たてよこに富士伸びてゐる夏野かな
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季 語 |
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季 節 |
夏 |
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前 書 |
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評 言 |
『樹影』(平成三年 立風書房)所収。 平成四年、桂信子は第八句集の『樹影』により第二十六回蛇笏賞を受賞する。 掲出句と奥村土牛という日本画家が描いた富士山の作品がわたしのなかでいつも重なる。省略が効いた上品な作風が共通しているからだろうか。 「夏野」という季語が富士山の裾野に広がる夏草の青々と茂った野原を想像させ、草いきれまでも感じさせる。視覚的にも大きくそびえる富士山と近景の野の広がりが、雄大で美しく、生命力に溢れた作品だ。 みんなが良く知っているものにはこまかい説明はいらないという良い例なのかもしれない。それぞれが自分のなかに在る「富士山」を自由に思い描き、イメージの世界にのびやかに遊ぶ楽しさが先の俳句にはある。 また、掲出句の前後には、 藻の花に音なく富士の顕ちにけり 山霊に囲まれて居り青蜥蜴 弓射よと夏野にそよぐ一樹あり 遠富士へ萍流れはじめけり などの句があり、どの俳句も眼前にその景がありありと浮かんでくるようだ。それはたとえば、小さな藻の花と日本で一番高い富士山とのコントラストだったり、また、「弓射よ」と宣言するかのように立つ一本の樹を詠うことで表現している広い野原だったりする。そして、ここでいずれの俳句にも共通していることは、どの光景にも清々しい風が吹いているということだ。 |
評 者 |
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備 考 |
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