いなびかり象は象舎のほか知らず
作 者 |
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季 語 |
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季 節 |
秋 |
出 典 |
光まみれの蜂 |
前 書 |
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評 言 |
いま、自然界では象はアジア象及びアフリカ象、マルミミ象の2属3種が熱帯地方に生息しているのみである。 掲句の象は、多分どこかの動物園に飼育されている比較的おとなしいアジア象ではなかろうか。象は、本来群で生活しており、率いているのは雌象という。 想像をめぐらせれば、動物園生まれ、動物園育ちのものではなかろうか。こういった環境では自然繁殖は極めて少いという。この象の世界は象舎のみ。群を知らず、父を知らず、リーダーとしての母象の姿を見ることもなく、砂漠を歩む感触も草原の匂いも知らない。象舎という狭い空間、足に結びつけられている太い鎖。外の世界を知らないから満足しているのか、はじめから諦めているのか。皺の奥の小さすぎる眼からは何も窺えない。 「いなびかり」不安と不吉の象徴のようだ。鉄柵を隔てて対峙している象と作者。 思えば私達人間も、地球という限られた環境に生息させられている生きものの一つにすぎない。そこを統べている大いなる手を知らないだけである。 集中、象の句がもうひとつ。 食べて寝ていつか死ぬ象冬青空 「冬青空」がいい。日に150キロほどの草と、100ℓもの水を宛がわれ、快適な寝藁も用意されている。象は知らない。このおだやかな時間も必らずいつか断たれるということを。明日も出来るのを信じ食べ寝る。 写真提供=フォトクラブ吉川 |
評 者 |
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備 考 |
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