過酸化水素
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生産
過酸化水素(100 %相当)の2016年度日本国内生産量は 17万5673 t、工業消費量は 1万5747 t である[16]。今日では、一般的にアントラセン誘導体の自動酸化を利用して生産が行われている[17]。2-エチルアントラヒドロキノンもしくは2-アミルアントラヒドロキノンを溶媒に溶解し、空気中の酸素と混合するとアントラヒドロキノンが酸化されてアントラキノンと過酸化水素が生じる。ここからイオン交換水を用いて抽出し、アントラキノンと過酸化水素を分離する。分離後、わずかに混入している有機溶媒を除去し、さらに減圧蒸留することにより高濃度(30〜60 %)のものを得る。副生成物であるアントラキノンをニッケルまたはパラジウム触媒を用いてアントラヒドロキノンに還元して再利用する。アントラヒドロキノンの酸化の際に側鎖が酸化されたり、還元の際に芳香環が還元されてしまうことがあり、それぞれ適切な再生処理が必要である。本法ではアントラキノンをいかに効率よく循環・再生使用できるかが重要となる。
硫酸または硫酸水素アンモニウムの水溶液を電気分解して生じるペルオキソ二硫酸 (H2(SO4)2)2− を加水分解することによる生産法も行われていたが、電力消費などの理由から現在ではあまり行われていない。
2005年現在、工業的な利用量が増え続けており、アントラキノン法に代わる安価な製造法、精製法の研究開発が各所で進められている。実験室レベルの研究については、合成研究の項で述べる。
合成研究
工業的にはアントラキノン法がよく用いられる。しかし、アントラキノン法は、多段プロセスであること、有機溶媒を必要とすること、副反応を起こしたアントラキノンの再生が必要であること、など多数の問題があり、過酸化水素が高価になる原因となっている。そのため、新しい過酸化水素合成法の開発が切望されている。
他の合成法にパラジウム触媒を用いた合成法と燃料電池反応法がある。
パラジウム触媒を用いた合成法
Pd(-Au)/CまたはPd(-Au)/SiO2触媒を用いてハロゲン化物イオン存在下、酸性条件で酸素と水素を直接反応させる。古くは、徳山曹達(現・トクヤマ)がPd/SiO2触媒を用いて、高圧の酸素と水素を反応させると過酸化水素が高濃度で蓄積できることを特許取得している[18]。またデュポンも同様にPd触媒を用いた合成法を特許取得している[19]。最近では、石原らはPd-Auコロイド触媒を適切に調製することにより、ほぼ100 %の選択性で過酸化水素が生成することを報告している[20]。酸素0.5気圧、水素0.5気圧の混合ガスを用いて、2時間反応させたところ0.4 %の過酸化水素水が生成したとしている。本触媒系一般の問題点として、酸素と水素を直接混合するため爆発の危険性があること、過酸化水素を高濃度で蓄積するためには加圧が必要であること (1気圧では最高で1 %〜2 %)、生成する過酸化水素水には酸や塩が含まれることが挙げられる。
特に爆発の危険性の問題は重大であり、この危険性を回避するため、反応速度を犠牲にして水素と酸素の混合比を爆発範囲から外す方法のほかに、酸素と水素をパラジウム薄膜で隔てた合成法がChoudharyらにより提案されているが、パラジウムが水素透過能を示すのは通常遥かに高温であり、単に膜に穴が開いていることが疑われることに加え、過酸化水素生成速度が極めて遅いなどの難点がある[21]。
燃料電池反応法
酸素-水素燃料電池では通常は発電を目的とし、酸素を水にまで還元させるが、適切な触媒を選択することにより酸素を過酸化水素に選択的に還元する方法が提案されている[22]。燃料電池反応法では酸素と水素は電解質に隔てられているため爆発の危険性が無いことが利点して挙げられる。まず酸水溶液中での過酸化水素の合成[23] および塩基性での過酸化水素合成[24][25] が報告された。特に塩基性では高効率で過酸化水素が生成したと報告されているが、これらの反応系ではパラジウム系と同様に生成する過酸化水素水に電解質が含まれるという難点を持つ。しかし、最近ナフィオン膜を用いた電解質を含まない過酸化水素水の直接合成法が提案された[26]。1気圧の条件であるにもかかわらず、コバルト触媒の回転数 (ターンオーバー数)は8時間で40万に達し、生成する過酸化水素濃度は14 %と非常に高い。本反応系の問題点として、効率が約40 %(残りは水)と十分ではないことが挙げられる。
光電気化学法
光触媒を使用した光電気化学法による過酸化水素の合成法が研究されている[27][28]。
事故
- 1980年3月18日にソビエト連邦のプレセツク宇宙基地で、ターボポンプ駆動用の過酸化水素を充填中のボストーク-2Mロケットが爆発事故を起こし、48人が死亡した。原因はステンレス製フィルターをはんだ付けする際に純粋な錫ではなく鉛を含有する電子部品用のはんだを使用した事だった。鉛自体には過酸化水素を分解する触媒能はないが、鉛の酸化物は強力な触媒として作用する[29] ため過酸化水素の分解が急激に進んで爆発に至ったのである。
- 1999年10月29日には首都高速2号目黒線を走行中のタンクローリーが爆発し、積み荷の過酸化水素水溶液が飛散した。飛散した過酸化水素水溶液により、一般道路の歩行者が目の痛みと皮膚のただれを訴えるなどした[30]。このタンクローリーは普段は塩化銅を含む廃液の運搬に使用されており、残留していた金属成分により過酸化水素の分解が進み爆発した[31]。このように過酸化水素は遷移金属により容易に分解されるので、注意が必要である。
- 2000年8月12日にバレンツ海で原子力潜水艦クルスクに搭載されていた魚雷に溶接不備があり、ここから推進剤である過酸化水素が漏れて爆発した。不運にもこの爆発で魚雷の弾頭が誘爆し、魚雷発射管室から浸水してクルスクは沈没した[32][33][34]。
- 2008年(平成20年)3月3日時点で日本海沿岸地域に漂着が確認された、約4万個に及ぶポリタンクの多くから塩酸、過酸化水素水、酢酸、硝酸などが検出された[35]。このため環境省は海岸に漂着した廃ポリタンクに安易に触れないよう、注意を呼びかけた[35]。また、このうち約1万6000個にはハングルが見られたため、外務省は発生源の可能性がある韓国政府および韓国の担当行政機関に対し、外交ルートを通し公式に情報提供を行い、実態把握と原因究明、及び漂着ごみ削減のための更なる努力を要請した[35]。
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