toskërishtja)、あるいはトスク方言(トスクほうげん)は、アルバニア語の方言のひとつでトスク人英語版と呼ばれる人々の言語。アルバニア語の方言はアルバニア中部を流れるシュクンビン川を境に、北側のゲグ方言(ゲグ人[注釈 1])と南側のトスク方言に大きく分かれる。トスク方言を基盤に標準アルバニア語が発達した[要出典]

トスク語を話す主要な集団はミゼカル人(ミゼケ英語版)、ラブ(英語版)ラベリア英語版)、チャム英語版Çamëria)、アルヴァニテス(ギリシャ)、アルベレシュ(イタリア)およびマンドリツァ(ブルガリア先住民)を含む。北マケドニアの話者は1980年代初頭におよそ3000人を数えた[5]

特徴

  • R音音変化アルバニア祖語英語版*-n--r- になる(例:「砂」はrëra
  • トスク方言の mbngjnd のグループは、ゲグ方言の mnjn に同化[6]
  • アルバニア祖語の ōva になる。
  • 鼻母音:鼻母音がない(例:「目」はsy)。後期アルバニア祖語の に鼻音を加えると ë' になる
    • 例:数字の「9」はnëntë
  • e 母音:e 音は ë 音になる。単語の変種が重なると、qen はヴョセ地方で qën になる。
  • ë 母音:ë は方言によって発音が異なる。トスク方言の多くは末尾の を省略して直前の母音を長く伸ばす。ラベリシュト方言でVunoiVuno)村のある「Vlorës 地方」などの ë はより後置される。
    • 「子馬」のmëz[mʌz] に変化)。
  • y 母音:アアルヴァニティック語アルベレシュ(英語版)、ラベリシュト語(Labërisht)、チャム語(英語版)では、しばしば「y」母音を「i」音にする。
    • 例:数字の「2」を指すdydi になる。
  • DhLl:これらの音は、一部の単語や変種で入れ替わることがある。
  • H:この文字は一部の方言で位置に関わらず消えて発音しない。
  • Gl / Klqgj の代わりに klgl を保つのは、チャム語、アルベレシュ語、アアルヴァニティック語の一部の変種。
    • 「舌」のgjuhë はチャム語で gluhë、シキュロ・アルベレシュ語で gluhë、アアルヴァニティック語で gljuhë
    • qumësht :アルベレシュ語では「ミルク」は klumësh
  • Rr: 一部の変種では Rrr になる。

トスク人

「トスク」という単語は、トスク方言を話すアルバニア人のことをも示す。この人々は主にアルバニア南部に住み、さらにその下位にはミュゼチェのミュゼチャル人(Myzeqe・Myzeqar)や、チャメリアに住むラベリア(英語版)のラブ人(Lab)などがある。イタリアのアルベルシュ(Arbëreshë)やギリシャのアルヴァニテス( Arvanitëtギリシア語: Αρβανίτες / Arvanites)と呼ばれる人々はトスク人の子孫であり、ブルガリアイヴァイロヴグラト英語版村(マンドリツァ)を築いた住民もトスク人で、村民およそ70名(2006年時点)の一部はトスク系の方言を話す。

「トスク」の語の最も狭義の用法として、ヴョセ(Vjosë(英語版))の北、シュクンビン川の南にあたるトスケリア(フィエル州Toskëria)の人々のみを指す場合もある。それでいて「トスケリア」もまた「トスク」と同様に、トスク方言を話す地域全体を表す場合もある。その対義語として、ゲグ方言を話す地域はゲゲリア(Gegëria)と呼ばれる。

アルバニア国外のトスク人

イタリア南部のパラッツォ・アドリアーノは、オスマン帝国の進攻を受けたアルバニア人が海外難民となり住みついた町の1つ。西ローマ教会が大半を占めるイタリアにありながら、この町の中心部の教会はいまだに中世の東ローマ帝国典礼を守る。ワイン生産などアルバニア南部やギリシャと共通し、アルバニア語方言を使い「プラルアール」(〈黄金色の〉)と呼ばれるブランドの白ワインを生産する[7]

言語名別称

  • トスク・アルバニア語
  • Arnaut[8]
  • Shkip[9]
  • Shqip
  • Shqiperë
  • Skchip
  • osk
  • Zhgabe

方言

種別 ローマ字翻字 ISO
コルチャ方言 Korca[12] als-kor
チャメリア方言 Camerija als-cam
アルバナシ方言[14] Arbanasi[注釈 2][18] als-arb
スレム方言[21] Srem als-sre
シルミア方言[22][23][24] Svrmia
ザダル方言[25]

[26][27]

Zadar

ギャラリー

脚注

注釈

  1. ^ ギリシャの巨人に由来する北の民「ゲーグ」(ゲグ)という呼称は、瘦せて長身の山びとをさす[4]
  2. ^ 表記は北ゲグ語(Arbën, Arbëneshë, Arbënue)と南ゲグ語(Arbër, Arbëreshë, Arbëror)で異なる[15][16][17]

出典

  1. ^ Hyllested, Adam; Joseph, Brian D. (2022). Olander, Thomas. ed. Albanian. Cambridge University Press. pp. 223-245. https://www.cambridge.org/core/books/indoeuropean-language-family/albanian/235881199CF63D7E9D60E32DA7362DD9 2024年6月25日閲覧。 ISBN 978-1-108-49979-8
  2. ^ Hammarström, Harald; Forkel, Robert; Haspelmath, Martin et al., eds (2016). “Albanian-Tosk”. Glottolog 2.7. Jena: Max Planck Institute for the Science of Human History. http://glottolog.org/resource/languoid/id/alba1268 
  3. ^ Hammarström, Harald; Forkel, Robert; Haspelmath, Martin et al., eds (2016). “Northern Tosk Albanian”. Glottolog 2.7. Jena: Max Planck Institute for the Science of Human History. http://glottolog.org/resource/languoid/id/tosk1239 
  4. ^ 石田 1939, pp. 60 コマ
  5. ^ Fraenkel, Eran; Kramer, Christina Elizabeth (1993). Language Contact - Language Conflict. P. Lang. p. 36. https://books.google.com/books?id=1cAbAQAAIAAJ&q=Tosk+albanians. "Thus, for example, even the small numbers of Tosk Albanians of southern North Macedonia (only approximately 3,000 in the early 1980s) [例えばマケドニア共和国南部の少数民族トスク・アルバニア人(1980年代初頭に約3000人)ですら。]" ISBN 9780820416526
  6. ^ Orel, Vladimir E. (1998). Albanian etymological dictionary. Leiden: Brill. ISBN 9789004110243 
  7. ^ イル・チェンソ”. 湘南ワインセラー. 2025年5月17日閲覧。
  8. ^ 『厨川文夫著作集』下 1981, p. 115
  9. ^ 在アルバニア日本国大使館 (2018年2月13日). “日本語アルバニア語辞書の寄贈”. 外務省. 2024年6月1日時点の[www.al.emb-japan.go.jp/itpr_ja/00_000145.html オリジナル]よりアーカイブ。2025年5月17日閲覧。 “(平成30年2月13日)伊藤大使はレコ・ディダ・ティラナ工科大学日本語講師より同講師が国際交流基金の協力を得て刊行した日本語アルバニア語辞書20冊の寄贈を受けました。”
  10. ^ 石田竜次郎 ほか 編『世界地理』 第12巻、河出書房、昭14年-15年、59 コマ頁。 
  11. ^ Vladimira Dali͡a I-O; Dalʹ, Vladimir Ivanovich (昭和9年). “Aanb YTO, Tosk. Cxogayb. Xy.IITTb, 14 [Aanb YTO、トスク。チョガイブ。 Xy.IITTb、14]”. In I.A. Boduėna-de-Kurtene; I・A・ボドゥエナ・デ・クルテネ (ロシア語). Tolkovyĭ slovar zhivogo velikorusskago i͡azyka [生きたヴェリコルスカ・イアジカ辞典の解釈 : その別の意味] (3., ispr. i znachitel'no dop. ed.). pp. 109 コマ. doi:10.11501/1675319. NDLJP:1675319国立国会図書館書誌ID:000006165744 国立国会図書館デジタルコレクション。著者の ウラジーミル・ダーリ(Vladimir Ivanovich Dalʹ)は1801年生-1872年没。キリル語表記、原書はモスクワ(M. O. Vol'f、1903年9月)
  12. ^ コルサ Korca は国境に近くアルバニア第一の馬市が立つ[10]。ウラジーミル・ダーリによる論考[11]
  13. ^ 香山陽坪『ブルガリア歴史の旅』新潮社〈新潮選書〉、1981年11月。 
  14. ^
    • 82頁(46 コマ):アルバナシ村:翌27日朝、(中略)南エピルス(ギリシア)からアルバニア人の移住があり、17世紀には海外貿易(略)
    • 83頁(47 コマ):アルバナシ村のあたりはもっと高いと思われる。町の手前には例の高層住宅が立っており、町の中に入ると、石を敷きつめ、中央に噴水のある広場があった。
    • 6 コマ:ノヴォタルノヴォ再訪:アルバナシ村:血ぬられた部屋
    • 131 コマ:アラジャ修道院 110 ; アルバナシ村 82-83 ; アンキアロス(後略) [13]
  15. ^ Lloshi 1999, p. 277
  16. ^ Demiraj 2010, pp. 534
  17. ^ Cole, Jeffrey E. (2011) (英語). Ethnic Groups of Europe: An Encyclopedia. p. 15 
  18. ^ 足利記念東海大学バルカン・小アジア研究センター(編)『バルカン・小アジア研究』第17号、東海大学出版会、1990年7月、doi:10.11501/7954185ISSN 0389-2093NDLJP:7954185 国立国会図書館デジタルコレクション
  19. ^ 直野 1987, pp. 10 コマ
  20. ^ 直野 1987, pp. 15 コマ
  21. ^ スレム Srem のフルシュカ・ゴラ山 fruska Gora にあるセルビア系修道院[19]、14) Sremski karlovci[20]
  22. ^ 『朝日=タイムズコンパクト版世界歴史地図』, pp. 96 コマ, 中心地Svrmia シルミア
  23. ^ アンセル 1965, pp. 81 コマ, 「学者ろば」の言い争いは、セルビアはスレム(シルミア)・ボスニアをめぐってたがいに争っていた。
  24. ^ アンセル 1965, pp. 82 コマ, シルミアの司祭(1849)であった。
  25. ^ 『朝日=タイムズコンパクト版世界歴史地図』, pp. 98 コマ, zantezadar ザダル
  26. ^ 『朝日=タイムズコンパクト版世界歴史地図』, pp. 89 コマzadar ザダル
  27. ^ アンセル 1965, pp. 83 コマ, リエカ(フィウメ)とザダル(ザラ)の決議

参考文献

主な執筆者、編者の順。

  • 折田昌子 ほか 訳『朝日=タイムズコンパクト版世界歴史地図』ジェフリ・バラクラフ 総監修、朝日新聞社、1984年7月、89コマ、96コマ、98コマ頁。doi:10.11501/12143804全国書誌番号:84047041 原題『The Times concise atlas of world history』参考文献・資料: p152。
  • 、Ancel, Jacques 著、山本俊朗 訳『スラブとゲルマン : 東欧民族抗争史』弘文堂、東京〈フロンティア・ライブラリー〉、1965年。doi:10.11501/2992332NDLJP:2992332 国立国会図書館デジタルコレクション。Ancel, Jacques(1882-1943)、山本 俊朗(1920-)
  • 安東伸介 ほか 編『厨川文夫著作集』 下巻、金星堂、1981年2月。doi:10.11501/12581513NDLJP:12581513。「dancrat, p.19 ; daniel, pp.62, 65, 274-275, 302 ; n daniel, Arnaut, p.115.」 国立国会図書館デジタルコレクション。
  • Demiraj, Bardhyl (2010). “Shqiptar-The generalization of this ethnic name in the XVIII century”. In Demiraj, Bardhyl. Wir sind die Deinen: Studien zur albanischen Sprache, Literatur und Kulturgeschichte, dem Gedenken an Martin Camaj (1925-1992) gewidmet [We are his people: Studies on the Albanian language, literature and cultural history, dedicated to the memory of Martin Camaj (1925-1992)]. Wiesbaden: Otto Harrassowitz Verlag. pp. 533-565. https://books.google.com/books?id=bmIVOGu0WWEC  ISBN 9783447062213
  • Lloshi, Xhevat (1999). “Albanian”. In Hinrichs, Uwe; Büttner, Uwe. Handbuch der Südosteuropa-Linguistik. Wiesbaden: Otto Harrassowitz Verlag. pp. 272-299. https://books.google.com/books?id=Phyvk2tPaYQC  ISBN 9783447039390
  • 直野敦『ユーゴスラヴィア各民族語における標準語の成立と民族問題の研究』1987年3月。doi:10.11501/12576409全国書誌番号:87045527NDLJP:12576409 国立国会図書館デジタルコレクション。昭和61年度(1986年度)科学研究費補助金(一般研究C)研究成果報告書。

関連項目

50音順。

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